“Sphinx Legacy” 編纂記 第88回

加藤英夫

出典:”Sphinx” 1924年7月 広告

Petrie-Lewis Mfg. Co.の広告です。このすごい現象の説明を読むと、かえって’Too Perfect Theory’から原理が想像できてしまいます。

このライジングカードは、シンプルでありながらたいへん効果的なものです。その理由はつぎの通りです。

どんな場所でも、まったく準備なしに演じられます。使うデックのすり替えはなく、1組のデックのみを使用します。フォースする必要もありませんし、カードに糸を掛けてセットすることもありません。選ばれたカードにサインを書かせてもかまいません。そのサインの書かれたカードが競り上がってくるのです。カードを選んだ人自身に、選んだカードをスタンドのケースの中に入れさせてもかまいません。何枚のカードでもライズさせることができます。アシスタントも不用です。正確な現象は以下の通りです。

マジシャンはスタンドケースをよく見せてからテーブルに置きます。カード1組を取り出し、よくシャフルしてから半分に分け、一方をスタンドケースの中に入れます。残りの半分を客に渡し、1枚のカードを自由に選んでもらい、サインを書かせます。そしてそのカードをスタンドケースの中のカードの中に入れます。マジシャンが号令をかけると、カードがせり上がってきます。またカードを選ばせて、同じことを何回でもできます。

上記の説明の中で、”客にカードを入れさせてもかまいません”と書かれていることがヒントになっていると思います。先にデックの半分がケースの中に入っていて、そこへあとから選ばれたカードを入れるのです。この説明を読んで、私はラリー・ジェニングスが1969年にダイ・バーノンとともに来日し、三越のテンヨーの大会で演じた’ライジングカード’を思い出しました。

ジェニングスは1枚のカードを選ばせ、デックをカードケースに入れてから、選ばれたカードをケースの中のデックの中に入れました。そして魔法をかけると、選ばれたカードがせり上がってきました。彼はそれを演じただけですが、観客はたいへん驚いていました。私も驚きました。

その後、そのマジックは’Art of Close-up Magic Vol.1’(1967年)に解説された、Alan Alanによるやり方であることがわかりました。”Card Magic Monthly”Vol.30に私が書いた解説を採録いたします。

Alan Alanのライジングカード
= Alan Alan、”Art of Close-up Magic Vol.1″ =

ラリー・ジェニングスが1969年にダイ・バーノンとともに来日したとき、(株)テンヨー主催三越劇場のマジックフェスティバルにおいて演じたもので、イギリスのアラン・アランの考案したものです。解説が複雑になるので、ケースを使用しないやり方を書きましたが、ジェニングスはデックをケースに入れて演じていました。

* 準 備 *

図1のように、細いテグスでループを作り、それにゴム紐をつけ、ゴム紐の端に安全ピンをつけます。ループとゴム紐の長さについては、自分で試して決定してください。

左の袖の中に安全ピンをとめ、図2のようにループを中指にかけておきます。この状態でゴムの張り方が強すぎず弱すぎないことが大切です。

ケースごと相手に渡し、ケースからカードを出させ、ケースを受け取ってポケットにしまいます。デックに仕掛けがないことを確認させます。

デックから1枚のカードを抜かせ、デックを受け取ります。それから図3のようにテグスをデックにかけます。

相手のカードを右手に受け取り、表をこちらに向けてデックの中央に入れますが、テグスの上から押し込みます。(このときにカードがスムーズに押し込めて、しかもカードをうまくせり上げられるようにするには、準備において、テグスの長さとゴムの長さの調整が必要です)。

選ばれたカードが完全に押し込まれたら、デックのサイドをしっかり押さえることによって、相手のカードが出てくるのを止めています。右手でデックに魔法をかけながら、サイドを押さえている力をゆるめ、カードをゆっくりとせり上げます。

ほとんどカードが出たらストップし、相手のカードを名乗らせてから、出てきたカードを右手で抜いて、表を観客に見せます。

デックを右手で取りながら、テグスを外し、袖の中に飛び込ませます。デックを相手に渡し、両手に何もないことを示します。

“Sphinx”に広告されたものは、原理的に同等であると思いますが、せり上げるために糸を引く機構については想像できませんし、それを作動させたり止めたりするスイッチのようなものが必要ですが、それも見当がつきません。現代なら、無線で操作することができます。

(つづく)