“Sphinx Legacy” 編纂記 第78回

加藤英夫

出典:”Sphinx”, 1911年3月号 執筆者:A.M. Wilson

Conneticut州Hartfordからのニュースです。インドのイリュージョニストであるOnaipは、1週間彼のピアノイリュージョンを主演目として、当地でショーに出演いたしました。カーテンが上がると、舞台は半照明の暗さになっています。大きなジャーから立ち上る香の煙がとてもミステリアスな雰囲気を醸し出しています。Onaipは東洋の衣装を着た8人のアシスタントを従えてショーを行います。舞台後方に小さな台の上にのったピアノがあります。若い男性が催眠術をかけられたあと、ピアノの椅子に座り演奏を始めます。座っていた椅子がどけられますが、座ったときの姿勢のまま演奏が続けられ、そしてピアノが弾かれたまま空中に浮揚します。空中で1回転したあと、ピアノは大きな輪をくぐり抜けます。演奏は続けられたままです。このアクトは見事に演じられ、観客は不思議さに酔いしれます。

このようなマジックがあるとは知らなかったので、どのようなものか知りたくなりました。しかしながら、当時このマジシャンがやっていた記録は他に見つかりませんでした。少し上記の説明とは違いがありますが、現代の中国のマジシャンがピアノを弾きながら宙を浮揚するマジックの動画がありました。最初は’AGA’と同じように、舞台奥からの棒によって支えられているのかと思いましたが、途中からそれがあり得ないような動きをします。すごいです。ぜひ、ご覧になってください。

この中国のマジシャンもすごいですが、彼が”Sphinx”のこの号を見て、同じようなイリュージョンが100年以上前に行われていたことを知ったら、きっとびっくりするでしょう。それともこの記事を読んで創作したのでしょうか。

このことに関する他の情報が見つからなかったのは、’Piano Illusion’とか、’Floating Piano’というキーワードで検索していたことに起因します。どんなキーワードによって検索するかによって、ヒットするかしないかに関わってくることがあります。前述の記事の中で、マジシャンの名前がたいへん奇妙であることに気づきました。それは’Onaip’というもので、あとからわかったことですが、 ‘Piano’を逆順にしたものなのでした。

‘Onaip’という名前で”Magicpedia”を調べると、しっかり記録されているではありませんか。つぎのように書かれています。

Onaip (1885-1959年)はピアノを使ってた驚くべきイリュージョンを演じました。彼は家から逃れるとともに、成功している父の仕事を受け継ぐことからも逃れました。そしてたいへん成功したヴォードビルマジシャンとなったのです。舞台人から引退したとき、彼は小さなペンションを購入し、妻と住み続けましたが、過去のことについてはいっさい語りませんでした。それは父の反対を押し切ってマジシャンになったからです。そのことがわかるのは、彼の妻が彼が死んだとき、彼のスクラップブックを燃やしてしまったことです。

このあと前述と同じようなピアノイリュージョンの現象説明がありますが、ひとつ前述の説明に書かれていないことが書かれています。最後にピアノがものすごい勢いで空中でぐるぐる回転するというのです。それでもOnaipはピアノを弾き続けていたというのです。あまりの驚きに、観客は拍手をするのを忘れていたということです。

Milbourne Christopherはこのイリュージョンを、”The Great Magic Illusions of All Time”と呼んでいます。

1918年ごろ、”Doc” Mahendraはこのイリュージョンがある貨物駅の倉庫にあり、持ち主不明物として売りに出されていたのを知り、$20で買いました。しかし彼はそれをショーで演じることはありませんでした。

今日では、ピアノが浮揚するイリュージョンは’Onaip’と称されるようになりました。

‘Onaip’というのが、ピアノが宙に浮く名前の総称になっているとは、「恐れ入りました」と言うしかありません。最後に、とうとう見つけた‘Onaip’の写真を見ていただくことにいたしましょう。

この写真が掲載された、”memphismagazine.com”サイトの記事は、以下のアドレスで読むことができます。

https://memphismagazine.com/ask-vance/onaip-the-sensational-vaudeville-performer-at-memphis%E2%80%99-eas/

(つづく)