“Sphinx Legacy” 編纂記 第76回
加藤英夫
“Sphinx Legacy”全巻の公開に先立ち、見本として第 1 巻(511 ページ)を無償提供しています。以下をご参照ください。
出典:”Sphinx”, 1905年2月号 執筆者:A.M.Wilson
王宮マジシャン、Herbert Brooksは、彼の不可思議な’Trunk Mystery’を主軸にして、Orpheumサーキットで大きな成功を収めています。彼の巡演ルートは、2月6日~12日がChicagoのOpera House、2月20日~26日がMemphisのTemple Theater、2月27日~3月4日がNew OrleansのOrpheum Theater、そして3月13日~18日がKansas CityのOrpheum Theaterです。
この記事でHerbert Brooksの名前に目が止まり、”Magicpedia”を見て見ると、つぎのように書かれていました。
Herbert Brooks(1873-1923)は、イギリスのステージマジシャンで、最初はイギリスでマジックとエスケープで仕事をしていましたが、1903年にアメリカに渡り、Vaudevilleに出演いたしました。
彼は、Houdiniと競合する’Trunk Escape’を演目から外し、カードマジックに専念するようになってから、より成功するようになりました。彼の’Card from Pocket’はたいへん有名になりました。客に指定させたカードを瞬時にポケットから取り出したのです。
1913年に彼はイギリスに戻り、順調に仕事を続けました。彼は’Trunk Escape’を、Houdiniが使っていたような木箱からスチール製の箱に替えて、よりスピーディに演じられるようにいたしました。
1921年にシカゴのMajestic Theaterでの1週間の上演を終えて、彼は引退を公表いたしました。にもかかわらず、ショー関係の新聞を調べると、1922年にはサンフランシスコのOrpheum Theater、1923にはカンザス州Wichitaで仕事をしていたことが報告されています。
1903年にアメリカに渡ったと書かれているので、”Sphinx”の1903年版を検索してみると、12月号に彼の名前が初めて登場していました。つぎのように書かれています。
Herbert Brooksは、11月16日から始まる1週間、私たちとともにChestnut StreetのKeith Theaterに出演していました。彼はカードマジックを演じ、最後は’Saratoga Trunk Mystery’でアクトを締めくくっていました。たいへん好評を博していました。
この記事によって、彼の演じていたトランクを使うイリュージョンは、’Saratoga Trunk Mystery’が正式名であることがわかりました。’Saratoga’とは、米国 New York 州東部の村で、独立戦争のサラトガの戦い(1777年)で知られています。現在は Schuylervilleとなっています。’Saratoga Trunk’は、(19世紀の女性用の)旅行用大型トランクだそうです。
’Saratoga Trunk Mystery’で検索すると、Ellis Stanyonの”Magic: Clear and Concise Explanations of Classic Illusions”(1914年)という本の中に解説されているのが見つかりました。
この説明を訳そうと思いましたが、トランクの構造の説明が不可解なので断念いたしました。演じ方については、’Metamorphisis’にそっくりなのに驚かされます。違うのは、袋に入った女性を箱の中に閉じ込めるところまでは同じですが、マジシャンは箱の上に立つのではなく、箱の上に座り、2人のアシスタントが箱とマジシャンの前に布を引き上げて、それをどけたときに女性と交換しているということです。
もしかするとこれは、閉鎖されたカーテンの中で交換を行うHoudini式のやり方から、今日の箱の上と中で交換が行われるやり方の、経過過程に登場したやり方なのかもしれません。あくまでも想像ですが。
“Metamorphosis”を調べるうちに、他のマジシャンが行っていることを利用する場合の、問題を起こさない方法の理想的な例を見つけることができました。David CopperfieldからPendragonsへの手紙です。”MAGIC”1993年3月号に掲載されていました。
親愛なるシャルロッテおよびジョナサン
‘Passion’s Prisoner’のアクトにおいて、貴兄の布の扱い方を私が使わせていただくことに対して、ご許可をいただき有り難うございます。このやり方を練習してみて、貴兄のテクニックがいかに素晴らしいものであるか理解できました。これを上回るものは現れることはないだろうと思います。
貴兄のやり方を私にご許可いただいたということが、Sub Trunkおよび他のイリュージョンにおいて、この貴兄の布の扱い方が、パブリックドメインにされないであろうことを確信しております。私においても秘密を守り、あなたの権利を守ることに最大の努力を払うことをお約束します。貴兄のご協力と友情に対し、心からの感謝を表します。
感謝を込めて
デヴィッド・カパーフィールド
Copperfieldは、Pen Dragonsの’Metamorphosis’の演じ方の一部を利用することの許可を得て、そのことを公開していたのです。このようにすることによって、2人の間のトラブルを防げるだけでなく、他のマジシャンが許可なしに使うことを牽制できるのです。さすがCopperfieldです。
(つづく)