“Sphinx Legacy” 編纂記 第63回
加藤英夫
出典:”Billboard”, 1945年1月6日 執筆者:Cy Wagner
‘drunken magician’というタイプ
これまで読んだ”Sphinx”の記事の中に、’drunken magician’という表現が何回か出てきましたが、それがどういうものか説明したものがなかったので、これまで取り上げてきませんでした。この記事を読むとそのタイプのマジシャンが想像できるので取り上げました。
Lee Phillipsの’Magical Mysteries Tonight’は、いままで見た中でベストのショーでした。その理由は、Phillipsが想像力を生かしたショーマンシップで演じたことによります。彼は酔っ払いとして舞台に登場します。それはその日がニューイヤーズイブであるという設定にもとづくものであり、そのことがよく生かされていました。彼は典型的な酔っ払いマジックをやりました。初めはハンカチーフからカクテルを取り出して、そのあとまともなマジックに続けます。
マジシャンが登場するときに、フィリップが演じた酔っ払いのように、ある特定のキャラクターとして演じるとか、ある状況にいることを設定して演じるタイプの演じ方がある、ということに着目しました。
この記事では、その日は大晦日なので酒を飲んだ男を設定しています。そのキャラクター、状況にあった現象を演じています。酔っ払っているから、酒を出現するのはその状況にあっています。酒飲みというのは、どんどん酒を飲みたがるものです。ですからつぎからつぎと酒を出現する現象が合っています。酔いが進んでくると物が二重に見えてくる、ということがありますから、物のマルティプル現象(分裂現象)も合っています。何かを取り出そうとして、違う物が出てきてしまい、それを目的の物に変化させる現象もいいでしょう。
そのように特定のキャラクターに合った現象を見せるタイプのアクトもありますし、特定の場所に合った現象を見せるやり方もあります。典型的な例はカーディニです。ホテルのロビーでベルボーイとすれ違うところから始まります。
カーディニのタイプでは、自分が現象を起こすというスタンスではなく、現象が先に起こり、それに対してマジシャンが反応してつぎのアクションを起こす、というやり方がされます。フレッド・キャプスや石田天海のスタイルです。このようなタイプのマジックのことを英語では、’perverse’な演じ方と呼ばれることがあります。
‘perverse’とは’ひねくれた’というような意味ですが、現象にマジシャンが翻弄されるというようなニュアンスととらえるとよいと思います。
たんに現象を羅列するものをオーソドックスタイプと呼ぶなら、上記のような演じ方に呼び名があってもよいと思いますが、英語では’Perverse Magic’という呼称以外、該当するものを見たことがありません。たとえば’Situation Magic’と呼ぶとしたら、キャラクター、場所、状況に合った現象を見せるというタイプをくくれると思います。
そう考えると、ダグ・へニングのマジックは’魔法の国での出来事’、ランス・バートンのマジックは’ある街角での出来事’というように、シチュエーションが設定されていることが感じられます。ヘクター・マンチャなどは’オカルト世界の出来事’という感じですね。
(つづく)