第1回 MN7研究会 海外マジシャン来日記録の考察

日時:2023年12月24日(日)開場13:30 開始14:00 終了16:30
会場:Mシアター(東京都港区芝2-10-4 (株)電巧社2F)
JR「浜松町駅」 南口より徒歩9分, 都営三田線「芝公園駅 」A1出口より徒歩5分
参加費:1000円    希望者に年表CD有償頒布(1000円)

プログラム

  1. 来日記録から来日年表への変遷(中村安夫)
  2. 蓮井彰氏のマジック界への貢献(小野坂東)
  3. 海外マジシャン来日記録の考察(加藤英夫)
  4. 映像上映(解説:加藤英夫)
  5. 対話(加藤英夫・中村安夫)

イベントレポート

ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。
20歳代から90歳代の幅広い世代の方々とMシアターで交流できました。講師の加藤英夫さんには企画段階からたくさんのご協力をいただきました。この場を借りて改めてお礼申し上げます。

■第1回MN7研究会レポート(1)会場設営
2023年12月24日(日)に開催したイベントレポートです。
東京都港区芝の (株)電巧社前に11:50集合。設営は約1時間で終わり、13:30開場までの時間に集合記念写真を撮影しました。

■第1回MN7研究会レポート(2)開場

13:30に開場すると、続々と参加者が来場されました。参加者の年齢層は3分の2は60歳代以上の方々ですが、20歳代から50歳代の現役世代の方も3分の1を占めていたのは嬉しいことです。
イベント情報の入手ルートは、友人(口コミ)が7割近くを占めています。
ご招待者は、蓮井彰夫人、ケン正木(日本奇術協会会長)、吉田誠(世田谷マジッククラブ講師)、中嶋乃武也(Mシアターオーナー)さんの4人。一般参加者として、植木將一さん、伊藤正博さん、麦谷眞里さんなど著名な方々も申し込まれました。MN7会友の石田隆信さん(大阪)、岡村真衣さん(三重)も遠路はるばる参加されました。

■第1回MN7研究会レポート(3)展示物

過去のMN7主催イベントで制作した刊行物を4点展示しました。
1.天海タッチ(氣賀康夫・小川勝繁著、2015年4月19日発行)
2.天海の足跡(加藤英夫・河合勝・氣賀康夫・小川勝繁著、2016年4月17日発行)
3.天海を取り巻く仲間たちとの想い出(加藤英夫・宮中桂煥著、2017年5月21日発行)
4.小野坂東氏の業績研究(マジックネットワーク7(MN7)編、2019年12月15日発行)
セット特価提供により、4人の方に合計15冊を購入していただきました。
非売品として以下の書籍等も展示しました。
★Fred Kaps, Master Magician (2020年12月発行)
フレッド・カップス(1926-1980)は史上最高のマジシャンと称され、FISMグランプリを3度受賞しました。
1.1976年 8月 JMA主催帝国ホテルの「第40回PCAM国際奇術大会」(ANB9月1日「水曜スペシャル・遂に実現!!史上最大のマジックショー日本初公開」。NET11月24日「水曜スペシャル・華麗!世界一流マジシャンオールスター大行進」に出演。
2.1979年 12月 JMSカ書房主催・東京会館の「インターナショナルマジックコンベンション」出演。
(ANB1980年1月1日と6月18日「マジックオリンピック」、1985年10月30日「驚異!これがプロ魔術師だ」で放送のゲスト。
★Channing Pollock: Master of Magic by Michael Pascoe(2023年10月16日発行)
 チャニング・ポロック(1926-2006)は、映画「ヨーロッパの夜」(1960年12月22日公開)の鳩とカードのアクトで世界的に有名になりました。
1.1979年 12月 カ書房主催・東京会館の「インターナショナルマジックコンベンション」のスペシャルゲスト。
2.1994年 7月 パシフィコ横浜コンベンションセンターの「FISM横浜大会」のスペシャルゲスト

■第1回MN7研究会レポート(4)配布物

参加者には、プログラム、付録(8ページ)、年表CDの3点が配布されました。
付録には、2024年4月発行予定の“海外マジシャン来日年表”副読本「マジシャンからの贈り物」より、加藤英夫氏考案のカードマジック作品2題が含まれています。
別売の年表CDには、以下の4点が収録されています。
1.海外マジシャン来日年表第3版(Rev17)
2.海外マジシャン来日人名順第3版(Rev17)
3.人名対応表(11p):510人
4.海外マジシャン来日年表”副読本(予告版)(44p)

