“Sphinx Legacy” 編纂記 第83回

加藤英夫

出典:”Sphinx”,1921年5月号 執筆者:A.M. Wilson

W.F. DORNFELD-”DORNY”

今月号の表紙は、最近もっとも成功した新しいマジック書の著者を掲載しています。その本の名前は”TRIX & CHATTER”です。

彼はマジックを趣味として始めましたが、長年活動的なパフォーマー、執筆家、そして旅行家として活躍してきました。彼はその活躍を通して幅広い知識を得て、今日マジック界で著名な人々と親交を深めてきました。彼は5月間を陸軍お抱えのマジシャンとして、フランス、ベルギー、英国で過ごしてきました。

彼のアクトは’Painless Magic’と称されています。それはどの都市でもマジシャンたちが羨むようなものでしたが、彼はそれを’National Vaudeville Artists’ Association’と’Variety’に登録することによって、権利を守ってきました。

この紹介文の中に、Dornyの’Painless Magic’というのがNational Vaudeville Artists’ Associationという組織に登録されたことが書かれています。それによってそのマジックがどのようにプロテクトされるのか、ということについては、”Sphinx”のみならず、インターネットでいくら調べてもわかりませんでした。ここには、”Sphinx”から類似の事案を列挙することにいたしました。

1922年1月号

これは、Wirth BlumenfieldからNational Vaudeville Artistsという団体に送られた手紙ですが、”Sphinx”のWilsonにもccで送られたものです。

Dear Sir,
P.T. Selbit氏が1922年1月22日に、英国NottinghamのEmpire Theaterにて、’Growing a Girl’なる新しく素晴らしいイリュージョンを公開することをご報告いたします。

Selbit氏はこのイリュージョンを近々アメリカでも公開する予定です。したがって、このイリュージョンのタイトルを、貴社のProtected Material Dept.に登録していただけるようお願いいたします。それによって、近日中に英国で彼が公開するやり方が、模倣されたり暴露されりたりすることから完全に守られることを期待いたします。ご解答をお願いいたします。
Yours respectfully.
WIRTH BLUMENFIELD & CO.,Inc. W. Blumenfield.

Dornyの記事でもそうでしたが、どのようなマジックが登録されたのか書かれていません。演目の名前だけを公表して、それだけで他のマジシャンがそのマジックを真似しないようにさせるということが、はたしてこの組織にできたのでしょうか。

1922年3月号

COLE & WHELENという会社の広告に、以下の一文があります。

私たちが解説して皆様に提供するものは、New YorkのNational Vaudeville Artistsに登録し、購買者の権利が守られるようにしています。

1924年7月号

Vaudeville Managers’ Protective AssociationとNational Vaudeville Artistsの苦情受け付け委員の合同会議が今週行われました。そしてFowlerのWatchとClockを使うマジックが、独占権利で守られるべきものと決定いたしました。

その決定は、John and Nellie OlmsがWatchとClockを使ったマジックを演ずるものを禁止するものであります。さらにあと2点のFowlerの演目も、Olmsのアクトから取り除かれるものであると決定いたしました。

Fowlerの時計のアクトが登録されているので、John and Nellie Olmsは時計のアクトを演じることが禁止されると書かれています。公表の仕方がずいぶん曖昧であると感じます。”時計のアクトをやってはいけない”とされたのでは、時計を使ったまったく異なるマジックを演じられないことになってしまいます。

このような規則は法律ではありませんから、その組織に属する会員だけに適用されるものです。ですから、その組織が色々と厳しい規則があり、このような例でマジシャンを告発するようなことは、その組織に属することがデメリットになり得るということにつながる可能性があるのではないでしょうか。

話をDornyのことに戻します。彼が’Painless Magic’と呼称していた理由を知りたいと思っていくら調べてもわかりませんでした。しかしながら、Dornyが書いた”Trix and Chatter”という本の中に、そのアクトでどんなことを演じていたか演目だけですが書いてありました。

私がいつもやっているアクトとして’Painless Magic’というのがあります。それは’Torn and Restored Napkins’、’Card tricks’、’Fancy Shuffles’、’Dyeing Tube’、’Twentieth century silks’で構成されています。私はそれらを演じながら立て続けにしゃべりまくります。とくに軍人相手のショーに適したアクトです。たった5種類のマジックで20分も演じますから、無駄話もする必要があると想像できるでしょう。観客がそれを喜んだかと言われれば、大いに喜んでもらえたと自信を持っています。

”Trix and Chatter”はとても面白い本です。以下にアクセスすればダウンロードできます。

https://ia800208.us.archive.org/21/items/cu31924084449192/cu31924084449192.pdf

[後日追記]

最後まで’Painless Magic’のタイトルの意味するところがわかりませんでしたが、前述のような重々しくないマジックをユーモアたっぷりのしゃべりで見せるということから想像すると、’Painless’には’痛みのない’という意味意外に、’努力を必要としない’という意味もありますから、’気楽に見られるマジック’というニュアンスがあったのではないでしょうか。

(つづく)