マジックの練習について、私の考察 第2回

加藤英夫

目次

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ステップ3.マジックを不思議にやれるようになるための練習

マジックをより不思議に見せるには、それぞれのマジックによって具体的に重要なポイントがありますので、具体例をあげて説明する必要がありますが、ここでは根本的にもっとも重要な3つのポイントをリストしておきます。

ポイント1 秘密の動作を気づかせないこと

まず注意することは、秘密の動作そのものが観客に見えてはならないということです。アングルの問題もありますし、秘密の動作を行う位置の前にカバーするものを位置させるということもあります。そしてミスディレクションという心理技法を使うこともあります。

秘密の動作をやるときの速さにも配慮する必要があります。秘密の動作をやるときに他の動作より速くなったり遅くなったりしていないか、動作に節目が出ていないかなどをチェックします。また、秘密の動作というものは、動作全体を続けてやるのではなく、区切りをつけてやることによって怪しさが発生しないことがあります。逆に秘密の動作と他の表面的な動作をオーバーラップさせてやるやり方もあります。

しゃべりながらの演技では、しゃべるタイミングによって、怪しさを軽減できることがあります。無言でやると怪しく見える動作が、セリフを言いながらやると怪しさが目立たないことがあります。

[具体例]

これは秘密の動作をカバーするという考え方ではなく、やり方そのものを工夫することによって、怪しさを発生させない例です。

‘チャイニーズステッキ’において、短い紐を引くときに、通常長い方の棒を傾けてやりますが、傾けるのを目立たせないアイデアです。ただしこれは、2本の棒をそろえて引っ張る、最初の段階のみに使えることです。

2本の棒をそろえていて、短い紐の先端をつかむとき、同時に長い紐の棒に近い部分を親指のつけ根ではさみます。図1。その状態で両方の棒を傾けておくのです。そして短い方を引きながら、つけ根ではさんでいる部分を放します。

図1

2本の棒の先端を放してV字状態にした状態で、紐を引っ張るときに、傾けるのを目立たないやり方もあります。それは短い方を引きながら棒を傾けるのではなく、なるべくぎりぎりの角度に持っていて、短い方の先端をつかみ、棒を傾けて長い方が短くなり始めたら、短い方を引くようにするのです。これによって、傾けることが目立たなくなります。

アングルチェック

鏡を見て練習することにおいて留意しなければならないのは、正面を向いて練習するだけではいけないということです。大勢の観客相手に演じるときは、左右60度(合計120度)ぐらいから観客の視線があります。少人数相手の場合でも、少なくとも左右45度ぐらいからの視線を意識する必要があります。パームなどの場合、上下のアングルを配慮しなければならないこともあります。

アングル対処は、秘密の動作や物が見えない角度でやればよい、という単純なものではありません。その角度で動作を行う、その角度に保つための姿勢というものが、不自然に見えないかどうか、そのような手つきや体の格好で演ずることが流れの中でおかしく見えないか、ということも配慮しなければなりません。

ポイント2 伝えるべきことをしっかり伝える

アスカニオが”物を変化させるマジックをやるなら、変化させるまえの物が何であるかをしっかり見せなさい”という意味のことを言っています。これは当たり前のことですが、”しっかり見せる”というのが重要です。物についてだけでなく、状態についても同じことが言えます。

たとえばカードマジックの’オイル&ウォーター’は、見せ方の上手でない人が演じると、あまり効果をあげません。それは交互に混ざった状態と、分離した状態の違いがあまりビジュアルに区別しにくいことに起因します。セリフとか動作でしっかりと状態を伝える必要があるのです。

観客に記憶の負担をかけることは、不思議さを低下させる原因になります。ですから練習において、なるべく無駄な動作を省くことも考えなくてはなりません。無駄を省けば省くほど、観客の状況把握度が高まり、それだけ不思議さを感じる度合いも強くなります。

[具体例]

上記の’オイル&ウォーター’の例では、アスカニオは両手の指を開いて、右手の指と左手の指が入り込んだ状態を見せて、図2、入り込んだ指を外して、左右の手を上下にかまえることによって、図3、分離現象を説明しています。

図2

図3

アングルチェック

伝えるべきことをしっかり伝えることにおいても、アングルへの配慮が欠かせません。たとえば1枚のカードの表を見せるとき、たんに表を上に向けただけでは、カードの表面が観客にはよく見えません。表面を観客の方に傾けたり、左右の観客に見せる配慮も必要です。

[具体例]

大勢の観客に対して、ダブルターンオーバーでカードを見せるとき、図4のように体の正面でやるのではなく、図5のように、少し体を左に向けてやれば、どのアングルの観客に対しても、カードの表面がよく見えます。

図4

図5

ポイント3 伝えるべきことをしっかり伝える

現象を起こすときには、観客の集中を現象発生場所に集中させることが大切です。魔法をかけることもそのひとつの手法です。現象を起こすときの動作を大袈裟にやることも役に立つことがあります。間の取り方も重要です。

マジックをより不思議にやれるようにするということは、現象が発生するときのインパクトを強めるやり方をするということが、最後のまとめとして不可欠です。そこまでうまくスムーズにやれても、その部分で現象をより強く見せる見せ方をしなくては、それまでの努力は発揮されません。

[具体例]

‘トライアンフ’においては、ほとんどのマジシャンが最後にテーブルにリボンスプレッドして終わっています。これは当然ながら、両手の間に広げて結末を見せるよりも、はるかにドラマチックですから、定石ともいえるやり方です。それはテーブルに広く広げられるというメリットだけではありません。テーブルに広げることによって、両手がフリーになるので、両手を広げて終わりのポーズを取れるというメリットがあるのです。両手の間に広げたら、そのポーズは取れません。フィニッシュにどのようなポーズを取って終わるか、そのポーズを取るためには、その前の動作をどのようにやるか、ということも考える必要があります。

(つづく)