第3回「奇術人の類型」

中村安夫

石田天海『奇術演技研究メモ』より

「奇術の道に志す人たちの傾向に二つある。一つは追随型とでもいうべき人で、先輩の型や教えを忠実に守って、そこから一歩も抜け出ようとしない人、またはこれを守るのが精一杯で、とてもそれ以上前進できない型の人をいう。第二は前進型であって、単なる追随に満足せず、絶えず工夫と改良を加えて新鮮な味を生み出そうと努力する人である。こういう人がたまたま創作奇術の金的を射当てることができる。この二つの型を別の角度からみると、次のようなさまざまな傾向の人を発見する。

・劣等感過剰型
・不器用型
・器用型
・バラック型

まだ、分類すれば多種多様な型の人があるに違いないが、要は熱心にたゆまず工夫に練習に精魂を打ち込む人が勝ちを制するのである。心ある人は私の意見を参考にしていただければ幸いである。」

【コメント】

私がマジックを本格的に始めたのは、大学のマジックサークルに入部してからですが、それから10年ぐらいは「追随型」でした。30代に入って、少しずつ「前進型」になってきたようです。4つの類型では、私は間違いなく「不器用型」でした。嬉しいことに、天海師は不器用型が最も理想的であると述べています。
その理由も詳しく説明されています。
「実はこの不器用型が大器晩成する素質を持っている。それは自分が不器用であり、理解力に乏しいと自覚するから、一夜づけの奇術をすぐ人前で演じる勇気はない。だから練習に励み、人の意見や批評にも素直に耳を傾ける。そして、慎重に訓練を積んで、確信を得るまでは発表しない。劣等感を克服して途中で放棄しないかぎり、こういう人が最も理想的な人といえよう。」

「器用型」について、天海師は次のように述べています。
「これに反して理解も早く器用な人は、よほど自制心がないと貪欲に陥りやすい。したがって一つのことに執着しないで、すぐ次のものを求める。これの連続である。だからなにもかもが粗雑であり中途半端である。そこで、その粗雑さを持って生まれた器用でカバーしようとする。それでも素人目には一応通用するから、人は覚えが早いの上手だのとほめる。こうして人からおだてられるから、奇術というものをなめてかかるようになる。この自惚れが災いして練習という最もたいせつな要点をついに忘れ去ってしまう。だから器用な人はその器用に押し倒されて達人にはなれないのである。こうみてくると奇術に器用は禁物だということがいえる。」

「バラック型」については、
「同じ器用人の中にバラック型というのがある。この型の人は器用だから独善に陥りやすい。雑談中に演ずる手際は人一倍すぐれていて、手もとがきれいに動く。しかしひとたびステージに立って、正面切って演技を見せようとする場合は、表情の工夫も、説明の要領も全然おるすになってしまう。ましてその動作にいたっては全くちぐはぐでめまぐるしく、見るからに不快な感を観客に与える。奇術は手先だけの器用さで演じうるものでないことが、まだ理解されていない部類の人たちである。」

(2014年11月24日)

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