“Sphinx Legacy” 編纂記 第60回

加藤英夫

出典:“BILLBOARD”, 1943年5月1日 執筆者:Paul Denis

名前を変えたマジシャン

Kepi Clarque, French magician, had them laughing continuously with his tongue-in-cheek kidding presentation of standard magic tricks plus a fancy French accent. We remember him as Keith Clark, without an accent.

Kepi Clarqueというマジシャンの名前は呼んだことがありませんので、たいていなら読み飛ばしてしまうのですが、彼が’tongue-in-cheek kidding presentation’でスタンダードなマジックを演じて、観客を笑わせ続けているというのに興味を惹かれて最後まで読むと、シガレットマジックの大家であったKeith Clarkのことでありました。”Phoenix”1943年5月号に、同じような内容の以下の記事がありました。 

Keith Clark, under the name of Kepi Clarque has been appearing in the International Show at the Glass Hat of the Belmont Plaza Hotel in New York City, representing France.

どうしてKeith Clarkが改名したのかは不明です。シガレットのアクトがCardiniの真似であると指摘されたことがありますが、それが関係しているのでしょうか。Library.comサイトの紹介では、Pierre Feyss、Kepi Clarque、Pierre Cartierなどと名乗ったとのことです。Library.comの紹介文の最後に、つぎの一文がありました。

彼はときによって、愛国的な理由によって、フランスのナンシーの生まれであると偽ることがありました。

本当の誕生地と誕生日は、同サイトによると、Alsace-Lorraine, Germany: 26th April 1908 – 20th April 1979年となっています。アルザス・ロレーヌ地方(Alsace-Lorraine)は第二次世界大戦前はドイツに属していましたが、現在はフランスに属しています。しかもナンシーという都市は、アルザス・ロレーヌ地方にありますから、彼が誕生地を偽ったわけではないはずです。Library.comの情報ソースが、戦争の前後で国籍が変わったのを確認しなかったかもしれません。

いずれにしても名前を何度も変えるということには、何らかの理由かあるはずですが、それはひとつのミステリーとしておきましょう。ちなみに、以下の動画は、Pierre Cartierという名前での演技です。しゃべりながらマニピュレーションをやっているのが、とても新鮮な感じがします。このようなスタイルのマジシャンが現代にいてもいいのではないでしょうか。テレビやYouTube時代には合っていると思います。

(つづく)