シェルなしの「四つ玉」に関するフリートーク
石崎健治・石田隆信・中村安夫綿田敏孝・金盛友哉・高山孝夫
はじめに
以下は、「奇術史研究コミュニティ」メーリングリストで交わされたフリートークの一部です。
【2014/11/24 石崎健治(いしけん)】
私は18才の時(昭和41年)に、金沢孝さんの「四つ玉研究」とJMAの「四つ玉教本」を参考にして母校の文化祭で演じました。それが初めてのスライハンドマジックへの取り組みだったのですが、思うような演技が出来ませんでした。
その翌年(昭和42年)に、チャニング・ポロックが出演した『ヨーロッパの夜』がリバイバル上映になったので、銀座の映画館でその映画を観ました。チャニング・ポロックの演技は素晴らしくて感動したのですが、私のパーソナリティではあの演技は出来ないと即断念しました。ただ、その映画でもう一人見映えはパッとしませんが、ボールを演じたマジシャンがいました。その人はシェルを使っていなかったのが強く印象に残りました。
社会人になってから・・このシェルなしの「四つ玉」を細々と研究して来ました。手順のアクトの大半は自分で考えたものですが、この系統についての情報をお持ちの方がおられましたらお教えください。
【2014/11/24 石田隆信】
シェルを使わない四つ玉を海外の文献を中心に調べました。
海外でもシェルを1個使う四つ玉が主流になっています。
1900年頃にシカゴのRoterbergにより販売されたのが最初です。
その後、多くの本にシェル1個を使った方法で解説されています。
シェルを使わない方法は1909年の “The Art of Magic” が最初のようです。
著者はT. Nelson Downsですが、J. N. Hilliardがゴーストライターです。
この本の四つ玉は3段構成になっています。
その第1段がシェルなしの四つ玉で、4個まで増加させています。
第2段ではシェルを加えて、四つ玉が一方の手から他方へ1個ずつ移り、そして元へ戻ります。
第3段ではシェルなしで四つ玉を1個ずつカラーチェンジしています。
次の解説が1938年のJ. N. Hilliard著 “Greater Magic” です。
シェルなしの四つ玉やシェル1個使用での四つ玉が解説されています。
また、Irelandのゴルフボールによるダブルシェルの四つ玉も解説されます。
1948年にはArthur Buckley著 “Principles and Deceptions” に
シェルなしの八つ玉が解説されます。
そして、1951年のFISMパリ大会でイギリスのGeoffrey Buckinghamが、
シェルなしで12個を出現させてグランプリを獲得しています。
彼の方法が1952年の “It’s Easier Than You Think” の本に解説されます。
1979年のFISMベルギー大会でオランダのGer Copperがグランプリを獲得します。
彼はシェルなしの四つ玉も演目の中に加えています。
1個ずつ取り出してはカラーチェンジして4個にしています。
2007年にカーディニの本が発行され、1931年頃の彼の方法が解説されます。
2段構成で、第1段がシェルなしでカラーボール4個の取り出しです。
第2段はシェル1個を使っての四つ玉演技で、2個のカラーチェンジもあります。
2009年にLeventのビリヤードボールDVD3枚組がUGM社より発行されます。
Leventはすばらしい演技者であり研究家で、カーディニの方法や他の方法も解説しています。
なお、You Tubeで見られるカーディニの映像は1957年のテレビ映像で、1個のボールの扱いだけです。
下記の3名の演技がYou Tubeで見ることが出来ます。
Arthur Buckleyは1個の扱いが延々と続きますが最後の方で8個にしています。
Geoffrey Buckinghamは白黒映像で見ることが出来ます。
口へボールを入れて腹部のベストの下から取り出す方法が数回繰り返されます。
Ger CopperはFISM79の映像が見られます。
四つ玉は同じことの繰り返しが多いのですがリズミカルで気持ちよい演技です。
上記の方法は、いしけんさんのシェルなしの四つ玉とは、かなり違うものだと思います。
古い内容が中心で、その後はどの程度シェルなしの四つ玉が演じられているのか分かりませんでした。
また、どのように発展しているのかも調査できていません。
ほとんど参考にはならなかったと思いますが、今分かっている点のみ報告させて頂きました。
【2014/11/26 中村安夫(スティング)】
石田さん、詳しい情報をありがとうございました。
日本の文献では、シェルなしの「四つ玉」について読んだ記憶がないので
とても参考になりました。
(LILLIPUTさんはシェルなしの「四つ玉」に関する文献をご存知ですか?)
