“Sphinx Legacy” 編纂記 第85回

加藤英夫

出典:”Sphinx”,1921年11月号 執筆者:Max Holden

Charles Morrittは彼のショーに、”The Man in a Trance”という新しいアクトを加えました。

この短い一文を見て、Charles Morrittについて調べました。彼はHoudiniの’Vanishing Elephant’のもととなる、’Vanishing Donkey’の考案者ですが、コインマジックで重要なパーム技法の考案者でもあります。Boboの”Modern Coin Magic”(1952年)の中に、Morrittの’Purse Trick’というのが解説されていて、そのトリックで使われているパームのやり方です。DaiVernonの’Spell Bound’でも使われていて、のちに’Morritt Grip’と呼称される技法としてコインマジックの歴史に残りました。’Morritt Grip’の詳細な解説が、執筆者は不明ですが、Angelfireのサイトにありました。

この解説には素晴らしい点と、素晴らしくない点があります。素晴らしいのは、文章の解説と図が一対一で示されている点です。マジックの解説において、文章と図の位置関係というのは、たいへん重要なことです。いちばんよくないのは、文章と図をまったく分けて、図をまとめて表示することです。”Andrus Card Control”などは、文章と図が別冊となっていて、読む気にさえなりません。1冊であったとしても、図をひとつのページにまとめているものは、けっこうたくさんあります。私はそのようなものは読まないことにしています。苦痛でしかありませんから。

このことは、JCSの教科書を作成するときにMr.マリック師とよく話し合いました。マリックさんの言ったことをはっきりおぼえています。「加藤さん、マジックの解説でいちばんよいのは、スライド方式ですよ。図をひとつずつ順番に見せて、それぞれの図に説明をつけるのです。できれば1ページにひとつの図と文章を表示して、ページをめくって学んでもらうのです」。

本ではそのようなことをやるわけにはいかないので、図と文章を一体化するということだけを採用して、JCSの教科書は、以下のようなものになりました。

さて、前述の’Morritt Grip’の解説で、素晴らしくない点とはどういうことでしょうか。それは解説の最初の図にあります。あの状態から’Morritt Grip’にコインを運んでパームするということは、絶対にありません。

たとえばリテンションバニッシュをやったあと、右手にあるコインをMorritt Gripに移すには、右親指で引いてグリップに位置にずらすはずです。袖からスチールしたコインをMorritt Gripするには、手に落としたあと、やはり親指でずらして位置させるでしょう。

この例で見られるように、技法の解説を書くとき、実際にはやりもしない状態から解説しているものが少なくありません。しかし問題なのは、最初の手の形や位置ということよりも、その技法を行うまえにどのような動作をやっていたかが問題なのです。その部分を詳しく説明した技法の解説というものを、読んだ記憶がありません。

クラシックパームなどは、デックを胸の前で両手で持った状態から説明しています。その位置、形にデックを持つことが怪しくないような動作のつながりで行われなければならないということに、著者は配慮すべきだと思います。

最後にもうひとつ、Angelfireにおける解説の素晴らしい点を指摘しておきます。それは、マリックさんがスライドを1枚ずつ見せる説明の仕方がベストである、と言ったことに類することを、このサイトの執筆者もやっていることです。彼(もしくは彼女)は、解説の最後に、アニメーションGIFを掲載しています。このGIFは、自動的につぎつぎと図が変化していくものです。マリックさんが言ったやり方は、すでにこの人が実現していたのです。ただし、図だけが変化するだけなので、完全な説明にはなっていません。以下のアドレスで見てください。

https://www.angelfire.com/ny5/webtek/morritt_grip1.html

この例のように、自動的に変化するのでは使えませんので、読者がクリックするとつぎの図に移れるようにできないかと調べたところ、つぎのサイトにそのようなことが可能になるJava Scriptの使い方が説明されていました。

この発想はすごい!アニメーションgifの再生・停止をコントロールできるJavaScriptライブラリ -Freezeframe.js

私も今後のマジック解説において、トライしてみようと思います。

(つづく)