“Sphinx Legacy” 編纂記 第89回

加藤英夫

出典:”Sphinx” 1924年8月 執筆者:Clinton Burgess

当時は、マジシャンが霊媒師の手口を暴くということが、よく行われていました。この記事に書かれている降霊会は、Houdiniが”Scientific American”主催で行ったもので、この類いのものとしてはもっとも有名なものです。

“A SPOOK WITH TEMPERAMENT”(激しい気性の幽霊)と題した記事が、”New York World”紙、1924年7月27日号の論説欄の主要記事として、以下のように掲載されました。

Bostonの霊媒師Margeryは、”Scientific American”の霊力の顕れを検証する委員会から、$2,500を得る機会を与えられました。ただしそれを得られるかどうかは、彼女の神秘的なパワーで顕される、Chesterと呼ばれる霊魂の挙動にかかっています。これまでは、Chesterは期待した通りのことをやって見せてはいません。彼が委員会が求めたように彼の能力を見せるまでは、賞金は支払われません。

当然ながら、インチキがなされないような配慮が取られなければなりません。しかしながらそのような配慮というものは、霊魂のすべての挙動に対応できるわけではありません。たとえば、カーテンポールを動かせるかどうか検証しようとしたときに、Chesterがウクレレを弾くと固執した場合には、目的の動きを見ることはできないことになります。いずれにしても窮状は起こり得ます。ウクレレの音が期待されていないときに鳴ってしまったときなどは、それに対する配慮というものが準備されていなければ、その窮状は目立ってしまいます。ウクレレが鳴らず、Chesterが期待通りカーテンポールを動かし、それを委員会の人たちの脚や腕に触れさせたりすればうまくいったことになります。

委員会は、その秘書であるJ. Malcolm Birdによると、Chesterに最後通牒を告げようとしているそうです。家具を動かしたりウクレレの音を出したりすることではなく、切断された電気回路をつなげて電気を通したり、指定した音を出したりすることを要求するのです。そのようなことはフェアな要求であり、Margeryに対する要求としても異論のないものであると判断されました。もしもChesterがふざけ過ぎたり、荒々しく振る舞ったり、要求に真面目に応えようとしなかった場合には、Margeryは賞金を得られないことになりました。それだけでなく、今後はChesterを使って降霊術をやらないことを約束させられました。

以上の記事では、いかにもMargeryが、記事の書かれた27日以降に霊交術をやるかのように現在形で書かれていますが、Houdiniの著書”Margery, the Medium Exposed”(1924年)によると、行われたのは1924年7月23日のことでした。

”Margery, the Medium Exposed”は、以下のアドレスでダウンロードできます。

https://viewer.slv.vic.gov.au/?entity=IE6898101&mode=browse

A.M. Wilsonは、”Sphinx”,1934年9月号でつぎのように書いています。

私はHoudiniがMargeryのChesterを使った降霊術を見破ったと述べたことが報告された、20紙ぐらいの新聞の切り抜きを持っています。”Scientific American”のMunn氏がHoudiniの説明を信じたかどうかは別にして、私はHoudiniの言い分を信じます。人々に対して誠実であることを旨とする私と同業の医師であるMargeryの夫が、妻にこのようなことをやらせていたことは、たいへん卑劣なことであると思います。たとえMargeryが本当に死んだ兄の霊魂と交霊できたのだとしても。

この文章の中で、”Scientific American”のMunn氏がHoudiniの説明を信じたかどうかは別にして”と書かれていますので、この降霊術に同席した”Scientific American”のMunn氏は、Margeryが本当に霊魂を呼び寄せられると思ったのかもしれません。この降霊術の実施によって、”Scientific American”によって彼女が否定されることはなかったようです。そのことについては、Dean Carnegyの”Magic Detective”サイトにつぎのような書き出しで書かれています。

“Scientific American”の調査の実施とHoudiniによる暴露があったにもかかわらず、Margeryの降霊術はその後も続けられました。調査されることも何回もありましたが、最後の最後には、彼女にとって危ないことが起こりました。

このあとは同サイトにアクセスしてお読みください。

Houdini didn’t end Margery’s Career
http://www.themagicdetective.com/2010/12/houdini-didnt-end-margerys-career.html

“Magic Detective”サイトより

Carnegyの”Magic Detective”ではMargeryについて、つぎのアドレスでも取り上げています。

Margery and the Bell Box(s)
http://www.themagicdetective.com/2010/12/margery-and-bell-boxs.html

Margery’s Curse
https://www.wildabouthoudini.com/2014/06/margerys-curse.html

‘Margery’s Course’というタイトルで書かれている記事の中に、新聞の切り抜きでとても面白いものがありましたので、翻訳しておきました。”Hartford Courant”紙、1925年12月21日号からの切り抜きです。

もしも著名な霊媒師”Margery”が、今日霊媒師としての能力を発揮して告げたことが実現したとしたら、2週間まえにHartfordでショーを行ったHoudiniは、近いうちに死ぬことになるでしょう。

今年の春にHoudiniは、Margeryが霊媒師として偽物だと告げましたが、そう言われたあとすぐMargeryはつぎのように言いました。「私はこの男の頭の中に呪いをかけます。彼は1925年12月21に死ぬでしょう」。

そう言われてもHoudiniは自分の葬式の用意はしませんでした。彼はあいからわず霊魂を呼び出すことに挑戦し続けていましたが、いまだに成功していません。現在はNew Yorkでいつも通りのショーをやっています。
Margeryから呪いをかけられたことについてのHoudiniのコメントは以下の通りです。

「私は彼女が言った日に死ぬかもしれません。お声がかかるのがいつかなんて誰にもわかりません。でもその日に死んだとしたら、それはたんなる偶然の一致でしかありません。その日まで私はショーを続けることにします」。

Houdiniは死の直前、妻Bethに対して「死後の世界があるのなら必ず連絡する」と伝え、Bethは何のコンタクトもなかったと語ったことは、 Margeryのこの降霊術の話と関係があったのかもしれません。

(つづく)