“Sphinx Legacy” 編纂記 第72回

加藤英夫

出典:”Sphinx”, 1910年4月号 執筆者:Harry Helms

“Sphinx”にはときどき、詩のような文調のものが掲載されることもあります。これを読んで、Helmsがどのマジシャンを想定して書いているか、あなたには感じられますか。この文章は韻を踏んで書かれていますので、翻訳いたしません。

His Winning Trick

He couldn’t talk a little bit on Magic or on Art, When Magicians broached high-browed topics yon could see the sweat beads start;

But before they had him silenced and in storage for the night He would flash a roll of money—and of course that put him right.

He was crude and most unlettered, and his grammar was a sin, But he knew the little secret of successful butting-in; He could change a cold demeanor and could down stares of pride

When he flashed his roll of money with a yellow-back outside. Twas his one trick, and it served him where all other tricks might fail,

It carried him through breakers and through many an icy gale; It. won for him position that could never be denied His magic roll of money with the yellow-back outside.

直感的に私はHoudiniを思い浮かべました。読み書きもできない、ということはHoudiniには当てはまりませんが、とにかくHoudiniの姿が浮かんだのです。そこで私は、Harry Helmsの名で検索してみました。するとこのマジシャンが、Houdiniが残した”スクラップブック”に関係していたことが判明しました。つぎのアドレスにアクセスすると、スクラップのうちの1冊、”Magic Illusions: Spooks No.1”を見ることができます。

https://hrc.contentdm.oclc.org/digital/collection/p15878coll22/id/3252

Houdiniのスクラップブックコレクションは、他にもたくさんあるようで、”Harry Ransom Center”のサイトでは、つぎのように書かれています。

ダウンロードできないので、画面を拡大しないと文章を読むことはできません。このようなものがあるのを見るだけでも参考になると思います。

Harry Houdiniのスクラップコレクションは、かの伝説的エスケープアーティスト、Houdiniが所有していた10冊のスクラップブックです。このマジックの歴史に関する記録のコレクションは、1958年にUniversity of Texasに寄贈されました。このスクラップブックには、劇場用ビラ、プログラム、クリッピング、写真、印刷物、手紙、その他の記録物で、1850年~1920年代にかけてのものです。それらのほとんどは2つの種類に分類されます。ひとつはマジシャンのパフォーマンスについてのレビュー、もうひとつはマジックとスピリチュアリズムとに関する記録です。

10冊のうちの4冊は、Houdiniが収集するまえに、以下のマジシャンたちがまとめたものです。
Professor Harry Helms (American, born between 1865 and 1868, died 1924), Herr Jansen (born in Denmark, 1883-1955, also known as “Dante”), S. S. Baldwin (American, 1848-1924, also known as “The White Mahatma”), and Professor Em. De Verli (probably Belgian, active 1866-1909).

これらのスクラップブックには、それぞれのマジシャンや同時代のマジシャンのキャリアをたどれる、たいへん貴重なクリップ、写真、プロモーション宣材などが含まれます。5番目のスクラップブックは、プロマジシャンである可能性のあったDr. Merlinによって所有されていましたが、1922年にMerlinの妹によってHoudiniに寄贈されました。他の5冊については、スピリチュアリズムに関する資料、トリックの解説、それらに関する記録などで占められています。

それらの内の2冊に関しては、つぎのような標題がつけられています。
“Snake Charmers and Other Conjurers”
“Magic Illusions: Spooks No. 1.”

これらの資料の全体を見ると、映画が普及する以前、19世紀後半から20世紀の初めにかけての、エンタテイメントの様々なタイプをはっきりと知ることができます。

Harry Helmsとの関連から、Harry Ransomのサイトを調べていると、何とHoudiniの10冊のスクラップブックすべてを閲覧できることがわかりました。つぎのアドレスから、それぞれのタイトルをクリックしてください。

https://hrc.contentdm.oclc.org/digital/collection/p15878coll22/search

このような膨大なスクラップを作成所持していたことも、Houdiniのすごさの一端を見せてくれます。そしてそれらをデジタイズして一般に公開するというポリシーにも、アメリカの底力を感じます。

ただし気をつけなければならないことがあります。大量の情報を簡単に入手できる状態というのは、さらに多くの情報を集めたいという衝動にかられ、得た情報を精査するという意欲を起こしにくい傾向にあります。集めると同時に、利用できるものがあるかどうか、少なくともいちどは目を通すべきです。

そこで、Houdiniのスクラップブックがどのようなものか見てみることにしました。マジシャンの写真が多いので、他のマジシャンについての資料で写真が得られない場合、スクラップブックから利用できるというメリットがあります。他では見られなかったイリュージョンの写真やイラストもけっこうあります。Dr.Merlin Scrapbookの中に、以下のイリュージョンのイラストがありました。

この図から判断すると、黒い洋服を着た人が台に横たわっていて、カーテンを閉じてから開くと、白い洋服の人に変わっています。詳しい説明がないかと、上図に示されている題名らしき’Stroubaika’で検索してみました。そうすると、H.J. Bulingame著”Leaves from Conjurers’ Scrap Books”(1891年)という書籍に、’Stroubaika’について書かれていることがわかりました。書かれていることは詳細にわたるので、ここでは触れません。興味ある方は、以下にアクセスすればダウンロードできますので、参照してください。

https://ia802506.us.archive.org/15/items/leavesfromconjur1891burl/leavesfromconjur1891burl.pdf

(つづく)