第21回「天海のロープ切り」

石田隆信

天海のロープ切りは独特な印象のマジックです。しかし、日本と海外では別の作品として知られています。日本では帰国後に講習され、フロタ・マサトシ氏が1971年に発行された”The Thought of Tenkai”で解説された方法です。これは海外の文献には発表されていません。それに対して、海外で知られているのは1938年8月号のSphinx誌に発表された”Miracle Rope Effect”での方法です。これは1974年の”The Magic of Tenkai”にも再録されていますが、日本では解説されていません。いずれも独特のあじわいがあります。

海外の”Miracle Rope Effect”の方法で、特に面白いと思ったのが大胆さです。両端を結んでループにした状態で、さらに、別の場所の2ヶ所を重ねて一気に切って、新たに4つの端ができるようにしていた点です。本当にバラバラにしているように見えます。その後で一つを結んで、2ヶ所に結び目がある状態にしています(上記イラスト)。その結び目の一部をハサミで切ると1本のロープに復元します。これを客に渡して調べさせることもできます。

帰国後の方法では第2段まである作品になっています。第1段では、明らかにロープの中央部分をハサミで切って結ぶのですが、スマートに結び目が消えて1本のロープに戻ります。第2段では、中央部を切って2ヶ所を結んでループ状態にするのですが、2つの結び目が消えて1本のロープに戻ります。こちらでは結び目にハサミを入れることがないのに、結び目が消えてロープが復元する不思議さがあります。操作のスマートさが重要で、天海氏が演じられるのを見たかったロープ切りです。

2つの作品ともに、タネの一つとして細長いループを使っています。ただし、このループの使い方が2つの方法で大きく違っています。タネに細長いループを使うアイデアを発表していたのはアル・ベーカーです。1933年の”Al Baker’s Book”に解説されています。しかし、ループの一端を指に挟んで手の背部から手首の腕時計で止めるアイデアと、それを本体のロープに通すことが1ページで書かれているだけです。それを素晴らしいロープ切りとして発表されたのが天海氏です。帰国後の方法では天海氏は輪ゴムで止めています。なお、タネとして小さいループを使う方法は、1909年のデバントの”Tricks for Everyone”に解説されていますが、それが最初かどうかは分かりません。

そのタネの1938年での天海氏の使い方は、細長いループを三つ折りにして手にパームして開始しています。1938年の方法では、本体のロープも両端を縫い合わせてループにしたものを使っています。さらに、もう一つのタネの短いロープも使って、両端のように見せて結ぶ操作から開始しています。現象はマニアやマジシャンが見ても不思議です。特に気に入った操作が、手に隠していた三つ折りループを、ロープ本体に自然に加える部分です。巧妙な方法が使われています。そして、全体のループを細長くして、二つ折りの状態で片手に持ち、他手で2つの端をまとめて切ります。一気に4つの端ができるのでバラバラにした印象が強くなります。その一つを結ぶと2ヶ所の結び目ができ、それが1本のロープに復元します。

この現象とよく似た作品として、1941年のロープトリック百科事典に解説されたEldon Nicholsの”Nu-Cut Rope Trick”があります。この作品の改案では、ループ状にしたロープに3つの結び目を作っています。そして、各結び目をハサミで本体を切らないように切り落として、1本のロープに復元させています。小さいタネのループをロープに通して、ロープ本体の両端を縫い合わせてループ状にしています。さらに、短いロープを本体に絡ませて結んだ状態のように見せて開始しています。小さいタネのループは手で隠しています。この作品が、どこで発表されていたものか、いつ頃のものかも分かりません。それに比べますと天海の方法の素晴らしさは、タネのループの加え方と、2ヶ所を同時に切るダイナミックさにあります。天海氏が「奇術はタネより使い方」と言われていたことを思い出します。

さらに、これをマニアックに改案された天海氏の未発表の方法があります。横浜の小川勝繁氏より見せて頂きました。最初からループ状で両端が結ばれた状態から開始されます。ロープの1ヶ所を演者が切って結び合わせます。他の1ヶ所を客に切らせて結びます。つまり、3ヶ所に結び目がある状態です。2つの結び目をハサミで切ると、中央に1つの結び目が残った1本のロープとなります。この結び目を握って手を開くと、結び目の端も消えて、完全に1本のロープになり、客に調べさせることもできます。客に自由な位置でロープを切らせたのに、復元させたロープを調べても何も怪しい点がないことと、最後の結び目の完全消失がかなり不思議です。

