“Sphinx Legacy” 編纂記 第98回

加藤英夫

出典:”Sphinx”, 1934年11月号 執筆者:Al Baker

名手Al Bakerが語るとても素晴らしい話です。

A Real Magician

マジシャンというものは、私の意見ではありますが、ステージ上であろうと町中であろうと、つねにマジシャンでなければいけません。あなたが本当のマジシャンであることを印象づけるには、つねにミステリアスな雰囲気を漂わせておくことが必要です。どんなときにもつねに奇蹟を起こして見せられる準備をしておくべきです。そうすればあなたの魔法のパワーが限りないものである印象を与えられます。

しかしながら、つねにポケットの中に金属製のケースや、マジック道具に見えるものを入れておくのは、馬鹿げたことです。シガー、マッチ、マッチ箱、ハンカチーフ、コインのような物を使って演じてこそ、より効果的であるのです。

マジックを演じるのは、そのときの状況に適した成り行きに見えるようにやることです。たとえば、1本のシガー取り出して口にくわえようとして、思い直したようにそれを2本に分裂させ、1本を相手に渡します。もちろん相手がタバコやシガーを吸っているときにやってはいけません。適切なタイミングを待ちましょう。誰かがタバコを吸おうとしたら、彼にマッチで火をつけてやり、そのマッチやマッチ箱でマジックをやるのです。

紙幣を支払うとき、それを破ってしまい、それを復活させてから支払います。もしくはコインでちょっとしたことをやります。ハンカチーフを取り出して、結び解けのようなことをやったり、ハンカチーフを使ったあと、それをただポケットにしまうのではなく、それを消して見せます。つねにそのようにあなたの振る舞いの中でマジックをやるようにするのです。

Nate Leipzigはそのようなマジックの利用の仕方の名人でした。彼はいつも何かをやる準備をしています。彼はテーブル上にあるどんな物でも、それを使ってマジックが見せられるのです。

あなたがつぎのように言うのは最悪です。「今日は準備をしてないものですから」。マジックを演じるときに、準備がしてあるとかないとか言うのは、言ってはならない言葉なのです。

とくに報道記者などは、あなたが突然リクエストされたときに不思議なことを見せられる、ということに強く印象づけられるものです。それはあなたがマジックを見せるということにおける、もっとも必然な状況で行われるものですから、強いインパクトを与えられるのです。あなたが素晴らしいマジシャンであるというインパクトを。

Al Bakerは上記のような状況では、即席マジックのようなものをやれと言っていますが、あくまでも即席に見えればよいのであって、準備したものを使ってはいけないと言っているわけではありません。私はいつでも’インビジブルデック’を持ち歩いています。胸内ポケットに入れておきます。リクエストされたとき、「どなたかカードを持っていますか」と問いかけ、「誰も持っていませんか。それでは想像でカードマジックをやりましょう」と言って、胸ポケットからデックを取り出す真似をします。そのときインビジブルデックを左袖にロードします。あとはインビジブルデックの演技をやり、最後にデックを見えるように変化させて、選ばれたカードを現します。見えない物を取り出すという口実で、物を袖にロードするという手口は、色々な物で使うことができます。

(つづく)