■第1回MN7第1回MN7研究会レポート(5) MN7の活動状況(中村安夫)

14:00 司会の藤城亜砂さんにより開会が宣言されました。
 冒頭に私からMN7の活動状況について説明しました。
MN7は、「マジック文化の継承と発展」を目的として2013年12月に発足し、今年で10周年。定例会を毎月1回開催し、先月まで118回を重ねました。主催イベントを8回開催し、全国のたくさんの奇術研究家、愛好家の方々と交流を深めてきました。
 一方、石田天海フォーラム等で利用してきた「江戸東京博物館」が2022年4月から2026年3月まで大規模改修工事により休館するという状況に直面しました。2022年3月に開催した第2回奇術史研究会では、会場探しに苦労した結果、一般の貸会議室を利用せざるを得ませんでした。
 そんな折、今年2023年のイベント企画を検討中に「Mシアター」という新しい会場があるというグッドニュースが飛び込んできました。(株)電巧社の社長でTAMC会員でもある中嶋乃武也氏が作られた社内会議・イベントスペースですが、休日は一般にも好条件で貸し出していただけるという話でした。早速、下見をさせていただくと、音響・照明・プロジェクタ設備が完備しており、昇降型タイプの座席形態も可能です。
この会場を見て、「MN7研究会」という新しい形態のイベントを想起しました。
 従来の「定例会」はメンバー・会友限定の会合であり、一般の方は簡単に参加できませんでした。一方、「イベント」は一般対象ですが、会場探しを含む準備が大変で気軽に企画できません。そこで「MN7研究会」は、「マジック文化の継承と発展」に関心がある方を対象とし、参加費も安価にして、若い世代の人たちも気軽に参加できるようにしました。
 すでに来年4月に「第2回MN7研究会」が決まっており、今後も継続的に実施していく予定です。今回、参加できなかった方も是非ご参加ください。

■第1回MN7研究会レポート(6)1.来日記録から来日年表への変遷(中村安夫)

 続いて、私から「来日記録から来日年表への変遷」についてお話しました。
日本奇術協会の機関紙”ワンツースリー”第10号(1996年3月10日)に、蓮井彰氏が「マジックビデオとの出会い番外編」という記事を投稿されました。蓮井氏は、日本テレビ開局25年『’78世界奇術大賞』をプロデュースされた方ですが、第10号から第12号(1996年9月10日)にわたって「海外マジシャン来日記録」を丹念にまとめ、発表されました。この記録は大変貴重なもので、1964年(昭和39年)から1996年(平成8年)の期間に来日した海外マジシャンの記録です。しかし、蓮井氏は、悲しまれつつも、2003年5月に66年の生涯を全うされました。”ワンツースリー”第10号の中で、蓮井氏は「私一人の力では到底完璧さは望めません。もしこの記録作りの作業に、ご賛同いただける方がおりましたら、加筆訂正を宜しくお願いします」と記されていました。
 その後、25年以上経った2023年の初頭に大きな進展がありました。奇術研究家の栗田研氏が蓮井氏の記録を加筆していることが分かり、マジックネットワーク7(MN7)の2月の定例会で発表していただきました。栗田氏は、1996年(平成8年)から2020年(令和2年)までの記録を手書きで加筆されていました。
 さらに、栗田加筆版を加藤英夫氏が年表化し、情報欄と動画欄を加えて、「海外マジシャン来日年表・第1版」を作成し、MN7に情報提供されました。
 MN7では、この記録は、世代を超えて継続更新すべき資料であると位置づけ、総力を挙げて取り組むべき重要なプロジェクトであると考えました。
 そこで、6月のMN7定例会において、「海外マジシャン来日記録」をテーマとするオープン形式のイベントを今年の12月に開催することを決定しました。
 今回、公表したデータは、「海外マジシャン来日年表・第3版」 (Rev.17)ですが、以下の方々から情報提供をいただきました。
 情報提供者(敬称略)
[01]石田隆信
[02]中村安夫
[03]池田俊秀
[04]藤山博士
[05]和泉圭佑
[06]植木將一
今後とも、みなさまからの情報提供をお願いします
情報受付窓口: mn7-record@googlegroups.com