これらはマニアには大いに受ける方法ですが、いずれもロープ本体がループ状になったものを使う必要があります。また、最初の段階で、普通の1本のロープとして示していない問題があります。帰国後に演じられていた方法は、改良を続けた結果の最終段階ともいえる方法かもしれません。マニアックさは少なく感じられますが、スマートさと、結び目の端がいずれも消えたようにロープが復元する不思議さがあります。アル・ベーカーのタネのアイデアをうまく応用され、全体のハンドリングが気持ちの良いロープ切りです。この方法はフロタ・マサトシ著”The Thought of Tenkai”だけでなく、1996年の「天海 I.G.P. Magicシリーズ Vol.1」にも再録されています。この方法にもいくつかの違った方法があるようで、常に改良を考えられていたようです。

ロープ切りの歴史は古く、16世紀のマジックが解説された初期の文献には既に記載されていました。意外なことは、初期の3冊の文献の方法がそれぞれ違っていたことです。この三つの方法だけが、19世紀末まで解説が繰り返されています。そして、驚いたことにはロープが使われたのが1920年代に入ってからで、ハーラン・ターベルが最初に使った可能性が高そうです。それまでは、紐の使用が中心でした。紐といってもいろいろで、string、cord、lace、tapeの用語が使われています。cordが一般的で、stringは細い紐に使われているようです。なお、“Cut and Restored Rope” のタイトル名は、1930年代に入ってから使われるようになります。30年代にロープの使用が中心となっただけでなく、発表数が一気に増えています。1941年のロープトリック百科事典では、400ページの中で250ページが紐切り(24作品)やロープ切り(62作品)で占めていました。なお、ロープが使われる以前のステージでは、ターバンを使って紐切りと同様な方法で演じられていたようです。

現存する古いマジックが解説された本でもある1584年の英国のReginald Scot著 “The Discoverie of Wiechcraft” と、同じ1584年のフランスの Prevostの “Clever and Pleasant Inventions” 、そして、1634年の英国の「ホーカス・ポーカス・ジュニア」の本にも紐切りが解説されていました。Scotは短い紐をタネとして使う方法で、Prevostは細紐 の中央を切ったように見せて端を切る方法、「ホーカス・ポーカス・ジュニア」ではテープを2重のループにして、2本とも一緒に切ってしまう方法です。2重にする方法は、日本では「8の字切り」として知られています。

日本は紐の文化の印象があるので、昔から紐切りの名前だと思っていました。ところが、縄切りと書かれていたのが意外でした。縄といえばワラで編んだイメージがありますが、平岩白風氏によりますと当時は紐の総称でもあったようです。麻を細くより合わせた芋縄や、水のりをぬって細くきれいに固めた水縄がマジックに使われていたそうです。このことは1995年12月に日本奇術協会発行の「ワンツースリー9号」に報告されていました。

ところで、縄切りが日本で最も古くから演じられていたマジックの一つで、縄切りと呑刀が古い記録に登場しているそうです。このことは河合勝・長野栄俊共著の日本奇術協会発行「日本奇術文化史」の中で報告されていました。13世紀末から14世紀初頭頃の僧良季による「普通唱導集」上巻に縄切りが演じられていた記載があり、その後は、「尚嗣公記」の1644年の記録に登場しているようです。

縄切りの方法が解説された最初の文献として江戸時代の「たはふれ草」が知られています。発行年の記載がありませんが、この本の続編が1729年ですので、1720年代の発行と考えられています。その解説には、中央のように見せて端を切る方法が使われています。その後発行の「手妻伝授紫帛」にも同様な解説がありますが、こちらでは切った部分を結んでから復元させているようです。この本も発行年は不明です。

(2021年8月31日)

参考文献

1584 Reginald Scot The Discoverie of Wiechcraft 短いタネ
1584 Prevost Clever and Pleasant Inventions(フランス)端を中央に見せる
1634 不詳 Hocvs Pocvs Ivnior(ホーカスポーカスジュニア)8の字切り
1720年代? たはふれ草 縄切り 端を中央に見せる方法
1909 David Devant Tricks for Everyone 短いタネをループにして
1933 Al Baker Al Baker’s Book 細長いタネのループ
1938 Tenkai The Sphinx Miracle Rope Effect
1941 Stewart James Abbott’s Encyclopedia of Rope Tricks(第1巻)
1971 フロタ・マサトシ The Thoughts of Tenkai 天海のロープ切り
1974 Tenkai The Magic of Tenkai Miracle Rope Effectの再録
1995 平岩白風 縄切りの術の手品考 「ワンツースリー9号」12月
1996 フロタ・マサトシ 天海IGP. Magicシリーズ Vol.1 天海のロープ切り
2010 世界のロープマジック(1)壽里竜訳 Ton おのさか編集
2017 河合勝・長野栄俊共著 日本奇術文化史 縄切りの歴史に関する記載
2018 第85回フレンチドロップコラム ロープ切りの意外な歴史

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