「奇術師のためのルールQ&A集」第9回
IP-Magic WG
Q:江戸時代の伝授本は著作権切れですから自由に使って構いませんか?
A:伝授本の原本自体はパブリックドメインとして広く使えます。
日本には世界のマジック界でもユニークな「伝授本」という誇るべき資産があります。これらはマジック史の観点で重要なのはいうまでもありませんが、解説されているトリック自体にはいまもなお人を楽しませることができるものがいくつもあります。例えば、外国の友人にこの本の存在を説明しながら演じて見せてみたらどんな反応を示すでしょうか。日本人が昔からマジックを見せ合って楽しむほどに文化水準の高い国であったことを知って驚いてもらえること請け合いです。世界の多くの人に知ってもらいたいものです。
これらの伝授本は一時期復刻本が作られてマニアの間で頒布されたこともありましたが、広くダウンロードできるようにして、より多くの愛好家に活用してもらえるようになればその恩恵は多大です。ただ漢文の『神仙戯術』を例外として、ほとんどすべてが変体仮名を含んだ崩し字で書かれていますから判読するのは簡単ではありません。ところがその問題に果敢に挑戦した方がいます。多くの伝授本を翻刻(活字体にすること)し、更に現代語訳をつけるという大仕事を高田史郎が成し遂げています。1990年代後半に相次いで出された私家本がそれです。
単に書き下し文にしたものや翻刻だけ行ったものは「創作的な表現」をしたことに当たりませんから新たな著作権は発生しませんが、高田史郎が行ったものはその現代語訳や注記を付けた新たな著作物ですから広く勝手に使うわけにはいきません。発行部数の少ない私家本であるが故に図書館でも見つけることが難しく、その点は残念ですが、例えば国立劇場の伝統芸能資料館には所蔵されていますから閲覧・複写(一部に限られる)して学ぶことは可能です。
ただ、この伝授本は基本的にハウ・ツー本です。ですから内容を理解した上で自分の言葉で紹介すること自体は何ら問題になるものではありません。
(回答者:松山光伸 2020年12月22日)
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