■第1回MN7研究会レポート(7) 2.蓮井彰氏のマジック界への貢献(小野坂東)

次に、小野坂東氏が蓮井彰氏のマジック界への貢献について語られました。
(1)『’78世界奇術大賞』の企画と実行
日本テレビ開局25年記念として開催された『’78世界奇術大賞』(1978年8月18・19日、ホテルオークラ)は、日本マジック界にとって、歴史的な大会となりました。2年前の1976年に日本奇術連盟が主催した『P.C.A.M.国際奇術大会』は日本で最初の国際コンベンションでしたが、『’78世界奇術大賞』は、テレビ局が主催する画期的な大会でした。スペシャルゲストは、島田晴夫、アル・カーシー、リチャード・ロス、アリ・ボンゴ、スライディニー、ブルース・サーボンという超豪華な顔ぶれでした。この大会を企画したのが、当時、日本テレビに勤務していた、蓮井彰氏でした。番組視聴率は、ゴールデンタイムで21.2%という快挙を達成しました。蓮井氏は、1956年(昭和31年)、成城大学時代に日本奇術連盟(JMA)に入会し、小野坂東氏に師事。その後、日本奇術連盟幹事を経て、1960年に日本テレビに入社されました。
 私は大学卒業後、社会人になった直後の20歳代に、『P.C.A.M.国際奇術大会』と『’78世界奇術大賞』に参加できたことは、なんという幸運だったことでしょう。FISM世界チャンピオンのフレッド・カップスとリチャード・ロスの演技を生で観た感動は生涯忘れることはできません。
(2)海外マジシャン来日記録の作成
 この記録は、多くの日本の奇術研究者たちによって、引き継がれました。次世代のみなさんも是非、引き継いでください。
(3)日本初のマジック専用劇場のプロデュース
 蓮井氏は、1979年、静岡第一テレビに転出されますが、1999年10月、静岡の清水に日本初のマジック専用劇場「エスパルス・マジック・ホール」をオープンさせました。ここでも小野坂東氏の多大な協力がありました。しかし、9か月後の2000年6月末にこの劇場は閉鎖されました。
 今回の講演の中で、小野坂氏は、「蓮井さんについては、まだまだ話したいことがある」と言われました。今後のMN7研究会において、お話を聴く機会を是非作りたいと考えています。

■第1回MN7研究会レポート(8) 3.1 海外マジシャン来日記録の考察(加藤英夫)
【Part 1 蓮井彰氏との運命的な出会い】

いよいよ、今回のメインゲストの加藤英夫氏の登場です。加藤氏は蓮井氏の運命的な出会いについて、語りました。最初の出会いは、加藤氏が高校2年生の、1959年(昭和34年)の時のことでした。当時、『奇術界報』の編集者だった蓮井氏に勧められてカード奇術「水と油」を発表されました。(『奇術界報』219号)
加藤氏は、『奇術界報』には合計9回投稿し、その後カードマジックを書くことに熱中していったことを明かされました。

■第1回MN7研究会レポート(9) 3.2 【Part 2】 ”海外マジシャン来日年表”の構造(加藤英夫)

次に、加藤氏は’海外マジシャン来日年表’がどのような項目で構成されているか、イゴール・キオの例で説明しました。黒い部分が蓮井氏の記録から書き写した項目で、茶色の部分が加藤氏が加えた項目です。上からマジシャンが来日した年月、マジシャンの名前、国籍、いちばん下が来日目的、どこそこに出演したとか、レクチャーをやったかということが記されています。加藤氏は、この年表を日本のマジック史の流れを知るための有用な参考書とするため、情報欄と動画欄を加えることにしたそうです。

■第1回MN7研究会レポート(10) 3.3 【Part2】島田晴夫と加藤英夫

加藤英夫氏は、22歳のとき、1ヶ月ほど島田晴夫師(24歳)のアシスタントをつとめたことがあったそうです。島田師と加藤氏がベアハンドの鳩出しを練習していたときの映像が残されています。撮影したのは、当時ベアハンド手法を研究していた濱谷堅蔵氏(19歳)です。

