「奇術師のためのルールQ&A集」第41回

IP-Magic WG

Q:石、水、砂、草花などの自然物のみを用いた「超自然マジック」を演じているマジシャンです。この「超自然マジック」という言葉を独占的に使用するための方策は何かありますか?

石、水、砂、草花などの自然物のみを用いて奇術を演じているマジシャンです。主に、YouTubeに動画を投稿していますが、時々、TV番組に出演することもあります。動画や番組では、毎回必ず、画面に「超自然マジック」というテロップを流すようにしており、私の芸風の売りにしています。

今のところ、このような自然物のみを用いた奇術を売りにするマジシャンは私だけのようですが、将来、このような芸風のマジックが脚光を浴びるようになると、似たようなマジックを行う人が出てきそうです。そこで、「超自然マジック」という言葉を独占的に使用したいと考えているのですが、何か方策はありますか?

A:一般に、文字や言葉について独占権を得るには、著作権制度もしくは商標制度を利用する必要があります。

ただ、奇術の解説書のように、ある程度の長さをもつ文章であれば、著作権による保護を受けることができますが、「超自然マジック」という単語だけでは、著作権の保護対象である「創作的な表現」には該当しません。したがって、今回のケースでは、著作権による保護は受けられないので、商標権による保護を求めるしかありません。

皆さんもよく目にする「SONY」,「テンヨー」,「NHK」,「歌舞伎座」といった単語はいずれも登録商標になっています。もっとも、商標権で保護されるのは、「ある特定の言葉を、ある特定の商品や役務に商標として使うこと」です。まず、この商標権について、簡単に説明をしておきましょう。

たとえば、「ビデオカメラ」や「手品用具」は商品です。商品は実体のある製品なので、通常、その本体あるいはその包装に商標を付して販売します。SONY製のビデオカメラには「SONY」という商標が付されており、テンヨー製の手品用具には「テンヨー」という商標が付されています。商標は、カタログなどに表示して用いることもあります。

一方、「NHK」や「歌舞伎座」といった商標は、主に「役務」に対して使用されています。ここで「役務」というのは、何らかのサービス提供業務を言います。NHKの主たる業務は「TV放送」という役務です。「歌舞伎座」の主たる業務は「演劇の上演」という役務です。いずれも実体のある商品を製造販売する業務ではなく、無形のサービスを提供する業務になっています。

商標登録を受けるためには、「ある特定の言葉」と「ある特定の商品もしくは役務」を指定する必要があります。たとえば、「テンヨー」という登録商標では「おもちゃ」や「手品用具」などの商品が指定されており、「歌舞伎座」という登録商標では「演劇の上演」や「興行の企画」などの役務が指定されています。商標権は、基本的に、この指定商品や指定役務の範囲内で有効です。

たとえば、「テンヨー」という登録商標には、「手品用具」という商品が含まれているので、他人が「テンヨー」というブランドの「手品用具」を販売することは違法です。しかし、「チョコレート」という商品は含まれていないので、他人が「テンヨー」というブランドの「チョコレート」を販売しても、少なくとも商標法違反にはなりません。このような事態を避けるため、「SONY」や「歌舞伎座」という登録商標では、文房具、食料品、かばんなど、様々な商品が指定されており、その中には手品用具も含まれています。ですから、パッケージに「SONY」と書いた手品用具を販売すると、商標法違反になります。

さて、ご質問のケースでは、奇術を演じる動画や番組の画面に「超自然マジック」というテロップを流して使うようですので、「超自然マジック」という言葉について、「奇術の上演」という役務を指定して商標出願を行うとよいでしょう。また、YouTubeでの動画配信も行っているようなので、「通信網を介した奇術の上演」という役務も指定しておくと安心でしょう。

このような指定役務について「超自然マジック」という商標権が取得できれば、少なくとも、奇術の演技中に画面に「超自然マジック」というテロップを表示する行為に独占権が与えられ、他人が奇術の演技中にそのようなテロップを表示すると、商標法違反になります。もっとも、指定役務は、あくまでも「奇術の上演」に限られているので、たとえば、世界遺産を紹介する番組で、カッパドキアの自然風景を映像として流しながら、「超自然マジック」というテロップを表示したとしても、商標権の範囲外になり、違法性はありません。

必要なら、役務だけでなく、商品を指定することもできます。たとえば、演技を録画したDVDなどを商品として販売する予定があれば、「奇術のビデオデータを収録した記録媒体」という商品も指定しておくとよいでしょう。手品用具を販売する予定があるのなら、「手品用具」という商品も指定できます。

このように、役務や商品は複数指定することが可能です。したがって、もし「超自然マジック」という言葉を使う権利を、チョコレートや文房具などにも拡張したい場合は、「奇術の上演,通信網を介した奇術の上演,奇術のビデオデータを収録した記録媒体,手品用具,チョコレート,文房具」のように商品や役務を多数羅列して出願することも可能です。ただ、商標の出願料や登録料は、商品や役務の区分(全45区分に分かれています)が異なるたびに増額されるため、使用予定のないものまで列挙することは、あまりお勧めできません。

なお、「奇術の上演」は、必ずしも映像を通じて行うものに限られませんから、ステージやテーブルで観客に対して奇術を演じる場合にも、商標権は有効です。たとえば、ステージで演技を行う際に、脇に「超自然マジック」と書かれた看板を立てて演技を行う行為や、テーブルで演技を行う際に、テーブルに「超自然マジック」と書かれた札を置いて演技を行う行為についても独占的な権利が主張できます。マジックの広告に用いるパンフレットなどに「超自然マジック」という言葉を表示する行為も同様です。他人が無断でこれらの行為を行うことは、商標権を侵害する違法行為になります。

また、商標権は商標の類似範囲まで及ぶので、「超自然マジック」という言葉について商標権が取得できれば、「超自然マジック」という言葉だけでなく、これと紛らわしい言葉についても権利を主張できます。たとえば、ライバルのマジシャンが、「超自然奇術」や「超ナチュラルマジック」といった文字を表示して演技を行った場合、「超自然マジック」に類似した商標を使用した違法行為ということになります。

(回答者:志村浩 2021年9月25日)

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