“Sphinx Legacy” 編纂記 第67回

加藤英夫

出典:“Sphinx”, 1911年1月 執筆者:De Vega

これはDai Vernonが’Harlequin Act’を構築したときに、最初に取り組んだ’Cone & Ball’の手順の土台になったと、David Benが指摘している、De Vegaによるコーンを使ったトリックの解説です。

Dai Vernonが’Harlequin Act’を構築しようと決意した経緯から、そのアクトをどのように組み立てていったかの経緯を、David Benの”Dai Vernon : a Biography”(2006年)から翻訳済みですが、ここには’Cone & Ball’についての部分を紹介いたします。

ある晩のこと、スペンサーとバーノンは’カップ&ボール’をアクトに含めることのメリットについて話し合っていました。2人ともこのトリックは好きでしたが、ナイトクラブのショーには向いていないと意見が一致しました。そもそもこのトリックは現代のマジシャンがよく演じていて、一般の人々もかなり見たことがあります。スペンサーの曰く、このトリックはナイトクラブの客に向いたものではないことです。しゃべったり酒を飲んだりしている客に対しては、現象が理解しにくいのです。彼は言いました。1個のカップと1個のボールで演じられたら、もっと効果的ではないかと。それなら現象をフォローしやすいのです。

スペンサーがそう言うのを聞いて、1個のカップと1個のボールで演ずるマジックを求めて、バーノンの百科事典的な脳は動き始めました。その年ちょうどトム・オズボーンが、”Cups and Balls Magic”という本をカンター社から出版し、その中にそのような手順を書きました。バーノンはそこに書かれたやり方の原点とも言えるやり方を読んだのを思い出しました。それは1909年にニューヨークのマジシャン、バーリング・ハルによって書かれた”Deviltry”という本に書かれたやり方でした。ハルの書いたのは単純なもので、ボールを消失させて、それをテーブルに置かれていたコーンの中から現すというものでした。

ハルはそのやり方を翌年””Expert Billiard Ball Manipulation”という本に再録いたしました。そのあとすぐ、”Sphinx”に2通りのバリエーションが現れました。バーノンはその内のひとつ、スコットランドのデ・ヴェガによって、1911年1月号に書かれた方法がとても面白いことを思い出しました。ベガはボールを右手の甲の上にのせ、その上にコーンをかぶせるときに、怪しさを発生させないで、密かにボールを抜き取ってしまうのです。

バーノンは紙でコーンを作り、セーヤーマジックショップで買っておいた大きなボールを使って、そのテクニックをやってみました。するとまるでジャズの即興演奏のごとく、つぎに続けることのアイデアが浮かんできたのです。スタンダード曲からジャズ演奏を行うようなものでしたが、このケースにおいては、ベガのやり方はスタンダード曲と呼べるようなものではありませんでした。そのメロディはバーノンの心の中に25年間も埋もれていたものです。バーノンはボールを消したり再現させたりするだけでなく、コーンの先端から絞り出して見せられることも、そしてボールの色を変え、必要なら形さえも変えられることを見つけました。スペンサーはそれらを見せられて熱狂し、コーンを使うことをアクトのモチーフにしたらよいと主張しました。それを使うなら、コスチュームやキャラクターはどうあるべかだろうか、と二人は話し合いました。

私はこの詳細な経緯説明を読んで、本当にこれはVernonが語ったことだろうか、という疑問を持ちました。私はVernonに関する文献(“Vernon Touch”も含めて)はほとんどすべて読んでいますが、このようなことが書かれたものは見ていません。Videoについてはすべて見ているわけではありませんので、もしかしたらどこかで語っているのでしょうか。それともBenが取材したVernonの子息から聞いたのでしょうか。Thayerで買ったボールを使ったとか、ジャズの即興演奏のごとくアイデアが浮かんできたなどと、はたしてVernonが語ったのでしょうか。私には真実を知る由はありません。

(つづく)