★1965年、島田晴夫の ベアハンド鳩出し極秘練習

■第1回MN7研究会レポート(11) 3.4 【Part2】ケン・リトルウッド

加藤氏は島田師に連れられて、ケン・リトルウッド(オーストラリア)の演技を五反田のカサブランカというキャバレーで観たそうです。今から60年前の1964年2月のことでした。左下の写真には、砂漠をイメージしたネオンサインで有名な“砂漠の不夜城「カサブランカ」”が写っています。(出典:ブログ「五反田三丁目三四番地」)
下記の映像は、来日時のものではありませんが、オーストラリアで1970年代後半に撮影されたものです。

https://www.facebook.com/AustralianVariety/videos/ken-littlewood-toshi-magicians-4-mins/3535227283170168/

■第1回MN7研究会レポート(12) 3.5 【Part2】ケン・リトルウッドを見て(加藤英夫)

加藤英夫氏は、ケン・リトルウッドを見たときの感想記をテンヨー発行の”まじっくすくーる”第3号(1964年4月22日)と第4号(1964年6月1日)に書いています。”まじっくすくーる”は、第1号が1964年2月12日に発行され、第77(最終)号(1970年9月30日)まで約6年半の間、発行されました。総ページ数は1227ページにも及びます。加藤氏が20代前半に執筆した”まじっくすくーる”は、日本奇術史の貴重な文献になっています。


■第1回MN7研究会レポート(13) 3.6【Part3】”海外マジシャン来日年表”活用方法(加藤英夫)

次に加藤氏は、”海外マジシャン来日年表”の活用方法として、4つの利用法を説明しました。2つ目の主催者別に再表示した図は、非常に興味深いデータになっています。赤で表示した3列のうち中央のものが、海外マジシャンを招聘した回数のもっとも多い、マジックランドです。赤表示のいちばん上のテンヨーは、マジックフェスティバルの連続開催年数はダントツですが、海外マジシャンを招聘した回数では2番目の多さです。そして1993年という最近から始まったイベントとしては、名古屋のUGM のイベントが多くの海外マジシャンを招聘していることがわかります。


■第1回MN7研究会レポート(14) 3.7【Part3】3.マジシャン演技の良い要素と悪い要素を見分ける(加藤英夫)

続いて、加藤氏は「マジシャン演技の良い要素と悪い要素を見分ける」という利用方法を説明しました。前に紹介したリトルウッドの演技についての批評文は、その実例として取り上げたそうです。
「その批評では、彼の良い点と、考えてほしい点とを書きました。マジシャンの演技
を見るとき、たんに見て感心するだけではなく、そのマジシャンの何が素晴らしいのかとか、「ここはこうした方がいいんじゃないかな」などと考えながら見ることによって、マジシャンとしての感性が磨かれていくと思います」と言われました。

この観点は重要だと思いますが、私自身もかつて、「ショーレポート集」をWebサイトに掲載しました。No.1(1989年)~No.53(2006年)まで書いていますが、今でも「スティングのマジック玉手箱」にアーカイブとして残していますので、興味のある方はご覧ください。
★ショーレポート集 (スティングのマジック玉手箱)

最初は自分のメモとして、途中からは、100本を目指して書き続けましたが、2007年以降、SNS(Mixi, Facebook, Twitter)が普及し始めましたので、ショーレポートはSNS(Social networking service)に書くようになりました。

■第1回MN7研究会レポート(15) 3.8【Part4】カードマジック考案講座(加藤英夫)
続いて、加藤氏は、活用法の4番目「演じられたマジックを学び、自分もマジックを考える」ことについて、説明しました。
加藤「動画では自分の知らなかったマジックを色々見ることができます。それらを見て、演出のバリエーションを考えたり、手法のバリエーションを考えること、さらには発展させて新しいマジックを考案することは、マジシャンとして、もっとも有用な利用の仕方です」
具体例として、GordonBean の’Bikers’というパケットトリックが紹介されました。

加藤「このトリックはジョーカーが自転車から降りてスペードのKになるという話が面白いですが、このように同じ現象が繰り返されるトリックは、どうしてもクライマックスのインパクトが出しにくいです。
そこで私は8 枚使って、最初の4 枚は1 枚ずつ変化させ、残りの4 枚はいっぺんに変化させるというバリエーションを作りました。題して’そして誰もいなくなった’です。ご覧ください」

