「奇術師のためのルールQ&A集」第3回

IP-Magic WG

Q:コインをパームする新しい技法を考えました。

パームした時の指の形から「スワンパーム」と呼んでいます。このスワンパームには3つほど注意点があるので、私のレクチャーの受講者には、この注意点を丁寧に教えています。ちゃんと注意点を守らないと、客からコインが見えてパームがバレてしまいます。

そこで、私のレクチャーを受講した者以外には、スワンパームを使って欲しくないのですが、何か対策はありますか? また、「スワンパーム」という技法名を商標登録することはできますか?

A:奇術の新技法を考案したとしても、その技法自体には著作権は発生しません。

著作権の対象となる著作物とは、「思想や感情を創作的に表現したもの」と定義されているので、奇術の新技法はこの定義に当てはまらないからです。

また、奇術の技法自体は、特許の対象にもなっていません。特許の対象は、「自然法則を利用した技術思想」と定義されているので、奇術の新技法はこの定義にも当てはまりません。したがって、パームの技法、ダブルリフトの技法、フォールスカウントの技法などは、その技法がこれまでにない新しいものであったとしても、著作権や特許権による保護は受けられないのです。

これは奇術の分野に限ったことではありません。柔道の技、体操の技、スケートの技など、スポーツ選手であれば様々な技を編み出すことでしょう。また、料理人であれば、フライパンの上で目玉焼きをひっくり返す独自の技を考えるかもしれません。しかしながら、苦心して編み出されたこれらの技には、残念ながら法的保護は及ばず、合法的に真似されてしまいます。

ご質問の「スワンパーム」という技法も同様です。あなたが苦心の末に考案したオリジナルの技法であったとしても、他人がこの技法を勝手に使うことを制限することはできません。つまり、他人が考えた奇術の技法を、自分の演技に利用することは、全く自由ということになります。

オリンピック選手であれば、自分の技が多くの人に利用され世界中に広まれば、むしろ名誉な事だと考えるでしょう。奇術の技法も、広く他人に利用してもらえれば光栄に感じることができるかもしれません。もちろん、光栄に感じるためには、「スワンパーム」という技法が、あなたのオリジナル技法として世に広まれば、という前提が必要ですよね。他人が「俺のオリジナル技法だ」と主張するようなことになったら、あなたの怒りは収まらないでしょう。そうならないようにするには、なるべく早めにあなたの名前で「スワンパーム」の内容を奇術雑誌やYouTubeなどに発表するようにし、あなたのオリジナル技法であることに疑義が生じないようにしておく必要があるでしょう。もちろん、3つの注意点もしっかり解説しておく必要がありますね。なお、「スワンパーム」の解説文やビデオには著作権が発生しますので、この解説文やビデオを無断コピーすることは違法になります。

結局、あなたのレクチャーの受講者以外の者が「スワンパーム」という技法を勝手に使うことを法的に制限することはできません。したがって、「スワンパーム」が奇術界に徐々に広まってゆくのは避けられないでしょう。

ただ、その過程で「3つの注意点」も同時に広めてゆくために、レクチャーの受講者に対して義務を課すことは可能です。たとえば、あなたがYouTubeでレクチャーを行っているのであれば、「この技法を他人に紹介する際には、これから説明する3つの注意点のことを必ず言及すると約束して下さい。この約束を守れない方は、このビデオの視聴を直ちに中止して下さい。」という前置きを入れておけば、個人間の契約として、3つの注意点の説明義務を受講者に負わせることができます。

最後に、「スワンパーム」という技法名を商標登録できるか、というご質問ですが、結論として、奇術の技法名としては商標登録することはできません。商標登録には、商標名だけでなくその対象を指定する必要があります。たとえば、「商標名:SONY,対象:ビデオカメラ」、「商標名:レクサス,対象:自動車」といった具合です。

ご質問のケースでは、「商標名:スワンパーム,対象:奇術の技法」ということになりますが、残念ながら、「奇術の技法」は商標の対象にはなっておりません。商標の対象となり得るものは、「商品」と「役務」に大別されています。商品とは文字どおり実体のある品物で、上例の「ビデオカメラ」や「自動車」は商品になります。「役務」というのは聞き慣れない言葉ですが、何らかのサービス提供業務を言います。たとえば、「宅配業務」や「放送業務」が役務に該当します。いずれも商品を販売しているわけではないですが、「物品を配達するサービス」や「TV番組を放送するサービス」を提供しています。したがって、「商標名:クロネコ,対象:宅配業務」、「商標名:NHK,対象:TV放送」などは商標登録の対象になります。

しかしながら、「奇術の技法」自体は、何らかのサービスを提供する役務には該当しません。もちろん、プロマジシャンがギャラをもらって奇術を演じれば、「奇術の上演」という有償のサービスを提供したことになります。したがって、「商標名:スワンパーム,対象:奇術の上演」という形であれば、商標登録の対象になります。

ただ、この場合、「スワンパーム」という言葉は、「奇術の上演」というサービスについての商標ということになるので、いわば「スワンパーム一座によるマジック公演」全体を指す言葉として扱われます。このように、「奇術の技法」単独では、何らかのサービス提供業務としては認められていないため、「パームの技法」を示す言葉として、「スワンパーム」という言葉を商標登録することはできません。

(回答者:志村浩 2020年11月10日)

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