“Sphinx Legacy” 編纂記 第6回

加藤英夫

今回は、”Sphinx”で読んだ記事にもとづいて、関連書籍を読んで得られたイリュージョンの情報、解説を紹介いたします。イリュージョンについて日本ではあまり書かれてこなかったので、このようなものはたいへん貴重な資料になると思います。

Chung Ling Soo’s ‘Oyster Shell’

= Will Goldston 著 , “Secrets of Fanous Illusionists”, 1933年 =

これは、”Sphinx”のChung Ling Sooについての記事に関連して調べて見つけたものです。

Another of Soo’s favourite mysteries was ‘The oyster Shell’, a picturesque illusion.

The ‘Oyster Shell’ was a delightful deception, very effective and yet the secret was simple. The second diagram shows the ‘shell’ as shown to the audience,on a small raised Platform. The top shell was closed over the lower, and the whole shell was then then on the platform.ln a moment the top shell was raised and out stepped the ‘Pearl’ from the ‘Oyster’.

The assistant, as will be seen from the diagrams, was concealed behind the lower shell in the first place.The oyster in the shell was nothing more than gauze on a spring blind. Directly the top shell concealed the lower one,the assistant released the spring,and so passed through in between the two shells.

図を見るだけでも構造がわかりますので、上記の英文に対する補足は書きません。フタを開けるとき、右図からそのまま左図のようにフタを開けるのではなく、中央図のように後部を持ち上げてからフタを開くことによって、女性が下に隠れるのです。出現させるときは、フラットに置いたままフタを開けます。

Dida – a Wet Illusion

by Marco Pusterla, “The Epheral Collector”サイト、2012年2月23日

Venturiniというマジシャンの紹介記事において、彼が得意としていた’DIDA’というイリュージョンについて語っている中から、以下にはごく一文を抜粋引用いたします。

However, before coming to England, Venturini stopped for some time in Berlin, his home town (his address was 41 Steinmentzstrasse) where he acquired some new illusions for his shows. One of the illusions he acquired is the so-called “Dida”. This is the production of a girl inside a tank full of water on a bare stage, immediately followed by the production of a second girl.

左下のようにガラス製の空の箱に水を入れます。箱に布をかけてどけると、右図のように女性が現れます。私はこのイリュージョンについて、かなり長い補足文を以下のように書いています。

 私はこの’DIDA’というマジックを生まれて初めて見たとき、ものすごく近くで見ました。1mか2mの近さでです。というのは、松旭斎天洋師が上野の本牧亭で演じたときに、助手を務めたからです。出現させた女性は、天洋師の後妻である椿さんのお嬢さん、芸名が三条正子さんでした。

ただし本牧亭で水を使うことはできませんから、水を入れずに演じられました。たんに布をかけるときに下に隠れていた女性がガラス箱に入るだけで、不思議に思うのだろうか、と思いつつ手伝ったのですが、観客はすごく驚いていました。

布を広げたときに下に隠れていた女性が素速く移動する、というのは’Metamorphosis’の秘密の行動と似ています。Pen Dragonsのあの絶妙なタイミングで行われれば、まさかその一瞬にそんなことができるとは感じさせないでしょう。

つぎに不思議さを生み出す要素は、たとえ下の台の中に隠れていたとわかっていても、どのようにしてガラス箱の中に入るか想像ができないからではないでしょうか。ということは、箱の後方に突き出ている突起の部分が、このイリュージョンの主要な仕掛けであるのです。そこにのって箱の中に入るのです。

まだ若かったころの私は、最初から種を知ってしまい、このイリュージョンがたいしたことがないと思い続けていました。しかし今回の調査で、20世紀初頭にイギリスでもアメリカでも一世を風靡したマジックであることが、よく理解できました。しかも私が最初に見たのは、水を入れないでやるやり方でした。水の中に女性が現れる、という演出的な要素もこのイリュージョンの魅力であるのです。

‘DIDA’では、同じ現し方で2人の女性を出現していますが、同じことを2回繰り返すということが、必ずしも不思議さを増幅させないことも考えられます。ここまでの説明を読んで、どのマジシャンもそのように演じていたというのですから、それで通用していたのでしょう。 

違う物を現すというやり方もあり得るのではないかと思いました。最初は水に浮かぶ水鳥の玩具やボールなどをいくつか出現させ、もういちどやると女性が現れるとするのです。

このように取り上げた記事に関して私の経験談がある場合には、かなり詳しく書かせていただいている場合があります。さらに私はつぎのように書いています。

‘DIDA’について研究してかなり経ってから、’DIDA’と原理は同じでありながら、ものすごい発展的バリエーションが演じられている動画を見つけました。以下のアドレスで見ることができます。

このやり方では、水槽の代わりに、ベッドを使うことによって、入れ替わる2人の距離を短くしていることに、スピーディな入れ替わりが可能となっている理由があります。マジックというものは、使う道具、素材によって、扱い方が変わってくることがある顕著な例です。それにしても、ペンドラゴンズなみの入れ替わり方がすごいですし、それ以上に、ベッドというナチュラルに存在する道具を使っているところに、斬新さを感じます。

マジックの動画はたんに無作為に見るよりも、記事を読んでから見ることによって、より面白く見られますし、知識としてより深く吸収できます。”Sphinx Legacy”ではその点に配慮して、記事に関連した動画をいくつも閲覧した上で、有意義なものを選択して、アクセスできるように配置するようにしています。

ところで上記のイリュージョン動画は本当に素晴らしいですから、絶対に見てくださいね。

(つづく)