■第1回MN7研究会レポート(16) 3.9【Part4】カードマジック考案講座その2(加藤英夫)
次に、加藤氏は、やはりGordon Bean の作品で、’タイムカード’を取り上げました。

加藤「この演じ方では、カードが当たるというのと、指定された時間が現れるという現象には、起承転結的には関連性がありません。複数現象のマジックでは、現象同士に関連性があると面白さが増すということがあります。
ではこのトリックのように関連ない現象と現象を関連づけるにはどうしたらよいでしょう。こういう場合にこそ演出としてのストリーづけが有効であるのです。たとえばつぎのような話をしてやるのはどうでしょうか」
(左下図参照)
加藤「デックの構造は原案と同じで、時間の代わりにアルファベットを書けば、原案とまったく同じやり方で演じられます。
つぎに’タイムカード’の私の考えたバリエーションをご覧いただきます。これは2つの現象がお互いに、左右対称で関連するというものです。題して’あちらこちら’です。ご覧ください」

(注)加藤英夫氏考案の「そして誰もいなくなった」と「あちらこちら」の2作品は、当日参加者に配布された付録に解説されています。

■第1回MN7研究会レポート(17) 3.10【Part4】カードマジック考案講座その3(加藤英夫)
続いて、加藤氏は、マイケル・アマーが演じている’J.C. Super Closer’について考察しました。

★Michael Ammar – JC’s Super Closer

加藤「この演技の手順は、いくつかのトリックが組合われさていますが、ここではGene Finnel が考案した”Spelling the Aces”の部分について考察いたします。この演技を見て、客にカードをカットさせて、各Aをパケットのバラバラの位置に埋没させる操作が、Gene Finnel の原案のやり方と違っていることが、私は素晴らしいことだと思いました。原案ではこのようにAをパケットにぴったり置いて、その上に隣のパケットからカットしてこのように重ねます。Ammar はAを前にずらして置いています。その場面がこちらです」

加藤「このような重ね方をすることによって、Aがランダムに入れられたことがはっきり印象づけられるのです。私はAがランダムに入れられたことがはっきりする方法が他にないかと考えました。そして思いついたのは、カットして重ねるのではなく、隣りのバケットから1枚ずつディールしていき、客にストップをかけさせるやり方です。そのやり方を採用して、日本人には馴染みのないスペルを使うことではなく、数でカードをディールするとことにして、このようなトリックを作りました。題して、’フリーディールポーカー’です。

加藤「以上、年表に登場するマジックを見て、色々なことを学び、色々なことを考えることによって、マジックを楽しむと同時にマジシャンとしてのレベルアップに役立てていただけると思います。さてこのあとは休憩をはさんで、いくつか貴重な動画を見せして、お話をさせていただくことにいたします。ここまで有り難うございました」

■第1回MN7研究会レポート(18) 4.1【Part5】マジシャン・オン・パレード(加藤英夫)
15分の休憩の後、第2部 4.映像上映 が始まりました。
加藤「Part2 の最初の動画で紹介したマジシャンは、ロシアのキオでしたが、このPart5 の最初に紹介するのは、何とウクライナのマジシャンです。両国はいまたいへん過酷な状態にありますが、こと芸術に関しては両国とも、マジックにかぎらず、音楽、バレエなどでも素晴らしいアーティストを輩出してきました。ウクライナのガリナは、そのような伝統を受け継いでいるマジシャンだと思います。それではご覧いただきましょう」

★Galina – Magician – The World’s Greatest Magic III – 1996

■第1回MN7研究会レポート(19) 4.2【Part5】マジシャン・オン・パレード2(加藤英夫)
加藤「つぎはマジックにおける’エンタテイメントファクター’について、とても参考になる2 つの動画を見ていただきます。マジックのエンタテイメントファクターを大ざっぱに分類すると、不思議さ、面白さ、美しさ、ということになると思いますが、2 つの動画を見ていただいてから、それらのファクターについてお話したいと思います。では。」

Mark & Pinky (Malaysia)

Sos & Victoria(Germany)

