奇術の音楽について 第1回

北見翼

今回は奇術で使う音楽についてお話しいたします。
奇術で使用する音楽は大きく分けると2つに分類することができます。
一つは音楽の効果を最大限に利用したもので、先に音楽を選択してそれに合わせて演目を組み立てる方法と、演目を先に決めて一つ一つの手品に合わせて音楽を編集して構成される方法があります。このようなものには一つ一つの動作までも音に乗せて演技をしたり、音と演技の深いつながりを感じさせてくれたりするものまであります。
そして、もう一つはBGMと呼ばれるもので、あくまで演技が主体であり、そこに照明や空間の効果と同じように音楽が乗せられます。お喋りを交えた奇術などでは演目の時間がアバウトになりますのでこのような音楽の使い方が適しております。

それでは先に記しました音楽が大きな役割を担う場合(メインミュージック)についてお話いたします。
奇術をやられる方はどうも口下手な人が多いようです。私も例外ではありませんが、特に10代の頃は人前で話すことは難しく、サイレント手順に頼っておりました。そこで悩むのはどのような音楽を使用したら良いかです。
先に経験からお伝えいたしますと、最初は奇術の世界で定番の音楽、例えばマキシムやBONDなどから演目に合うものを選びました。中でもマキシムのクロアチアンラプソディーは曲の雰囲気とマジックの世界が合っていて今でもミリオンカードの音楽に使用したりしております。
他には似たような楽曲を作る演奏家を探して映画やドラマの音楽、シルクドソレイユの曲などから選出しました。
その後私はクラシック音楽、特にピアノの演奏が好きになり、その教養と共にクラシックを演技の音楽として使用しておりました。バッハやショパンです。ショパンのワルツは四つ玉の演技をより一層高めてくれました。
ですので、最初の選択はその場凌ぎでも奇術の舞台を繰り返しているうちに自分の好みに選曲が変わっていくでしょう。もともと燕尾服やタキシードという服装を好む私にはクラシックの選曲が合っていたのです。それは個性を助長してくれる要因でもありました。
間違えてはならないのは貴方の服装や雰囲気にそぐわない曲は選曲しないことです。仲間の奇術師が使用する音楽に感化されてそれを使用するということは演奏家の世界ではないので禁断にすべきことだとは思いませんが、自分自身のキャラに合っているか深く考察しましょう。
ジャージや革ジャンなどを着てクラシックを流したり、燕尾服を着ながらハードロックを流したりすることは観客を困惑させる原因になりかねません。
貴方自身が好きな音楽に今一度向き合うことが演技、そして個性を発達させてくれる一つの力になってくれるでしょう。

次にBGMについてお話いたします。
ここでは奇術やセリフが重要になりますので音楽にかき消されてしまわないようにするべきです。はっきりと話す言葉が観客に伝わる音量で、自然に会場に溶け込むような音楽を選曲しましょう。寄席の高座(舞台)や日本様式の御座敷や古民家ですと三味線で弾かれる寄席囃子が適切ですし、パーティ会場や西洋様式の建築物の中でのショーはピアノやチェロなどのクラシックが良く合います。ライブハウスなどに好んで出演される方はジャズや雰囲気の良いロックミュージックも良いかもしれません。
自分自身が奇術やお喋りに集中できる曲を選ぶことがポイントです。曲に合わせる必要はありませんし、お客様とのやりとりで演技時間が変動しますので曲の切り替わりは極々自然に切り替わるようにしなければなりません。

会場にピアノが置いてあり、恋人や友人がピアノを弾けたら幸運です。生演奏は奇術だけではなく、演者や会場の雰囲気を高め、観客をより一層楽しませることができます。
友人のTokyo Tomoはピアノの伴奏に合わせてカードやシルクなどのスライハンドマジックを華麗に演じておりました。小規模なマジックショーではありましたがこの時の感動は大ホールで観るビッグイリュージョンショーより感動を与えてくれるものであったことは間違いありません。

色々と音楽に関してお話させていただきましたが、心に留めて置いて欲しいことは必ずしも音楽が重要ではないということです。
当然ながら奇術師の中心には奇術がおかれ、どんなに素敵な音楽を選択しても観客の耳には一切残らず、貴方の華麗な指先に常々見惚れているということは多々あるのです。
そして奇術師として様々な場所で演じていると音楽が突然止まってしまったり、作りたての曲に音楽が上手くマッチしなかったりすることもあります。そのような時に上手く対応できるように音楽より奇術の演目の完成度を高めることを優先させましょう。

奇術の演目や演技のお話はまた別の機会にお話いたします。