「奇術師のためのルールQ&A集」第57回

IP-Magic WG

Q:特許公報を調べるにはどうすればよいですか?

マジックについて特許出願を行うと、「内容が特許公報に掲載される」と聞きましたが、特許公報には何が掲載されるのでしょうか? タネも公開されてしまいますか? マジックについての特許公報はどのようにすれば入手できますか?

A:特許公報は、誰でも、インターネットを使って特許庁のWebページから閲覧可能です。

ここでは、具体的に、マジックについての特許公報を閲覧する手順を、コンピューター画面のスクリーンショットを用いて説明します。実際に、以下の手順に従ってパソコンを操作してみてください。

<ステップ1>
まず、Googleで「特許庁」というキーワードを検索してください。そうすると、多分、一番上に「ホーム|経済産業省 特許庁」というサイト名が検索されると思いますので、このサイト名をクリックして、特許庁のホームページに移動してください。

<ステップ2>
特許庁のホームページが表示されたら、右側の窓にある「J-PlatPat(外部サイト)」をクリックします。そうすると、特許等の文献データベースである「J-PlatPat」というサイトに移動できます。

<ステップ3>
「J-PlatPat」というサイトに移動したら、上部に表示されている青いバーの中から、一番左の「特許・実用新案」にカーソルを合わせると、小さなメニューが表示されるので、その中の「特許・実用新案検索」をクリックします。

<ステップ4>
「特許・実用新案検索」のページに移動したら、「検索キーワード」欄の「全文」と書いてある欄のすぐ右隣の マークをクリックします。

<ステップ5>
すると、下の図のようなメニューウインドウが重ねて表示されるので、このメニューの中の「IPC」という項目をクリックします。

<ステップ6>
「IPC」というのは、「International Patent Classification(国際特許分類)」の略です。ここでは、マジックについての特許を調べるので、マジックについての国際特許分類の記号である「A63J21/00」をキーワードとして用いて検索を行ってみます。「A63J21/00」という記号は、国際特許分類において「奇術用設備;奇術師のための補助装置」という分類に割り当てられた記号です。

つまり、特許の世界では、マジックの道具については「A63J21/00」という記号が割り当てられていることになり、この記号をキーワードとして検索すると、マジックの道具に関する特許が検索できるわけです。国際特許分類ですから、「A63J21/00」という記号は、全世界で共通して、マジックの道具を示す分類記号ということになります。

そこで、次の図のように、検索項目「IPC」欄の右側にあるキーワード欄に、この記号「A63J21/00」を入力してから、画面の一番下にある「検索」ボタンをクリックします。

<ステップ7>
そうすると、次のような検索結果一覧が表示されるはずです。1行に1件の特許文献が示されています。実は、特許だけでなく、実用新案の検索結果も併せて表示されます。本原稿執筆時点では、合計519件の結果が新しいもの順に表示されています。

下に示す例の場合、文献番号の欄には、たとえば、「特開2020-103726」のような番号が表示されています。「特開」というのは、特許の公開番号であることを示し、この例は、2020年に公開された第103726番目の「特許公開公報」ということになります。「特開」の段階では、まだ審査中で特許は成立しておりません。ここが「特開」ではなく「特許」になっていると、特許が成立した特許公報であることを示しています。たとえば、「特許5859104」の場合、既に審査が完了し、第5859104番目の特許が付与された件の特許公報ということになります。

一方、文献番号の欄に「実登3217106」のように「実登」と表示されている文献は、「登録実用新案公報」の番号です。すなわち、既に実用新案が正式に登録になっていることを示し、この例の場合、第3217106番目の実用新案の公報ということになります。

この他、「特表」と書かれた公報は国際特許公報であり、外国へも出願されている件であることを示します。また、「特開平」や「実開平」は平成の年号で示された公開公報であり、「特開昭」や「実開昭」は昭和の年号で示された公開公報です。その他、古い文献には、「実全昭」,「実公昭」,「特公昭」,「特明」,「実明」といった表記の文献もありますが、ここでは説明を省略します。

この検索結果一覧には、出願番号,出願日などの情報や出願人/権利者の情報も表示されています。このリストを縦に閲覧してゆくと、出願人/権利者の欄には、「株式会社テンヨー」と記された案件が多数みられます。やはりテンヨーさんは、日本一のマジックメーカーであり、特許や実用新案を多数出願していることがわかります。

<ステップ8>
検索結果一覧の中から、興味のある案件があれば、その文献番号(青字で表示されている)をクリックすると、当該文献を閲覧することができます。たとえば、「特開2020-103726」という青字の文献番号をクリックすると、次のような文献表示が現れます。

左側の書誌欄を見れば、株式会社テンヨーが平成30年12月28日に出願した特許であることがわかります。右側には図面が表示されています。図面のページ番号をクリックすると、図面ページをめくることができます。

<ステップ9>
左側の書誌欄の下には、「要約」,「請求の範囲」,「詳細な説明」,「図面」という項目がありますが、いずれも「開く」ボタンを押すと、内容を閲覧することができます。ここで「請求の範囲」というのは、この特許の権利範囲を示すものなので、一般の方にはわかりにくいと思います。マジックの内容を把握するのであれば、「詳細な説明」および「図面」という項目を閲覧するのがよいでしょう。

公報に記載された「詳細な説明」および「図面」を見ると、そのマジックのタネも開示されていることがわかります。マジックの道具について特許や実用新案を出願するには、そのマジックの原理や仕掛けを説明した書類を特許庁に提出する必要があります。この提出書類の内容が公報にそのまま掲載されることになるので、結局、公報には、タネが公開されることになります。

内容を公開しない「秘密特許」の制度を導入する動きもありますが、現時点では、特許や実用新案を出願すると、残念ながら、公報にタネまで公開されてしまうことになります。

手品用具を販売する業者であれば、販売によってタネは知られてしまうので、公報にタネが公開されたとしても実害はないでしょう。しかし、独自のタネを用いて演技を行うプロマジシャンの場合は、タネを公開してでも特許権や実用新案権という独占排他権を取得するか、あるいは、特許や実用新案の出願を行わずにタネを秘匿するか、を選択する必要があるでしょう。

なお、イリュージョンを行うための大掛かりな道具については、「A63J21/00」という国際特許分類の代わりに、「A63J5/00」という国際特許分類が用いられる場合があります。この分類は「舞台上,またはサーカスまたは試合場内で特殊な効果を出すための補助装置」という分類になり、イリュージョン用の舞台装置の他、マジック以外の様々な分野の装置が含まれます。

このような舞台装置についての特許を検索する場合は、上記ステップ6において、検索項目「IPC」欄の右側にあるキーワード欄に、この記号「A63J5/00」を入力してから、画面の一番下にある「検索」ボタンをクリックします。

また、ステップ5で「IPC」という項目をクリックする代わりに、「出願人/権利者/著者所属」という項目をクリックし、キーワードとして、たとえば「株式会社テンヨー」と入力して検索を行うと、株式会社テンヨー名義の案件のみを検索することができます。

もちろん、発明者名で検索することも可能です。ステップ5で「IPC」という項目をクリックする代わりに、「発明者/考案者/著者」という項目をクリックし、キーワードとして、たとえば「引田天功」と入力して検索を行うと、引田天功師が発明した案件のみを検索することができます。

(回答者:志村浩 2022年1月15日)

  • 注1:このQ&Aの回答は著者の個人的な見解を示すものであり、この回答に従った行為により損害が生じても、賠償の責は一切負いません。
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