“Sphinx Legacy” 編纂記 第7回

加藤英夫

私は”Sphinx”に書かれているカードマジックの解説や広告を見てヒントを得て、カードマジックをかなり考案してきました。”Sphinx Legacy”は本来歴史主体の書籍ですから、自分の考案したカードマジックを収録するのはおかしいことです。しかしながら、過去のマジックを学んで新しいマジックを生み出すということは、歴史を学んで過去からの遺産を受け継ぎ、それを発展させていくということです。そのようなことは歴史研究の本来のあり方ではないでしょうか。

もちろんそれはカードマジックについてということではなく、マジックに対する考え方や理論や、一般の人々へのマジックの提供の仕方など、あらゆることについてのことです。そういう考え方にもとづき、”Sphinx Legacy”編纂中に考案したカードマジック作品も収録しています。その一例を紹介いたします。

出典:”Sphinx”,1908年9月 執筆者:Burling Hull

This is an improvement so that a person may turn his card anyway, yet it may be instantly found. Divide your Stripper Pack in two equal parts, turn the upper half around and place cards together. Have a card selected, fanning out cards. If he takes a card from the upper part, when he returns his card fan out cards so he is forced to return card to the lower half. By simply drawing fingers along lower half card comes right out. I have taken pleasure in fooling the wise ones with this who would turn their card around when returning it. It was merely necessary to allow the card to be returned to the top or bottom, as the card was turned. Certain magicians will want to kick themselves when they read this. “Oh! Why didn’t I think of that?”

ストリッパーデックをあらかじめ上半分とした半分を方向違いにしておくというアイデアは、たぶんどこかで読んだことがあるかもしれませんが、これだけ古い号に書かれているのを見つけたので、記録しておくことにいたしました。半分を方向違いにしておき、一方から1枚選ばせて他方に返させる、というこのアイデアは、ストリッパーデックを使用して’トライアンフ’的なマジックをやるのに適しています。つぎのようにやります。

Hullのアイデア通りにやります。上半分と下半分が方向違いになっていて、選ばれたカードが方向の違う半分に入っています。境目で分けて、一方を表向きにします。そのとき全体の方向が同じになってしまわないような置き方をします。そしてリフルシャフルします。リボンスプレッドして、裏表がよく混ざったことを見せます。

プルアウトして、一方をひっくり返して、もういちどリフルシャフルします。これで選ばれたカードだけリバース状態になっていますから、トライアンフと同じように結末を見せます。

この部分を読み直したとき、Hullのアイデアをもっと有効に使うことはできないかと考え始め、Hullのアイデアをその通りに使うわけではありませんが、私としては強力なトリックが創作できたと思いますので、関連作品として収録いたしました。

ダブルトライアンフ
= 加藤英夫、2020年9月29日 =

* 現 象 *

表向きに広げてよく混ざってるいることを見せてから、デックを中央から分けて、2組を裏向きにテーブルに置きます。あなたが後ろを向いているとき、相手はどちらか一方の組を取り、何回かカットしたあと、トップカードを表向きして、1回カットします。そしてその組をもとの位置に置きます。マジシャンはどちらかの組の1枚が表向きにされたかわかりません。

マジシャンは前に向き直り、一方の組をひっくり返し、裏向きの半分と表向きの半分をリフルシャフルします。シャフルするとき、ひっくり返っているカードが見えないように、顔を横に向けてカードを見ないでやります。

それからデックをリボンスプレッドして、「このように広げると、あなたがおぼえたカードが何だかわかるのです」と言って、スプレッドを見渡します。そして「あなたがおぼえたのは○○の××です」と言い当てます。

「このマジックはこれで終わりではありません。いまからカードを広げた瞬間に、あなたでも○○の××がどこにあるかわかる状態にします」と言って、マジシャンはまたデックを二分してリフルシャフルします。そしてリボンスプレッドすると、全体が裏向きになっていて、1枚だけ表向きのカードがあります。「ほら、ここに○○の××があるのがわかります」と言って、表向きのカードを指さします。それは○○の××です。

