第6回「バリエーションの気構え」
中村安夫
石田天海『奇術演技研究メモ』より
「それでは、トランクをひっくりかえせば、すぐ組み立てができるかといえば、そう簡単ではない。これにもまた心血を注ぐ不断の努力がなくては成功することはできない。その気構えの一つは見聞を広くすることである。」
「交友の目的は奇術の友から得た見聞の知識を、自分の滋養分として吸収し、これを蓄積しておけば、それがなにかの機会にヒントとして役立つ。そのためにぜひ必要である。」
「前にもメモのことに触れたが、見聞した事物をメモして整理することはぜひお勧めしたい。およそ奇術に役立ちそうなことは、すべて分類してメモをとる。これがどれくらい役にたつかわからない。」
【コメント】
天海師は、バリエーションを生み出すことは、新発明のオリジナル同様に簡単なことではないと言っています。その気構えとして、見聞を広くすることを説き、多くの奇術家たちと交流することを勧めています。「見聞した事物をメモして整理すること」については、天海師は膨大な資料「天海メモ」を残されています。私が初めて、この「天海メモ」の存在を知ったのは、大学卒業後、社会人1年目の時に出席した「石田天海賞パーティー」で「石田天海追悼の会(大野正治・高田史郎)」が発行した「天海メモ」(No.3舞台奇術編)を入手した時です。その後、「天海メモ」は1980年(昭和55年)に発行された(No.9歴史と奇術史編)まで全部で9冊発行されました。しかし、驚くべきことは、石田天海追悼の会編の「天海メモ」は全体の一部にすぎず、原本は5000ページ以上あることです。
石田天海追悼の会(大野正治氏)によると、「天海師の偉業を永遠に残すため、原本の複製を2部作成し、東京(国会図書館)・大阪(とりあえず山田真大氏方)で保存していただいております。この複製費用は、昭和48年6月9日に東京杉並公会堂で行われました天海師追悼会の協賛金残金を使用しました。」とのことです。
なお、大阪の保管場所は、その後、大阪府立中之島図書館に変更されました。この原本のことが長い間気になっていましたが、今年の7月に天海研究の第一人者である小川勝繁氏から詳細を伺う機会を得ました。小川氏によると複製はカラー版ではなく白黒だそうです。そして、原本(カラー版)は故松浦天海師のご自宅に保管されているとのことです。この天海メモは、今後、日本の奇術家が総力を挙げて研究すべき宝物であると思います。
最後に、私のメモについて紹介します。以前は大学ノートであったり、ルーズリーフ式のノートに思いつくままメモを書き溜めていたのですが、10年ほど前からB6版サイズのメモ帳を使うようになりました。当初は、内容に関わらず、時系列順に書いていましたが、今年から、内容によってメモ帳を別にすることにしました。現在は、「ショー感想」,「歴史」,「YMG発表会」,「CMC50周年」の4種類を使い分けています。
(2014年11月27日)