“Sphinx Legacy” 編纂記 第50回
加藤英夫
出典:”Sphinx” 1925年2月 執筆者:George F. Schulte
MAGICAL MISTAKES
‘マジシャンの犯す間違い’というタイトルですが、他の要素が混ざった文章なので、他のマジシャンの演技を見て、間違いを見つけるということに関する部分だけを抜き出しました。
We all make them, but cannot see them as others do. Therefore constructive criticism is always very beneficial to anyone who knows its value. The truth is sometimes hard to take, but after taking, it has a wonderful effect. Better magic is accomplished through honest criticism, take suggestions, you’re making a magical mistake if you don’t. Of course we cannot all be a Herrmann or Kellar. But we can at least be a good magical entertainer. This, we all know, requires time, thought and study.
[中略]
If magic is your game, you’re making a mistake if you miss any magic act or magician that comes your way. Observation is good experience, seeing what others are doing and how they go about it has an educational value on which it is difficult to set a- price. Writers improve by reading the writings of others, and so it is with conjuring. The ways of other conjurers teach us many things in the way of suggestions.
If you think you know it all, you’re making the biggest mistake of your life. No one ever lives long enough for that. Very few have ever mastered every branch of the magician’s art. To be a master of sleight of hand, a great magician, a peerless patterist and a master showman would be a gift of the gods.
[後略]
“人は誰でも間違いを犯すが、他人が見たら間違いとわかるものでも、自分ではわからないことがある”という書き出しで始まっています。この指摘はまさに私が思い続けてきたことを裏付けてくれるものです。私はずっと、マジシャンにはコーチが必要であると思い続けてきました。それは初心者を上達させるためのコーチという意味ではなく、Mr.マリック師が博品館公演のリハーサルのときに、私に客席から見ていて気づいたことを教えてください、と言われたようなレベルの高いコーチングの話です。
なぜ一流のマジシャンでもコーチに見てもらうことが望ましいのでしょうか。それは大別すると2つの理由があります。ひとつは、マジシャンは観客席の方から見るように、自分の動作全体を見ることができないということです。これはビデオで撮影すれば、ある程度は対応できることです。
しかしながらふたつ目の理由は、絶対にマジシャンにはできないことです。それはマジシャンが何をやるか知らない、どうやってやるか知らない立場でマジシャンの演技を見ることは絶対にできないということです。見ることができないだけでなく、観客の立場になって感じること、考えることができないということです。
わかりやすい例をあげます。シルクをたくさん出現させて、テーブルからウォンドなどを取り上げるときに、シルクの陰に何かをスチールするやり方があります。マジシャンは右手がウォンドを取り上げるときに、左手がテーブルの陰に入るのは、動作として不自然ではないと思います。しかしながら客席からは、左手がテーブルの陰に入ったのがよく見えます。
もっと低レベルでのマジシャンの間違いを見て勉強するには、今日のYouTube動画ほど便利なものはありません。多種多様な間違いを見ることができます。上級者にはほとんど参考にはならないかもしれませんが、初心者に指導するときに、「このようにやってはいけません」と教えるのに使える教材がたくさんあります。
本当は様々な種類の間違いが含まれた動画のアドレスをリストアップして、何が間違いかを列挙すると面白いとは思いますが、当書編纂に時間をかけなければならないので、それはまたの機会に残しておきましょう。
最後にひとつ思いつきました。演技を客席の方から見て意見を言う場合、マジック経験者ではなく、マジック非経験者で、なるべく洞察力のある人にもいっしょに見てもらい、「どこが怪しく感じましたか」というように尋ねると、マジック経験者では気づかないことを指摘されることがあると思います。
私の妻はマジックをやりませんし、どちらかというとマジックが好きではありません。それでも私の撮影した動画を見てもらって、するどい指摘をされたことは何回もあります。
コーチが重要な存在であることは、マジックの世界にかぎったことではありません。ゴルフの歴史的な名選手であった、ジャック・ニクラウスの語ったことは、読む者にぐさっと突き刺さる明言です。ヤフーニュース(2013年5月20日)から、今岡涼太氏が書いた文章をお読みください。
石川遼にコーチは必要か?
最近は好調なプレーを見せる石川遼だが、まだまだ向上の余地はあるはずだ。「HPバイロンネルソン選手権」で、ツアー2年目にして初優勝を飾ったベ・サンムンは、今年1月末の「ウェイストマネジメント フェニックスオープン」から、プロコーチのリック・スミスに師事し、自身のゲームに磨きをかけてきた。サンムンは「スイングも良くなったし、ショートゲーム、パッティング、バンカーショットも良くなりました。アリゾナからですが、時間が要りますね。すぐに良くはならない。でも、今は自信があります」と2日目を終えて話していた。
スミスは、特にスイングでの下半身の動きを修正したという。今までは体の正面に流れがちだった腰をしっかりと飛球線方向の動きに制限して、インパクトでクラブが働くスペースを確保する。それにより、今ではドローもフェードも好きな球筋が打てるようになったという。
普段は週に数度、今週は一週間帯同して、みっちりとサンムンのスイングをチェックし、結果的に勝利へとつながった。コーチの力がすべてでは無いのは当然だが、プラスに働いたことは否定できない事実だろう。
先週の「ザ・プレーヤーズ選手権」の会場では、14歳のグァン・ティンランがショーン・フォーリーのもとを訪れた、という話を聞いた。今後、どのような関係になっていくのかは定かではないが、中国、韓国の選手が積極的に一流コーチを求める姿は、日本人とは少し思考が違うように感じられる。
ご存じの通り、父親がコーチである石川遼だが、もちろんプロのコーチではないし、普段のトーナメントに終始帯同している訳でも無い。そんな彼に、コーチは必要なのだろうか?
これまで、ジャック・ニクラス、フィル・ミケルソン、グレッグ・ノーマン、ローリー・サバティーニなど数々の有名選手を指導し、メジャーも含め80回~90回は優勝に絡んでいるというスミス。彼に石川がプロコーチと契約していないことを伝えると、「ああ、それは知っている」と言って、ひとつのエピソードを教えてくれた。
「僕は、ジャック・ニクラウスとも10年近い付き合いがあるんだけど、ある時ジャックに聞いたんだ。『君はとても素晴らしいプレーヤーだけど、どうして僕が必要なんだい?』。するとジャックはこう言った。『だって、自分自身を見ることはできないからね』」。
コーチを解任してから絶不調に陥った、あるゴルフプレイヤーに、ジャック・ニクラウスのこの言葉を届けたいものです。
(つづく)