第24回「天海のスリーカードモンテ」

石田隆信

天海氏のスリーカードモンテには全く違った2つの方法があります。一つは帰国後すぐの講習会で指導されたクロースアップの方法で、もう一つは1966年4月から中部日本放送で毎週放映された「天海のおしゃべりマジック」の中で演じられた方法です。後者ではジャンボカードが使われていました。もちろん、これらのスリーカードモンテは、昔から知られているカードを少し持ち上げて投げて入れ替える方法ではありません。

クロースアップによる方法はバーノン原案で、3枚のカードを使ったカード当てでした。それを天海氏はモンテの現象にして、方法も大幅に変えています。バーノンの原案は同マークのA23を使い、客が指定した数のカードが客のカードに変わる現象です。1947年の”The Phoenix 48”の中で”123”のタイトルで解説されています。バーノンは1957年にロサンゼルスでしばらく滞在していた時に、頻繁に天海氏と会われていました。その時に、このマジックについての意見交換もされていたようです。

天海の方法では、2枚の数のカードの間に入れたクイーンをはっきり示して、この3枚を裏向きにテーブルに並べてクイーンの位置を当てさせています。しかし、当たらないだけでなく3枚とも数のカードになり、クイーンが消えて終わります。天海パームを使っている特徴があります。この方法が解説されたのは、1996年発行のフロタ・マサトシ著「天海IGP. Magicシリーズ Vol. No.1」です。その本では「天海のスリーカードモンテ」(消える絵札)のタイトルになっており、昭和34年4月講習と書かれていました。

クイーンを表向きにテーブルへ置き、2枚の数のカードを手に持って示しますが、実際には3枚の数のカードを持っています。この中央にクイーンをはさみ、表向きで縦にずらして3枚を示し、そのまま裏向けて中央のカードを抜き取ってテーブルへ置きます。残りの2枚を左右の手に持ち、右手のカードを左手カードの上へ置く時に天海パームしています。左手の2枚をテーブルへ並べ、テーブルのクイーンもそれに並ぶように右手でずらして移動させる操作の中でパームカードを処理しています。

天海とバーノンの方法の共通点は、3枚と思わせて4枚使っていることと、3枚を縦にずらして表や裏を示している点です。それ以外のほとんどが違っています。裏向きで縦にずらした中央のカードを抜き出す操作を、バーノンは前方へ押し出すAnnemann-Christアライメントのムーブを使っていますが、天海は手前に引き抜く違った方法になっていました。バーノンの方法はその後、1969年の”Pallbearers Review Vol.4 No.10や、1987年の”The Vernon Chronicles Vol.1”にそれぞれ少し違った方法で解説されています。

なお、バーノンの方法が日本では高木重朗氏により「バーノンの変化するカード」として解説されていました。これはバーノンの原案や改案のそのままの翻訳ではなく、大幅にシンプルな方法に変えられていました。A23のカードを使って、指定された数が客のカードになるのではなく、何でもよいカードが使われ、中央のカードが客のカードに変わる現象です。1977年の「カード奇術入門」(日本文芸社)に解説され、1987年の「カードマジック」(東京堂出版)にも再録されています。

天海氏の別のスリーカードモンテが、3枚だけのジャンボカードを使う方法で演じられるようになります。1966年6月の”The New Magic Vol.5 No.6”でフロタ・マサトシ氏が、1966年4月から中部日本放送で毎週放映された「天海のおしゃべりマジック」の中の「スリー・カード・モンテ」について報告されていました。「3枚のカードの中の1枚のジョーカーがどこへ行くかという奇術は、色々な方法とトリックがあります。天海は、これをジャンボカードで、カードにしかけなしで、テクニックのみで演じることが好きです。この日の演技は、テレビという一般的な客であることを考えてか、2度ほどでさらりとやめてしまいました。」と報告されていました。さらに、奇術を少しでもかじったことのある相手の場合、最後には天海の術中におちいってしまうことがあるのですが、一般客相手ではそこまで見せなかったところが、天海の上手さであるかもしれないと結ばれていました。

客に特定のカードを当てさせるモンテ・マジックは見せ方が難しく、客には当てることができない不満が残ってしまいます。現在では客を楽しませるための工夫が加えられるようになっています。1960年代の日本では、そこまで考えて演じられることが少なかったかもしれませんが、天海氏の場合は上品さやスマートさがあり、不快感がなく楽しめたのだと思います。そのかわりにあっさりと終えたようです。「天海のおしゃべりマジック」のテレビ映像を見ることができれば、どのように演じられたか分かるのですが残念です。3枚だけが使われたのであれば、3枚が普通のカードであることを調べさせてから演じられていたのではないかと思いました。そうであれば、シンプルな現象でも不思議であったと思います。また、天海氏の表情や見せ方が気になるところです。

3枚だけで演じる方法の基本となる技法が、天海の「リバース・プッシュオフカウント」と考えられます。1969年9月のGenii誌に解説され、1974年の”The Magic of Tenkai”にも再録されています。この解説では、トップからA23の順になっている状態を示し、その後、カードの裏を客席に向けて垂直に持っています。「A」と言ってトップカードを右手に取って、手前側のボトムへ置く時の技法として解説されていました。実際には客側の2枚を重ねて右手に取って行っています。普通サイズのカードの場合は、3枚を左手に持ち、左下コーナーを小指の付け根に当てて、左サイド上部には人差し指を当てています。親指で手前のカードを左へずらして、客側の2枚を右手に取ることになります。ジャンボサイズのカードの場合は、左下コーナーを手掌の少し下側に当てて同様に行っています。

ところで、このリバース・プッシュオフカウントは、4枚を使った場合には、カードを縦に持って客席に向けて行う特別なエルムズリーカウントとしても使うことが出来そうです。1960年代はパケットマジックがブームになり始めた頃です。そのような時期に、このカウントを考案されていたことが印象的で、創作と改良の意欲の強さを感じさせられました。

(2021年9月21日)

参考文献

1947 Dai Vernon The Phoenix 48 123
1966 フロタ・マサトシ The New Magic Vol.5 No.6 スリー・カード・モンテ
1969 石田天海 Genii Vol.34 No.1 9月 Reverse Push Off Count
1969 Dai Vernon Pallbearers Review Vol.4 No.10 123
1974 石田天海 The magic of Tenkai Reverse Push Off Count
1977 高木重朗 カード奇術入門 ダイ・バーノンの変化するカード
1987 Stephen Minch The Vernon Chronicles Vol.1 The Two Thirteen Trick
1996 フロタ・マサトシ 天海IGP. Magicシリーズ Vol. No.1 天海のスリーカードモンテ

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