また、教えていただいたYouTube映像を観てみました。
Arthur Buckleyの演技は初めて観ました。
また、FISM1951グランプリのGeoffrey Buckinghamと
FISM79グランプリのGer Copperの演技を観られたこともラッキーでした。
Ger Copper本人がアップしているのはいいですね。
FISM2012グランプリのYu Ho-Jinも本人が映像をアップしているので
今後も受賞者がアップしてくれると、後世の人の勉強になりますね。
カーディニの映像は高画質版を見つけました。
参照用のURLを記載しておきます。
■Arthur Buckley (4:13) 240p
2008/10/06 by magicpromotionclub
※Arthur Buckley (1890-1953) オーストラリア
■Geoffrey Buckingham (3:04) 720p
2013/07/27 by Rakalana Magic Store
(1 Manipulacion 1949, 1 Close-up 1949, Grand Prix 1951)
■Ger Copper 1979 – FISM Act..wmv (4:58) 480p
2011/12/14 by Ger Copper (カード、ボール、ダイス)
■1979 FISM Act ‘The finally'(2:20) 480p
2011/12/14 by Ger Copper (キャンドル)
■Cardini 1957 – Rare HQ Video – Amazing Card, Billiard Ball and Cigarettes Manipulation(9:38)360p
2011/12/01 by Funtastic shop
※Magician Cardini performing in 1957(カード、シガレット、ボール(1個))
【2014/11/26 石崎健治(いしけん)】
こんばんは、いしけん(石崎)です。
昨日石田さんがお知らせくださった3つの映像を見ました。
(Arthur Buckley, Geoffrey Buchingham, Ger Copper)
この中では・・Ger Copper の演技はテンポが良くキレもあって参考になりました。
You Tube の検索の仕方も分かりました。ありがとうございます。
【2014/12/01 綿田敏孝(LILLIPUT)】
とりあえず、振られましたので、ちょっとだけ小生らしいところを・・・
Geoffrey Buckingham師の演技、解説は御存知の事と思いますがビデオニクスの第1巻に納められています。
■Videonics 1 Geoffrey Buckingham #1 ; Munipulative Act Geoffrey Buckingham (Vidoenics 61 1980)
実は、L&LからDVDにもなっています。(同じものです)(現在入手できるかどうか不明)
■The Magic and Manipulation of Geoffrey Buckingham (L&L Publications 120 2002)
海外で四つ玉のビデオなどは比較的少ないですね。
Tim Wright師のビデオはそんな中でも比較的しっかりしており、歴史などにも言及しています。
(小生英語が苦手ですので、詳細にはご紹介できませんが・・・(^^;)
■『Multiplying Balls』(Tim Wright,2000,60:Tim Wright)
また、特殊なギミックの四つ玉をリチャード・ロス師がスティーブンスのビデオの中で紹介しておられたのが印象的です
■「The Greater Magic Video Library 27 」,『 Richard Ross 』(Stevens Magic Emporium ,1988)
国内はアイビデオからで、思いつくだけでも、島田晴夫、ケン正木、スピリット百瀬、シ・オ・ミなどの各師が出しておられます。
■島田晴夫ビリヤードボール(八つ玉) 60 (1987 1987-074)
■島田晴夫宝石のシンブル・四つ玉 (アイビデオ 40 1987 1987-077)
■ザ・レクチャー (アイビデオ 90 島田晴夫 90-121)
■四つ玉 (アイビデオ 60 ケン正木 88-86)
■スピリット百瀬の四つ玉テクニック (アイビデオ 46 スピリット百瀬 1998-270)
■SHIOMI 四つ玉・シルバーボール (アイビデオ 59 シ・オ・ミ 2000-304)
東京マジックでは、ミッキータニ師
■Magic of Japan 14 ミッキー・タニ 1 (東京マジック ミッキー・タニ)
■Magic of Japan 15 ミッキー・タニ 2 (東京マジック ミッキー・タニ)
UGMではもともと、情報ビデオに収録されていた山本勇次四つ玉講座が単独してVHS及びDVD化されています。
その他手品屋さんから、上口龍成師のDVDが、
■手品屋オリジナルDVD シカゴの四つ玉DVD (手品屋 上口龍生)
テイチクエンタテインメントからケン正木師のDVDが。
■ケン正木マジックレクチャービデオ 四つ玉編 1 (テイチクエンタテインメント TEBA30014 52 2008/11/26)
などなど結構あります。
【2014/12/01 石崎健治(いしけん)】
LILLIPUTさん、四つ玉についての情報ありがとうございます。