加藤「最初のは通常の営業アクトではなく、一定時間に何回チェンジできるかというトライアルです                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          から、このマジシャンのやり方を批判することはいたしませんが、このように現象をただ連続してやることが、不思議さ以外の要素がないことの好例だと思って見ていただきました。あとの方は衣装チェンジだけでなく、他のイリュージョンも取り入れてますし、チェンジの仕方も色々違うやり方をしていして、舞台構成も動きも素晴らしいですし、最後のやり方が確実にクライマックスになっています。すなわち、前者はマジックファクターのうち、不思議さだけの見せ方であり、後者は不思議さだけでなく、面白さ、美しさが表現されていると思います」

■第1回MN7研究会レポート(20) 4.3【Part5】マジシャン・オン・パレード3(加藤英夫)
加藤「衣装チェンジでは同じやり方を繰り返すのは面白くありませんでしたが、同じやり方を繰り返しても面白いマジックもあります。むしろ同じやり方を繰り返すから面白いのかもしれません。そんなマジックを見ていただきます。デンマークのヨルゲン・サムソンです。」

加藤「ヨルゲン・サムソンについては、面白い経験をしています。1991 年にテンヨーのマジックフェスティバルに出演したとき、私もバックステージにいました。サムソンが楽屋の部屋からステージに歩いていくのを目撃したのです。なにせ彼は体中にネタを仕込んでいました。一歩ずつゆっくり歩いていました。そして三越劇場には、楽屋の床から舞台の面までに、3 段ぐらいの階段がありますから、それをたいへんそうに上がる彼の様子がいまでも思い出せます。今回の調査で仕込んだネタの合計が42キロだと知って驚かされました」

■第1回MN7研究会レポート(21) 4.4【Part5】マジシャン・オン・パレード4(加藤英夫)
加藤「さて、天海師とお話したとき、天海さんが素晴らしいと思うマジシャンは誰ですか、と尋ねたことがあります。するとすぐカーディニと言われました。そしてこうも言われました。「もちろんポロックもそうだけど、名前は忘れたけど、笑顔が素晴らしいマジシャンがいたね」と言われた瞬間、私は「ジョニー・ハートですか」と言いました。「そうだジョニー・ハートだ。彼は男でも好きになるようないい男だったな。演技中のスマイルがよかった」と言われたのです。私もまったく同感でした。ではご覧いただきましょう。イギリスのジョニー・ハート」

■第1回MN7研究会レポート(22) 4.5【Part5】マジシャン・オン・パレード5(加藤英夫)
加藤「さて最後にフランスのノベール・フェレですが、彼とは私にとって最高の想い出があります。2000 年FISM リスボン大会で彼の演技を見て、テンヨーはその年のフェスティバルに招聘いたしました。私も接待役の一人でしたので、親しい関係となりました。そして彼が2003 年FISM ハーグ大会でグランプリを獲得したとき、プライベートな祝勝会をやったのです。これがそのときの写真です」

加藤「マーカ・テンドーさんもいました。FISM チャンピオンになったフェレと過ごしたこのひとときは、私にとっては宝物のような想い出です。さて彼がそのFISM ではボールのアクトで優勝しましたが、のちにカードで新しいアクトを創作しました。それをご覧いただきます」

加藤「私はこの動画を見て、「これこそアートとしてのマジックだ」と思いました。なぜ素晴らしいか考察するのはよしておきましょう。ときにはマジックを見て心から素晴らしいと感動するだけでも、マジシャンとしての栄養になるのです」

■第1回MN7研究会レポート(23) 4.6【Part5】マジシャン・オン・パレード6(加藤英夫)
加藤「’海外マジシャン来日年表’の話に戻りますが、マジックランド主催のショーやレクチャーに招聘されたマジシャンを年表から抜き出してみました。こちらです」

加藤「何と144 名もいます。これだけのマジシャンをマジックランドさんが日本のマジシャンに見る機会を提供していただいたことは、間違いなく日本のマジックの発展に大きく寄与してきました。このようなことは年表を調べなくてもわかっていたことではありますが、年表のデータを分析したり、追跡調査などをすることによって、様々なことを明確に確認することが可能となり、様々なことを学ぶことができるようになりました。それも蓮井彰さんのおかげです。蓮井彰さんとの想い出と、蓮井さんへの感謝の気持ちを胸に抱きながら、私の話を締めくくらせていただきます。有り難うございました」

