ディスカバリー・オブ・ウィッチクラフト(魔法の解明)
小澤洋一
1584年に英国で出版された本書は、現存する世界最古のマジック文献である。本書は16巻から構成され、マジック関係は第13巻、第12章~34章に詳細に解説されている。具体的には基本技術の紹介も含め、64項目の内容となっている。
従来の情報では「著者がマジックの種明かしをした目的は娯楽のためにではなく、魔女の力だと思われる不思議の技は人間の手で合理的に行いうることを証明するためであり、彼はこの本を書くまでは奇術のことは何一つ知らなかった」(松田道弘著「トリックスター列伝」)というものであった。
しかしながら本書を通読した結果以下の事実が判明した。
(1) 彼がこの本で紹介した全てのマジックは「魔女の魔法」とは全く異なり、魔女を救うためではなく、むしろ娯楽(アート)としてのマジックを紹介したと言える。(ごく一部、無理に魔女と結びつけた表現はある。)
(2) スコットは1000の手品を知っており、演じることも教えることもできるマジック研究家であった。(当時すでに数千のマジックがあったと推測される)
(3) 現在と同じように職業手品師(juggler、conjurer、charmer)が活動しており、マジック・グッズの販売もされ、マジック関係の本もあった。
著者レジナルド・スコット(1538~1599)はオックスフォードで法律を学び、ケント州の治安判事を務め、1578~1584年のある期間、長官(知事)の地位に就いた。
1582年のセント・オーシーズの魔女裁判(2人が絞首刑)を契機に増加した魔女訴訟に危機感を持ったスコットは、何年も取りとめなくノートしてきた研究テーマを1年でまとめ上げ、急ぎ本書を出版した。この本の主旨は「魔女は存在しない」ことの証明にあり、後年、国王ジェイムスⅠ世はこの本を「異端の書」として全てのコピーを燃すよう命じた。
確かに、この本の前半部分は魔女とその魔法の関係記述であるが、後半、特にマジック関係は「魔女の魔法」とは全く関係のないアートとしての紹介であり、彼の長年の研究成果(の一部)を発表したものとみなすのが正しい。
以下に内容を抜粋要約して紹介する。
1.64項目中の面白いもの26項目の抜粋・要約(番号、名称は原文には無い)
No. | (仮)名称 | 内容 |
5 | ブランドンの鳩 | 手品師ブランドンが絵の鳩を突き刺すと屋根から落ちる。 |
9 | カップ&ボール | 消え、集まり、変わる。古代から今に伝わるマジック。 |
14 | コインを消す | 右手から左手へ、そして消える。ナイフの音を使う。 |
20 | コインが目の前で移動 | 女性の長い黒髪をコインの縁に付け引っ張る。 |
21 | コインのテーブルの貫通 | ハンカチにコインを縫い付ける。ハンカチのコインが消える。 |
22 | カウンターからコインへ | ギミックコイン(片面カウンター)使用。 |
23 | コインを消す | ワックスを中指の爪に置く。 |
24 | コインが集まる | ワックスを親指の腹に付ける。 |
29 | ハンカチに置いたものが | 巻いて開くと別のものになる。現在の入門書によく出てくる。 |
30 | 紙に包んだ物が別の物に | 折りたたんだ紙を2枚背中合わせに貼る。 |
32 | 4Aが4Jに | 配った4枚のAがいつのまにかJに。 |
34 | カードを見ないで当てる | 客がシャッフルしたボトムカードを・・ |
37 | ハンカチの結び解け | しっかり結んだのにハラリ。 |
38 | ビーズ玉と紐 | 3ケのビーズ玉が紐からするり。おばあさんの首飾りの原典。 |
39 | 十字架(表)か杭(裏)か | 共謀者が客の選択(コインの表裏)を質問の形で知らせる。 |
45 | 箱の中身の変化、消失 | しかけ底、ひっくり返すと別のもの。 |
48 | パンを食べて粉を出す | 最後の一切れで粉を包んだものを口に運ぶ。 |
49 | 棒の位置変わり | 3つの穴のある木皿に棒を突き刺す。棒の位置が変わる。 |
50 | 糸を燃やして復活 | 復活する糸を巻いてパーム。 |
51 | 紐の中央切り | 短いU字紐をパーム。紐の中央切りのオリジナル。 |
53 | カラーリング・ブック | 7色の変化、クラービスの発明。すでに販売されていた。 |
57 | 千枚通しを舌に突き刺す | 真中に曲がりのあるギミック使用。 |
58 | ナイフで腕を切る | 刃にカールのあるギミックナイフ使用。 |
61 | 唇にリングをつける | 切り欠きのあるリングをパーム。 |
62 | 首を切って大皿にのせる | 洗礼者ヨハネの打ち首。カッパーフィールドも演じる。 |
63 | 腹に千枚通しを突き刺す | プレートと偽腹の間に血の詰まった袋を装着。 |
2.特記事項:本文中から抜粋
(1) 手品のアートの基本はスライハンドにある。1つはボールを運び隠すこと、2つ目はコインの変化、3つ目はカードのシャフリングである。これらの技術のエキスパートは他の手品師より客に大きな喜びを与えることができる。さて、手品師の唯一つの意図は人の目と判断を誤らせることであり、このアート固有のトリックを理解することが大切である。(第22章)このアートが年齢、民族、人種を通して、制限なく自由に広まることを望む。(第34章)
(2) 1000の手品があり(第33章)、コインについては驚くほど多くの手練技がある。(第25章)ひとたび1枚のコインを右手に保持する技術を身につけると、100のうれしいトリックを行うことができる。(第24章)ボールに関しても、工夫は無限にあり、上手にあやつれば100の手練技を見せることができる。(第23章)
(3) 共謀者を用いることは、未知のことであれば、不思議だと称賛され、既知のことであれば、あざ笑われる。結局、何も尊敬されない。(第24章)
(4) 大きなミラクルの中に小さな、楽しい、つまらないものを混ぜることが常に必要である。(第25章)
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