“Sphinx Legacy” 編纂記 第45回

加藤英夫

“Sphinx Legacy編纂記”No.3において、Martini & Max Millianという2人組のマジシャンが種明かしをアクトにしていることを書きましたが、彼らがどのようなことを種明かししていたか書かれていた記事を取り上げます。

出典:”Sphinx” 1903年7月 執筆者:Xavier

Martini & Maximilian (旧名:Brannan & Martini) について何回か取り上げてきましたが、具体的にどのようなマジックを種明かししたかについては、ほとんど書かれていませんでした。この号においては、彼らのアクトを詳細に説明しています。

July 2, I was within 100 miles of Saginaw, Mich. Understanding Martini and Maximillian, who are billed as ‘Two Comical Tricksters and Illusionists Extraordinary’ were playing at the Jeffers Theatre. I took the train and saw their act that evening. I was greatly disappointed, as from reports I had heard and letters I had read written by some of the great lights of the profession of magic and published in your valued paper. I looked for a grand expose of magic.

この執筆者は、2人がどんなことを種明かししているか知りたくて、100マイルも旅して見に行ったのですが、もっとすごいことをやっているのかと期待していたが、がっかりしたと書いています。以下の演目の説明は、翻訳ではなく、原著に忠実に私が簡略に書いたものです。

瓶とグラスに筒をかぶせて、入れ替わる現象を見せたあと、両方の筒に底が抜けた瓶があることを種明かしする。

たたんだ布から玉子を出現させて帽子の中に落とし、玉子に糸がついていることを種明かしする。

金属製のケージに1人が入り、その前面で別の人が布を広げて体を隠し、布を落とすと外の人と中の人が入れ替わっているのを見せ。ケージの一部がゴムでできているのを種明かしする。

ウサギを紙で包んで消失させ、椅子をひっくり返して、サーバントにウサギが入っているのを種明かしする。

最後は1人が椅子に座り、その前に大きな布を張り、布についている顔が見えるぐらいのフラップを開いて、まだそこに人がいることを見せたあと、布をどけると人が消えています。そのあと、椅子の後ろを見せると、消えた人そっくりに見える人形の頭があることを種明かしします。

Xavierは、このようなものを種明かしすることはエチケット上は問題がなく、一流マジシャンが困ることではないと書いています。すなわち彼は100マイルも旅してこのアクトを見にきたのは、もっとすごいマジックが種明かしされているのではないかと思っていたのでしょう。

種明かしが問題なのは、他のマジシャンが困るようなものを種明かしすることよりも、Xavierががっかりしたような、たわいのないものを種明かしすることの弊害です。観客が見て、「何だそんなことだったのか」と思ったり、「マジックは種があるからできるんだな」と思ったら、それは種を知られることよりも、はるかにマジックにダメージを与えると思います。

そして最後にXavierは、この問題がたいしたことではないという論調で、つぎのようにとんでもないことを言い放ちます。

Martini and Maximillian do a burlesque magical act, that is what it is, not an expose of the art of magic destined to put Goldin, Powell, Keller, Hermann, Thurston and the other top-liners out of business, and their act is really a boost for an up-to-date magician, for the people will say, “Now let’s go and see Professor So-and-So and see how much we can catch of his work.”

種明かしアクトを見た観客はマジックに興味を持ち、種を見破ってやろうと他のマジシャンも見たくなるので、マジックの普及に役立つという意味のことを述べているのです。この通りになるのだとしたら、もはやマジックはマジックでなくなり、パズルになってしまいます。昨今のテレビでのマジックや、YouTubeでのマジックも、「あなたは種が見破れますか」という感じのものが多くなっているように感じます。

(つづく)