■第1回MN7研究会レポート(24) 5.対話(加藤英夫・中村安夫)

最後のパート(対話)では、私から加藤さんに以下の質問をしました。

中村:年表に掲載されている動画は、私もYouTubeでマジシャンはよく見る方ですが、見たこともない素晴らしい動画がたくさんあります。中でもジョニー・ハートの演技には感激しました。天海さんが「笑顔が素晴らしい」と言われていたのが印象的でした。私もカードマニピュレーションを演じることがあるので、彼のような笑顔ができればいいなと思います。
それらの映像はどのようにして見つけられたのですか?

加藤:マジシャンの情報は、まず、MagicpediaやWikipediaで調べます。そこから関連するキーワードを組み合わせながら、動画を探していきます。キーワード検索のポイントは3つのワードを使うことです。2つだけでは、関係ない内容が大量に出てきてしまいます。

中村:今回の年表CDには、“海外マジシャン来日年表”副読本として「マジシャンからの贈り物」の予告版(44p)が収録されています。完成版は来年4月に発行予定ということですが、この副読本について、少しご紹介してください。

加藤:内容としては、マジシャンにまつわるエピソード、マジシャンの考え方、そしてときにはマジシャンの演じているマジックの考察、マジシャンから影響を受けて私が考えたマジック作品や、論評など様々な種類のコンテンツが満載されています。Alex Elmsley に関しては、’エルムズレイカウント’の考案者として重要な存在ですので、この技法について私が編纂した”Card Magic Library”第2巻のPDF版を、丸ごとCDに収録する予定です。ご期待ください。

中村:それは楽しみですね。加藤さんは、すでに400ページ以上の原稿を書き終えられたそうです。

最後に私から、第2回MN7研究会の告知をしました。

■第1回MN7研究会レポート(25) 打ち上げ懇親会

終了後、関係者とゲストの方々と一緒に近くの中華料理店で打ち上げ懇親会を行いました。
今回でレポートを終了します。これまでお読みいただいたみなさま、ありがとうございました。4月21日の第2回MN7研究会でお会いしましょう。


Facebook レポート

■レポート(1)会場設営
■レポート(2)開場
■レポート(3)展示物
■レポート(4)配布物
■レポート(5) MN7の活動状況(中村安夫)
■レポート(6) 1.来日記録から来日年表への変遷(中村安夫)
■レポート(7) 2.蓮井彰氏のマジック界への貢献(小野坂東)
■レポート(8) 3.1 海外マジシャン来日記録の考察(加藤英夫)【Part 1 蓮井彰氏との運命的な出会い】
■レポート(9) 3.2 【Part 2】 ”海外マジシャン来日年表”の構造(加藤英夫)
■レポート(10) 3.3 【Part2】島田晴夫と加藤英夫
■レポート(11) 3.4 【Part2】ケン・リトルウッド
■レポート(12) 3.5 【Part2】ケン・リトルウッドを見て(加藤英夫)
■レポート(13) 3.6【Part3】”海外マジシャン来日年表”活用方法(加藤英夫)
■レポート(14) 3.7【Part3】3.マジシャン演技の良い要素と悪い要素を見分ける(加藤英夫)
■レポート(15) 3.8【Part4】カードマジック考案講座(加藤英夫)
■レポート(16) 3.9【Part4】カードマジック考案講座その2(加藤英夫)
■レポート(17) 3.10【Part4】カードマジック考案講座その3(加藤英夫)
■レポート(18) 4.1【Part5】マジシャン・オン・パレード(加藤英夫)
■レポート(19) 4.2【Part5】マジシャン・オン・パレード2(加藤英夫)
■レポート(20) 4.3【Part5】マジシャン・オン・パレード3(加藤英夫)
■レポート(21) 4.4【Part5】マジシャン・オン・パレード4(加藤英夫)
■レポート(22) 4.5【Part5】マジシャン・オン・パレード5(加藤英夫)
■レポート(23) 4.6【Part5】マジシャン・オン・パレード6(加藤英夫)
■レポート(24) 5.対話(加藤英夫・中村安夫)
■レポート(25) 打ち上げ懇親会

参考情報

海外マジシャン来日記録