“Sphinx Legacy” 編纂記 第91回

加藤英夫

今回は”Sphinx”の記事に見られたマジシャンに関して、その記事とは関係ないカード技法の話をさせていただきます。”Sphinx Legacy”の本筋からかなり離れますがお許しください。

出典:”Sphinx”, 1928年6月号 執筆者:Max Holden

Massachusetts州Clinton出身のArt Altmanは、Al Altmanの弟ですが、出現させたコインを帽子に入れるやり方で、’Miser’s Dream’を演じました。つぎに彼は何枚かのジャンボカードを見せて、その内の1枚を心の中で選ばせます。そしてバナナを客に持たせ、その中に選ばれたカードが飛び込むと告げますが、カードは違う場所から出てきてしまいます。アクト全体がコメディタッチに包まれていて、人柄をよく表していました。

Art Altmanはこのとき22歳でしたが、その後カードマジックで重要な技法、’Altman Trap’を考案して有名になります。ダブルターンオーバーしたカードを親指の付け根で受け止め、親指の付け根で右にプッシュして、また右手でつかんでターンオーバーするやり方です。サイド方向に返して表を見せ、続けてほとんど同じ返し方で裏返せられるので、たいへんナチュラルに見えます。

“Magicpedia”にはつぎのように紹介されています。

Dawe’s Laboratoriesの重役であるArthur Altman(1906-1982)は、クロースアップマジックの世界において、そのカードを扱う技術によってよく知られています。彼は兄であるMetro-Goldwyn-Mayerのタレントスカウト担当、Al Altmanの影響でマジックに興味を持ちました。

彼は1926年にHoudiniによって、SAMのWorcester支部の会長に指名されました。第二次世界大戦のときに軍曹であった彼は、陸軍の情報組織で働きました。新聞でマジックのコラムを書いたり、短編映画もいくつか作成いたしました。

兄のAl Altmanの影響を受けてマジックを始めたと書かれていますが、兄のAltmanはMetro Goldwin Mayerという超メジャー映画会社で、俳優スカウトの仕事をしていて、Joan Crawford, Ava Gardner, Jimmy Stewart, Celeste Holm, Bob Hopeなど、その後名を馳せるスターを発掘しました。

‘Altman Trap’はダブルターンオーバーにおいて、返したカードをもとの向きに戻す動作をナチュラルに行うのに、たいへん重要な技法です。”Card Magic Library”第1巻、47ページに解説いたしました。しかしながらそこに解説したものはあまりよくないやり方でした。いつかは何かの機会に正しいやり方を書きたいと思っていました。そこでこの機会を借りて、書かせていただくことにいたしました。
同書22ページには、サムブレークされたカードをプッシュオフする’サムベースプッシュオフ’も解説されています。それらのどちらの解説の図を見ても、親指のつけ根がブレーク上のカードを右にプッシュオフするとき、以下の図のように、左親指が伸ばされた状態で描かれています。

カードをプッシュオフするときに、そのように左親指を伸ばしているのはおかしいのです。参考までに”Complete Works of Derek Dingle”、40ページに解説されている、’Altman Trapからのプッシュオフする解説を参照したところ、やはり左親指を伸ばしてプッシュオフしていました。しかも驚くべきことにつぎのように書かれていたのです。

左親指を伸ばしてマルティプルプッシュするときのようにデックの左サイドに当て、図1、左親指でカードを押し出すような感じで、実際は親指のつけ根でブレーク上のカードを押し出します。図2。

そもそも左親指を伸ばして左上コーナー近くでプッシュオフするのは、そのようにしなければ複数枚を押し出せないからそうするのです。それはあくまでもフォールスムーブなのです。そのフォールスムーブをシミュレートしてプッシュオフしろと書かれているのです。

技法というものは、ノーマルな動作をシミュレートして行うものです。であるならばプッシュオフにおいてノーマルな左親指の動作とは、親指を曲げてカードの裏面上部中央あたりに当ててやるべきなのです。

カードを押し出そうとするとき、左親指を曲げてカードの裏面上部に当てます。そのとき右手はすでにカードをつかもうとしてデックの右サイドに近づけています。そして左親指つけ根がブレーク上のカードを右に押し出したとき、左親指は押し出す動作に参加することなく、ただその位置に当てたままです。そして押し出されたときに右手が到着して押し出されたカードの右サイドをつかみ、そのカードを左にターンオーバーするのです。

ちなみにこのやり方は、小指でブレークを作っている2枚をプッシュオフするのには使えません。

‘Altman Trap’は、Marloの””Advanced Fimgertip Control”(1970年)に初めて解説されましたが、考案日は1956年とされています。

(つづく)