「奇術師のためのルールQ&A集」第25回
IP-Magic WG
Q:「アーリーバーバー」という芸名の商標を取ることはできますか?
本名は馬場という日本人のプロマジシャンですが、「アーリーバーバー」(Early Barbar)という芸名で活動を行っています。顔を黒く塗り、白い口髭をつけ、頭にターバンを巻いたインド人という奇抜なキャラクターで演技を行っています。「アーリーバーバー」というこのキャラクターは、特に子供達の間で人気が高まっています。そこで、様々な企業とタイアップして、「アーリーバーバー」人形、「アーリーバーバー」チョコレート、「アーリーバーバー」消しゴム、などのキャラクター商品を販売する計画を立てています。
このようなキャラクターは、「キャラクター権」という権利によって保護される、と聞きましたが、企業に話をもってゆく前に、予め商標権も取得しておきたいと考えています。本名が馬場である私が、「アーリーバーバー」という芸名について商標を取得することは可能ですか? 「Early Barbar」というローマ字商標や、キャラクターのイラスト商標なども取得できますか?
A:アニメや漫画がヒットし、そこに登場するキャラクターに人気が出てくると、人形、菓子、文房具など様々なキャラクター商品が販売されます。
法律上は「キャラクター権」というものが存在しているわけではないのですが、このような場合、通常、作者と企業との間に商品化許諾契約が締結されます。もちろん、アニメや漫画の絵は、著作権の保護対象になるのですが、キャラクターというのは、判例上、作者が架空の人物に与えた容姿や性格などの特徴であり、表現そのものではないので著作物とは言えない、とされています。したがって、架空の人物としてのキャラクター自体を著作権法によって保護することは困難です。
今回のケースの場合、「アーリーバーバー」というキャラクターは、アニメや漫画の登場人物ではありませんが、あなたが演じる架空の人物であり、アニメや漫画のキャラクターに準じた取り扱いがなされるものと思われます。したがって、様々な企業との間に商品化許諾契約を締結して、ロイヤリティーを得ることは可能です。ただ、上述したとおり、「キャラクター権」という権利は、法律上明文化されていないため、今後、無断で商品化するような事態も生じる可能性があります。特に、「アーリーバーバー」というキャラクターの名前自体は著作物ではないので、著作権法による保護は受けられません。
したがって、今回のケースでは、質問者が述べられているとおり、商標出願を行って商標権を取得しておくのが得策です。「芸名について商標を取ることができるか」という質問についての答えはYESです。「アーリーバーバー」という芸名は、商標としての適格性を備えた言葉であり、商標出願を行うことが可能です。もちろん、出願人欄には、「アーリーバーバー」という芸名ではなく「馬場○○」という本名を記載する必要がありますが。
商標は早い者勝ちなので、できるだけ速やかに出願を行った方がよいでしょう。万一、誰かが先に「アーリーバーバー」という言葉について商標出願を行ってしまうと、商標権は先に出願を行った人に与えられてしまうからです。もっとも、あなたの芸名が著名になっている場合は、誰かがあなたに無断で「アーリーバーバー」という言葉について商標権を取得することはありません。商標法上、芸人の著名な芸名について商標権を取得するには、その芸人の許可が必要とされているからです。「著名な」という条件が必要なので、あなたの芸名がまだそれほど知られていない場合は、あなたを含めて、最初に出願した者に商標権が与えられます。
商標出願を行うには、特許庁が定めた商品区分ごとに特定の商品を指定する必要があります。ご質問の内容によると、今のところ、人形、チョコレート、消しゴムというキャラクター商品の販売を計画しているようですが、これらの商品はいずれも異なる区分に属します。したがって、たとえば、人形については「おもちゃ・人形」という商品を指定し、チョコレートについては「菓子・パン」という商品を指定し、消しゴムについては「文房具」という商品を指定して、3区分について出願を行うとよいでしょう。
商品の指定はなるべく包括概念で行った方が広い権利が取得できます。上例のように、「おもちゃ・人形」という指定商品であれば、人形だけでなく、手品用具などの玩具も含まれることになり、「菓子・パン」という指定商品であれば、チョコレートだけでなく、あらゆる菓子やパンが含まれることになり、「文房具」という指定商品であれば、消しゴムだけでなく、あらゆる文房具が含まれることになります。
商標権は指定商品の範囲内での使用に限定されて付与されるので、上記のような指定商品について商標出願を行った場合、得られる商標権は、おもちゃ、人形、菓子、パン、文房具という商品について「アーリーバーバー」という商標を独占的に使う権利になります、他人がこれらの商品について、勝手に「アーリーバーバー」という商標を使用することは商標権を侵害する違法行為になります。別言すれば、たとえば、「自動車」は上記商標権の範囲外なので、他人が「アーリーバーバー」というブランドの自動車を販売することは自由にできます。
それじゃ、いっそのこと、世の中にある全商品を指定した出願をしておけば? という気持ちになるかもしれませんが、それは無謀です。第1に、出願料や登録料は商品区分が増えるごとに増えてゆくので、全商品を指定するとかなり費用がかかります。第2に、商標出願は、実際に使用予定のある商品についてのみ行うことが前提となっているので、たとえば「自動車」を指定商品に入れて個人が出願すると、自動車の製造販売計画表などの提出を命じられることでしょう。そして、第3に、商標が登録された後、その商品についての使用実績が認められないと、第三者からの申し立てにより、商標権が取り消しになるケースもあります。したがって、ご質問のケースでは、とりあえず、上記3区分について出願を行っておけばよいと思います。必要になったら、別区分について新たな出願を行うことができますから。
さて、出願する商標の形態ですが、「アーリーバーバー」というカタカナの形態でも、「Early Barbar」というローマ字による形態でも、どちらでもかまいません。費用は倍になりますが、それぞれで1件ずつ、合計2件の商標出願を行うこともできます。費用節約のため、上段に「アーリーバーバー」、下段に「Early Barbar」と列記して、1つの出願を行うことも可能です。また、毛筆体などの特殊な書体を使うことも自由です。もちろん、商標出願は文字に限定されず、イラストや図柄でも出願可能です。したがって、インド人風マジシャンのキャラクターのイラストを商標とした出願を行ってもよいでしょう。
ただ、上述したように、商標登録後、指定商品についての使用実績が認められないと、商標権が取り消されるケースもあるので、今後、使用する予定の商標をそのまま出願するのが好ましいと言えます。たとえば、チョコレートの外装に「Early Barbar」というローマ字による形態を用いる予定であるなら、「Early Barbar」というローマ字による形態で出願しておいた方が無難です。そうすれば、将来、使用実績の立証が必要になった場合、チョコレートの外装を証拠として提出することができます。
(回答者:志村浩 2021年6月5日)
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