“Sphinx Legacy” 編纂記 第97回

加藤英夫

出典:”Sphinx”,1933年9月号 執筆者:David Devant

‘バネ花’は、マジック用具の中でもっとも間違った使い方がされてきたものです。アクトの中で脈絡に関係なく、ただたくさんのバネ花がまき散らされてきました。バネ花の考案者であるBautier De Koltaは、花びらを入れておくのにふさわしいコーヌコピア(円錐形の容器)から花びらを現し、逆さに置いたスケルトンの日傘の中に落とし込みました。

話の初めに話しておくべきことは、Bautierは自分で花を作っていましたが、今日の時計用のバネを芯にするのではなく、細い針金のバネを使っていたことです。その方がはるかにかさばらないのです。

私はバネ花が絢爛豪華に大量に出現させられたのを見たことがありません。そのような効果を表すには2000個ぐらい出現する必要があると思われますが、そんなことをしたマジシャンはいません。もちろんそれをやるにはたいへんな準備が必要ではありますが。私はそのようややり方をやったことがあり、そのやり方を説明するまえに、もうひとつバネ花の欠点を言っておきます。私は長年バネ花を使ってはきましたが、それが本物の花には見えないということをまったく認識していませんでした。観客から見たらそれは、クリスマスなど用のパーデコレーションに見えるに違いありません。

私はそのことを気づいたとき、中国風アクトをやっていて、花のマジックはつぎのようにやっていました。花のほとんどを緑に染めて葉に見えるように作り、9枚の葉に対して白か赤の花を分散させて配しました。その方が自然の花束のように見えるからです。花の色は一色でも何色か混ざっていてもかまいません。なるべくナチュラルなバラの花束のように染ます。皆さんもいちどそのような作り方を試してみてはいかがでしょうか。

私はその中国風アクトで、Davenportで買ったニッケルメッキした真鍮の大きな花瓶を使いました。他に使う物は、糠の入った箱と大きな絹のクロスです。

私は花瓶を糠の箱に入れて糠をすくい、糠を別の容器の中に落として見せます。それを2度やったあと、3度目でバネ花が仕込まれたギミックをすくい入れますが、そのギミックの上部は糠が貼られています。そして花瓶にフタをかぶせます。そして大きな絹の布の両端を2人の女性に持って広げさせ、花瓶の前にかまえさせます。ウォンドで花瓶に魔法をかけてからフタを取ります。すると花が溢れ出てきます。花瓶を振るとさらに花が出てきます。2人アシスタントは布を動かし、花がダンスしているように見せます。花瓶の中には2500個の花が仕込んであったと記憶しています。それらはいくつかのグルーブに分けてまとめられて、それぞれがホルダーに入っています。いくつかのホルダーはゆるいので、そこに仕込まれたものが花瓶のフタを開けたときに、最初にこぼれ出すようになっているのです。

私は当書のDeKoltaに関するページにおいて、’Spring Flower'(バネ花)がDekoltaの考案ではないようなことを書きましたが、DevantははっきりとDeKoltaの考案と記述しています。”Maicpeia”にもそのように書かれていました。まえに書いたことをあえて訂正いたしません。間違えて書いたことを消しゴムで消すようなことをするよりも、事実をそのまま残した方が研究家として襟を正すことになると思うからです。

今回’Spring Flower’について調べているうちに、いままで私が知りたいと思い続けてきた情報に出逢いました。それはSpring Flowerを手から出現させる、日本では’ミリオンフラワー’という名前で有名なものについてです。(株)テンヨーの花関係の製作者であった木村ヨシユキ氏は、’ミリオンフラワー’を考案されたと話していましたが、私のおぼろげな記憶の中に、手から花を現すのを何らかの雑誌もしくは本の中に見た記憶がありました。

するとそれは”sphinx”, 1937年9月号の中にありました。Milbourne Christopherは、通常の’Spring Flower’の両端をカットして、手に隠せる大きさにして使ったと書いています。これが手から現す’Spring Flower’の原点かどうかはわかりませんが、少なくともこの時点に存在していたことはわかりました。

私は今回の調査の中で”Genii”,1941年9月号に、’Spring Flower’の洒落た使い方が書かれているのを読んで、Devantが”起承転結とは無関係に花を出現させるのはよくない”、と言っているのがわかったような気がしました。すなわち、ボールとかカードとはどちらかと言えば無機質なものですが、花というものは情感に訴える要素があります。以下の説明を読むとそのようなことを感じます。

‘Flower Fantasy’ by Jack Trepel

現象:女性のアシスタントがウォンドでマジシャンの上着の襟に魔法をかけると、そこに瞬間的にブートニエール(ボタン飾りの花)が現れます。マジシャンは驚き、そして喜びます。

それから彼は厚めのシートをテーブルから取り、両面を見せてからコーンの形に巻きます。そしてアシスタントが髪につけている花飾りを取り、花びらをほぐしてコーンの中に入れます。するとコーンから花が溢れてきて、何と2本のパラソルにいっぱいに満たされます。

マジシャンはゆっくりとコーンを開き空であることを見せ、ふたたびコーンに巻き、空中から花の種をつかみ取り、それをコーンの中に入れると、またまた花が溢れ出てきて、あと2本のパラソルいっぱいに満たします。マジシャンはコーンを広げて空なのを見せ、アシスタントとともにバウを取ります。

これが起承転結と言えるほどのものかどうかはわかりませんが、少なくとも落語などの’枕’に相当するイントロ部分があります。それがあるのと、たんに紙を巻いてバネ花を大量に現すだけの演技と比べたら、人工物を扱うマジックが無機質なものになるか、人間味の感じられるものになるかの違いになるのではないでしょうか。

さらに調査を続けると、’Spring Flower’がDeKoltaの考案であることがより明確にわかるものが見つかりました。それはProfessor Hoffmannの”More Magic”(1889年)に、’A Shower of Flowers’として、以下の図をともなって解説されていました。図だけ引用します。

この図を見ると、(株)テンヨーで売っていた’バネ花’は正方形に近い形をしていましたが、DeKoltaのものはむしろ’ミリオンフラワー’に近い形をしています。

Devantが指摘していた、花ばかりを集めたものではなく、花より葉の方を多くして、その中に花を点在させるというブーケというのがどういうものかわかる、1枚の写真を掲載しておきます。”pinterst.com”からの引用です。たしかにこのように作った方がリアルな感じがしますね。

(つづく)