Tim Wright氏の演技をYouTubeで見てみました。石田さんからからご紹介して頂いた映像も同様に感じたのですが、指の間でボールを頻繁に転がすアクトが多いですね。ロールと言う動作は指間の演技を安定させるための訓練として若い時に始終練習していましたが、演技そのものの一部ではありませんでした。最近日本の若い演技者が同様のアクトを取り入れているのを見たりします。私は好ましい動作ではないと思うのですが・・(これは個人の好みの問題だとは思います)。
【2014/12/03 金盛友哉】
私から四つ玉に関する情報として、
1)シェルなし四つ玉に関する情報の補足
2)私の四つ玉遍歴と現在注目している日本人マジシャンによる四つ玉パフォーマンスの紹介
を述べたいと思います。
1)シェルなし四つ玉について
・シェルなし四つ玉の手順が解説された日本語文献で私が把握しているものは、
奇術研究30号8頁-「図解特集ビリヤードボール 第二部 シェルを一切使わずに4個から8個に増やす」
奇術研究49号23頁-「目先きの変った四つ玉の手順」
図解マジックテクニック入門178頁-「ボールの手順」
です。上記以外にご存知の方いらっしゃいましたらご教示ください。
・まだ名前が挙がっていないマジシャンとして、Ron MacMillan(FISM1961マニピュレーション部門2位)はシェルなし四つ玉の名手です。Geoffrey Buckinghamよりも洗練された感じがして私は好きです。
■Ron MacMillan演技映像(1)
■Ron MacMillan演技映像(2)
■The Ron MacMillan Lecture DVD
■Ron MacMillan’s Symphony of the Spheres (1963)
上記レクチャーノート、DVD共にテクニックよりもホルダーとロードの解説が主眼だと思います。Geoffrey Buckinghanのレクチャーノート、DVDと併せて読むと、数を多く出す事に主眼を置いたイングランドのシェルなし四つ玉の(ローディング技術の)流れが分かって興味深いと思います。(私はBuckinghanのレクチャーノート、DVDは所有していますがMacMillanのものは未読未見です。)
・Norbert Ferre;(FISM2003ステージグランプリ)の四つ玉もシェルを使いません。
■Norbert Ferre FISM2003演技映像
2)現代の日本人マジシャンによる四つ玉
私は小学生の頃、島田晴夫のビデオを買って四つ玉を学び、現在でも自主公演の際には大抵ほぼ同じ手順で演じ続けています。また2013年にはアメリカChavez Studio of Magicでのカリキュラムを通して、Chavezで教えられているいわば”old school”な四つ玉を学びました。ちなみにBond LeeもChavez卒業生です。
最近の日本人マジシャンの演技として、私の好みですが2人のマジシャンの演技を挙げたいと思います。これらの二つの演技は「道具(ボール)と身体の関係性を重視している」という点において同じ流れにあるといって良いと思います。
これまでは、四つ玉の様な小さく繊細な道具を扱う際は特にできるだけ手の周りに観客の意識を集中させ、小さな範囲で現象を見せてきました。
しかし、ボールと同様に身体も舞台上に存在し観客にお見せしている訳ですから、身体もボールと同じ「道具」みなし、「ボール」と「身体」の関係性から「四つ玉」というマジックを捉え直せば、新しい表現が生まれるのではないでしょうか。
もちろん、これにはボールを指先で操るテクニックだけでなく、卓越した身体技術も必要です。
昨今国際的に評価されている韓国式?のマニピュレーションマジックの表現方法と比べて、以下の演技は非常に「日本的」に感じ、大きな可能性を感じます。
【2014/12/05 石崎健治(いしけん)】
金森友哉さんからお知らせ頂いたYouTubeの映像を先程見てみました。
・Ron MacMillanは、品のある洒落た演技で気に入りました。
・Nrbert Ferreは、大きいボールと小さいボールを組合せるのと、手からボールを離す技が大変参考になりました。
・里一磨さんの個性的な演技は、ボールの新しい表現スタイルとして見応えがありました。
・村田奈央さんは、女性の柔らかさが生かされていて心地よい演技でした。4つに増やしたり1つに減らしたりするのはシェルを使っていましたが、そこのところの構成はシンプルにして、1つのボールの箇所に重きを置いた感があり、その対象的な構成が生きていると思いました。
【2015/5/8 高山孝夫】
シェルなし、で思い出しました。
昔、LAだったかNYだったかのマジックショップで見つけて即買いした冊子。
「SYMPHONY of the SPHERES」
RON MacMILLAN’S
おなじみのLEWIS GANSON が著者になっています。
表紙と最終シーンの写真を添付しておきます。14個のボールを両手いっぱいに。
演じるつもりはありませんでしたが、何かの時に話題になるかと
その時がやっとやってきました。(笑)
これも、「ボール マヂック テキスト」と似ていて、
著者はあるものの、出版社、発行年の記載がありません。
価格は、$3.5だったようです。表紙めくったところの右上隅に書店の方の手書きで薄く鉛筆書きで残っていました。
購入したのは、1978年秋(多分9月か10月)です。
23ページで、写真29点、図7点です。
ホルダーの紹介がすごくて、スプリングで押し出すような機構を自作しているようです。
訳していただける方がいたら、ぜひお願いしたいところです。
著作権はLEWIS GANSON と思えるのですが、
(c)(コピーライトマーク)がなくはっきりはしません。
Amazonでは古書?として出回っているようです。
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