“Sphinx Legacy” 編纂記 第24回
加藤英夫
“Sphinx Legacy”では、息抜きのページとして、”Sphinx”の記事とは関係なく、’Intermission’というタイトルで私の文章を書かせていただいています。その一例を紹介いたします。
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2020年10月24日
私は今日、これまで”Sphinx Legacy”の仕事をしてきて、私のカードマジック創作能力が知らないうちにレベルアップしていたことに気づきました。レベルアップした理由はつぎのようなことです。
“Sphinx Legacy”では、プロマジシャンの世界をずっと考察し続けてきました。いかにプロマジシャンというものが、トリックというものをやるだけでなく、それに独自のプレゼンテーションを加え、しかも自分のパーソナリティに合ったやり方をしているかということを、嫌と言うほど見せつけられてきました。
誰かが言っていました。新しいマジックのほとんどはアマチュアによって生み出されるが、それを完成させるのはプロマジシャンであると。
そういう見方で自分自身が考案してきたものを思い返すと、私はアマチュアの領域から抜け切れていなかったのではないかと感じるのです。たしかに、YouTubeでアップロードするようになってからは、実際に見せるマジックとしての構成の仕方はレベルアップしたような気もしますが、アメリカの一流マジシャンのことを知れば知るほど、まだまだ上の領域があると思うのです。
今朝目が覚めたときから考えた、’Power of Thoughts’からの発展的バリエーションを、最大限パワフルなものにしようと考え続けた結果、「これならプロマジシャンとして演じるだけの傑作になった」と思える作品を生み出すことができました。もちろんまだ演じていませんから、そのように言い切るのは危険ですが、私のクリエーターとしてのレベルが、アマチュアの領域からプロの領域へと入り込んだ感じがします。
ということは、たいへん恐ろしい量の仕事が私に残されていることに気づいてしまいました。私がいままで考案してきた2000種類以上の作品について、もういちど見直す必要があるということを。
新型コロナは、私に多くの仕事を与えました。”Sphinx Legacy”の編纂、”取得したデジタル文献の整理”、”私が著述したもののインデックス化”、そして今日思いついた、”私の作品の見直し”などです。神様どうか、私を90歳まで生かしてください、と願わざるを得ません。
“Sphinx Legacy”編纂の領域を逸脱したことになるかもしれませんが、今日考案したその作品を収録させていただきます。”Sphinx Lagacy”の仕事をしているからこそ生まれた作品ですから、書き残しておきたいのです。お許しください。
ツインズパワー
= 加藤英夫、2020年10月24日 =
* 準備 *
ノーマルデックの内の1枚をエンドショートにして、そのカード表面中央に両面テープの小片を貼っておきます。弱粘性のテープを使ってください。テープが目立たないように、絵札を使うとよいでしょう。そしそのカードの裏面に大きくあなたのサインを書いておきます。そのカードをボトムにして、全体をリバーススタックとします。あるカードがトップからx枚目にあるとしたら、そのカードと同色同数のカードが、ボトムからx枚目にあるようなスタックにセットするのです。
* 方法 *
デックを表向きにリボンスプレッドして、「カードには双子のカードというのがあります」と言って、すぐスプレッドを閉じます。
「双子のカードというのはですね」と言って、表を自分に向けて広げていき、フェースから15枚目ぐらいの適当なカードをアップジョグし、さらにカードを広げていき、アップジョグしたのと同色同数カードをアップジョグします。そのとき、リバーススタックの境目に右指先を当てておき、カードをそろえるとき、境目にブレークを作ります。それは両手を前に倒しながらやります。
そしてアップジョグした2枚をよく見せて、「このように同じ色で同じ数のカードが双子なんです。双子には不思議なパワーがあることをお見せいたします」とセリフを続け、アップジョグカードを押し込んでそろえます。
フレークから分けて、バック側の26枚をわきに置きます。残りの26枚をそろえて裏向きにテーブルに置き、「このようにカットしていただきますが、どれだけカットするかによって、カットしたところのカードは違ってきます」と、カットする手本を見せながら言います。
「では適当なところからカットしてください」と言います。「好きなところから」と言うと、少なくカットしたり、多すぎたりしますから、「適当なところから」と言ってください。カットされた上半分を下半分の隣りに置かせます。
下半分のトップカードを右手で取り、表を見せて、「このカードが選ばれました。このカードの裏にサインを大きく書いてください」と言って、そのカードを裏向きに相手の前に置き、サインペンで大きくサインさせます。あなたもそのカードをおぼえておきます。
サインされたカードを上半分の上に裏向きにのせ、その上に下半分を重ね、そろえて表向きに持ちます。
わきに置いてあるパケットを相手に表向きに持たせます。「同時に1枚ずつ置いていきますが、私が”ストップ”と言ったら手を止めてください」と説明して、同時にディールしていきます。あなたのパケットのフェースに選ばれたカードが現れたら、「ストップ」と言います。そしてお互いパケットのフェースに双子のカードが現れたことを示します。
適当なセリフを言いながら、あなたのフェースカードをその下のカードのテープから剥がします。選ばれたカードはノーマルな長さで、テープのついたカードはエンドショートなので、エンドを持ち上げれば剥がせます。剥がしたら、そのカードを他のカードより少し右前にずらしておきます。
相手のパケットのフェースにある双子カードを右手で受け取り、それをずれている選ばれたカードの隣りに位置させて2枚を示し、「選ばれたカードの双子が同時に出てきました」と言います。
それから右手のカードを左手のずらしているフェースカードの下に滑り込ませ、選ばれたカードを右手に取り、「問題はこのカードにあなたのサインがあるかどうかです」と言いながら、右手のカードを前にさし出します。そのとき、左手は双子のカードをパケットのフェースにそろえ、テープをくっつけます。
右手を手前に返して、右手のカードの裏面を観客に見せ、「もちろんあなたのサインがあります」と言います。右手のカードの表を上向きに戻して、左手のデックに近づけ、右手のカードの下にデックのフェースカード(2枚がくっついている)をV字形に取り、「このカードには私がサインをしておきました」と言って、右手を手前に返して、そのカードの裏面にあなたのサインが書かれていることを見せます。
右手の向きを戻して2枚を表向きにしながら、「これがツインズパワーというマジックです」と言って、くっついている2枚を左手の表向きにパケットの上にのせ、続いて選ばれたカードも上に重ねて、このマジックを終わります。
ということで、考案したときの興奮で、「これならプロマジシャンとして演じるだけの傑作になった」などと書いてしまいましたが、そのようなレベルであると考えるのは、じつはまだアマチュアのレベルである証拠です。プロのマジックというのは、何回も何回も観客に対して演じて、磨き上げられたものであるはずだからです。
(つづく)