第15回「男だとて」

『奇術五十年』1975年ユニコン貿易出版部より

中村安夫

石田天海『奇術演技研究メモ』より

「むかしの江戸っ子ははきものに見栄をはった。今の人に言わせると、かっこいい、というのだろうが、当時は、いなせな男とか、いきな人だとかいった。この江戸っ子のはきものに対する精神をわれわれ奇術の舞台にも、ぜひ継承していきたいと思う。」
「奇術師の中には、みがいてない靴のまま平気で奇術を演じている人がいる。ひどいのになると、靴の先がささくれているような仕事用の靴で舞台に出て来る人もいる。ご当人はその靴になじみ、はきごこちがよいからのことだろうが、はじめて見る人には感じが悪い。それで、その人の人柄がわかってしまうというものだ。」
「また、奇術道具や服装ばかりではなく、舞台に上がって大勢の人の前に顔を出す以上、男性だとて身だしなみとして、軽く化粧をすることはエチケットである。」
「日焼けした小麦色の明るい顔色は客席から見て魅力的であり、むかしの江戸っ子の精神でもあると思う。

【コメント】

YMG発表会マニュアル’93より

舞台における靴の問題は、特にアマチュアマジシャンにとっては経験しないと気が付かない点だと思います。ある程度大きな会場で開催されるマジック発表会では気を付けたいものです。
「男だとて」というタイトルからは想像できませんでしたが、天海師は、「男性だとて身だしなみとして、軽く化粧をすることはエチケットである。」と述べています。
アマチュアマジッククラブの発表会の場合、会員の中にメーキャップ担当の女性会員がいても、男性用のメーキャップに慣れていないと、厚いドーラン化粧のようになって、かえって逆効果になるかもしれません。1993年に発行された『YMG発表会マニュアル’93 : 横浜マジカルグループ35周年記念誌』の44ページにメーキャップに関する記載がありますので紹介します。

(2021/6/6)

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