“Sphinx Legacy” 編纂記 第13回

加藤英夫

今回は、一般の雑誌でマジックの解説が頻繁に掲載されていたことの一例として、”Popular Mechanics”という雑誌に掲載されたものをいくつか紹介いたします。

出典:”Sphinx”,1913年11月号 執筆者:A.M. Wilson

Popular Mechanics for November gives a description, with engravings, of the rubber band trick in which a rubber band jumps from the index and second fingers to the third and little fingers. The same trick was published several months ago in Goldston’s Magician Monthly. The -same issue of Popular Mechanics describes “A Swinging Pendulum Trick.”

この輪ゴムのトリックは、今日でもスタンダードトリックとして普及しているトリックです。”数ヶ月まえに”Magician Monthly”に書かれている”というので調べたところ、数ヶ月まえではなく、同誌1911年12月号においてでした。考案者はStanley Collinsです。

“Popular Mechanics”が取り上げるマジックの分野は、上記のように一般の人々に楽しんでもらえるような、種明かし問題で非難されないようなものばかりではありません。中には、イリュージョンの暴露みたいなものもあります。

種明かし問題になってしまうのではないかと心配するようなものが、著名マジシャンによって解説されているものも多数あります。Blackstone、Paul Le Paul、Cardiniなどが教えている写真が多数添えられて掲載されているのです。そのことは、それらのマジシャンが一般の人々に認知度が高いことを示していることでもあり、歴史研究には参考になることでもあります。

「あのマジックがそんな昔からあったんだ」と思わせるものも、よく登場します。(株)テンヨーで以前販売していた’キュビオ’は、形は違いますが、”Popular Mechanics”1914年4月1日号に解説されています。

‘オキトのコインボックス’は、1910年に、”Sphinx”に広告が出て以来、さすがに製品として販売され続けていたこともあり、しばらくは”Popular Mechanics”では取り上げられませんでした。しかし”Magic Wand”,1914年9月号にやり方が解説されたあと、”Popular Mechanics”1915年6月1日号に解説されました。

いずれにしても、私たちの歴史研究にも参考になりますので、いくつかの号から引用することにいたします。

 1914年1月2日号

‘Levitation’の種明かしですが、ただ仕掛けの暴露ではなく、演じ方のプロセスも丁寧に解説されています。’AGA’は演技者の体に沿って仕掛けが位置されて隠されますが、この図のものではうまく隠れません。この通りの方法が使われていたかどうかは、かなり疑問が持たれます。

 1914年4月1日号

‘Spirit Clock’と呼ばれるトリックで、針をまわすと、任意の時間に止められるような仕掛けになっています。針の中央部分に左上の絵のような半円形の重りが入っていて、その部分をまわしておくことにより、目的の時間を指して止まるようになっています。

1921年1月1日号

‘Thumb-tie’用のギミックです。今日では、サムチップを使う方法がよく用いられますが、このギミックは指全体にかぶせるのではなく、紐を結ぶ部分にはめておくものです。

1928年6月6日号

燃やしたマッチの炭で線を書き、手の甲に描いた線をこすって消し、手の中に現すというトリックがこの時代からあったのです。

1930年12月2日号

シリンダーの中にマッチ棒を入れると、反対向きになって出てくるというトリックです。点火薬のついているのと反対の端に、偽の点火薬をつけておき、それを密かに外すのです。

1933年4月2日号

この図の状態から、女性の前に布を広げて見えないようにしてから、布をどけると女性が消えているというイリュージョンです。一方の男性が作り物で、女性が隠れられるように空洞になっているのです。

1935年8月2日号

千円札を1万円札の上にして左図のように重ね、右図のようにグルグル巻いてから広げると、1万円札の方が上になっているというトリックです。巻き終わったとき、一方の札だけ1回よけいにまわすのです。そのためには千円札をのせるとき、左図のように、1万円札より少し上にずらしてのせてやるのです。

1933年11月1日号

マジシャンが後ろを向いているとき、3色の内の好きな色のマミーをケースに入れてもらい、他はどこかに隠してもらいます。マミーは重心の位置が違うので、ケースの傾きによって、色がわかります。

(つづく)