* 準 備 *

ストリッパーデックからダイヤとクラブは奇数の7枚ずつ、ハートのスペードは偶数の6枚ずつ抜き出し、ダイヤとハート、クラブとスペードをよくシャフルしてから、赤黒交互にセットします。説明上、こちらをaグループと呼びます。残りのカードも同じやり方で赤黒交互セットします。こちらをbグループと呼びます。2組を方向違いにして重ねます。

* 方 法 *

デックを表向きにリボンスプレッドして、「カードはよく混ざっていますが、念のためシャフルしておきます」と言って、境目から分けてリフルシャフルします。「そして2組に分けます」と言って、カードをプルアウトして分け、2組をテーブルに置きます。(プルアウトとは、デックの上エンドを左手の親指と中指、下エンドを右手の親指と中指で持ち、方向違いのカードをすべて引き抜くことです)。

「私が後ろ向きになっいるときに、あなたにやってもらうことを説明します。好きな方の半分を取ってください」と言って、好きな方を相手に取らせ、左手に持ってもらいます。残りの組をあなたが取り上げて左手に持ち、「私と同じようにやってください。まずこのように何回かカットします」と言って、何回かカットします。そして相手にも何回かカットさせます。

「そうしたらいちばん上のカードをこのように表向きにしてください」と言って、ゆっくりトップカードを押し出して、右手でそれを横方向にひっくり返します。相手にもやってもらいます。相手にも同じように横方向に表向きにさせることが重要です。「そして表向きにしたカードをおぼえてください」と言います。

「そうしたらこのように1回カットして、表向きのカードが見えないようにしてください」と言って、1回カットします。相手にもやらせます。あなたの組をテーブルに置き、「最後にカードをテーブルのカードの隣りに置いてください」と言って、あなたが置いたカードの隣を指さし、相手の組をそこに置かせます。

「表向きのカードを裏向きに戻しておきましょう」と言って、一方の組を取り上げて、表向きのカードの手前まで広げたら、右手のカードで表向きのカードを横方向に裏返し、右手のカードを重ねます。それをテーブルに置いて、他方の組の表向きのカードも同じやり方で裏向きに戻します。どちらの組も赤黒交互状態が保たれています。

後ろ向きになり、「それではどちらかの組を取り上げて、いま説明したことをやってください」と言って、やってもらいます。相手がやり終わったら前に向き直り、「このままではあながおぼえたカードだけ表向きになっていますから、それがわからない状態にします」と言って、左右の組を横向きにしますが、2つの組が方向違いになるようにやります。それからどちらかの組を上下方向に返して表向きにします。

「これからカードをシャフルしますが、そのときひっくり返っているカードが見えるといけないので、私はカードを見ないでシャフルします」と言って、顔を思い切り左に向けて、リフルシャフルします。そして裏表混ざったデックをリボンスプレッドします。「広げたカードを見渡すと、あなたがおぼえたカードがわかります」と言って、スプレッドの中の表向きのカードだけを左から右へ見渡します。表向きの中で同じ色のカードが続いているところを見つけます。1カ所しかありません。

その2枚が同じグループに属するカードであれば、それはどちらもおぼえたカードではありません。その2枚が違うグループの同色カードであれば、他の表向きのカードを見て、その2枚のどちからがグループに属さないかで、どちらがおぼえたかわかります。「あなたがおぼえたのは○○の××です」と当てます。

その2枚が同じグループの同色カードである場合は、「あなたのおぼえたカードはこの中にはありません」と言います。そしてスプレッドを閉じ、ひっくり返してからスプレッドし直します。そして同色カードが2枚続いているのを見つけ、どちらがグループに属さないかを見て、おぼえてカードを判断し、「あなたがおぼえたのは○○の××です」と当てます。

「このマジックはこれで終わりではありません。いまからカードを広げた瞬間に、あなたでも○○の××がどこにあるかわかる状態にします」と言って、スプレッドを閉じ、プルアウトして、一方をひっくり返してリフルシャフルします。

デックを裏向きにリボンスプレッドします。1枚だけ表向きのカードがあります。「ほら、ここに○○の××があるのがわかります」と、表向きの○○の××を指さしながら言います。

最初に方向違いの半分同士をリフルシャフルしておいて、それを表向きに広げて見せるところから始めてもかまいません。

(つづく)