第1回「奇術の見方について」

「スティングのマジック玉手箱」より

中村安夫

石田天海『奇術演技研究メモ』より

「奇術家は他の演技に対して無批判であってよいのか、というと、決してそうではない。そこに演じられる奇術の詳細と、さらに芸の全体を観察して、良いと思ったところを参考にして採り、悪いところはどうすればよいかを考える資料にするのである。決して人の芸のアラばかりを探していては研究にはならない。」

「もし、批評する場合があったら、次の二つのことを心得てなすべきであろう。一つは賞賛する場合はともかく異論があったら、それをこっそりその人だけに語るのが妥当で、人前に本人を据えて異説を唱えるなどということは、自他ともにプラスにはならない。第二は自説がいかに正しくとも、その人の性格や得て不得手等を考慮に入れないで、その正しさを強要したのでは忠告が仇になる。したがって批評は自己本位の主張でなく、あくまでも相手の芸を向上させるための温かい助言にならなければ有害無益である。以上のように、見ることの上手な人は、見せることにも熟達するのが物の順序である。」

【コメント】

私がマジックショーを見た感想を書き始めたのは、niftyマジックフォーラム(FMAGIC)に入会した1989年頃のことです。当時は会員も少なく、数10人程度の奇術仲間にお話しする感じでした。その後、あっという間に数千人規模の読者に増える状況になりました。それに伴い、感想をレポートする人がどんどん減っていきました。書くのをやめた友人に聞いたところ、FMAGICでは勝手な悪口が書かれていると聞かされたためとのことでした。私は戸惑いながらも、感想を書き続けました。

その記録は私のホームページ「スティングのマジック玉手箱」ショーレポート集に残されています。記録を見ると2006年に53本目のレポートを掲載して以来、掲載が止まっています。その理由については、これまで詳しく語ったことがなかったのですが、今回の天海師の言葉を聞いて、書いておこうと思いました。

インターネットの普及とともに私のホームページのアクセス数は急激に増加し、2006年8月時点では、月間アクセス人数 9702(1日平均 239人)でした。2006年1月には1日に1000人以上の人がアクセスしたことがありました。

このデータを知った時に、感想をホームページ上で発表することがよいことなのか正直、悩み始めました。つまり、気軽にレポートを書けなくなってしまったわけです。この頃から、ホームページの更新頻度は減るようになりました。

一方、日本では、2005年頃から、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が普及し始めました。私もmixiに登録しました。ここは実名を基本にした会員制サービスだったため、読者を限定することが出来ました。そこで、再び気軽に思ったこと感じたことを書けるようになりました。

その後、2011年1月に映画「ソーシャル・ネットワーク」を観たことをきっかけにFacebookの魅力に気が付き、今では毎日アクセスするようになっています。最近ではマジックショーを観たときは出来るだけ、感想を書くことにしています。内容は良かった点を中心に書き、辛口コメントについては個人的にお伝えすることにしてきました。今回、天海師がまさにこのようにすべきだと書かれていたのを読み、とても安心しました。

「スティングのマジック玉手箱」ショーレポート集

(2014年11月22日)

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