第33回「天海の数理による赤黒分離」

石田隆信

現在では全く知られていない面白い数理原理の作品が、昔の文献で見つかると嬉しくなります。それがTAMC発行の天海の「Card Magic」の中で見つかりました。天海氏が1949年の一時帰国時にTAMCでマジックを指導されました。その時のカードマジックを柳沢氏がまとめられて、会員だけに配布された冊子です。その中で解説された10枚使用の数理による赤と黒の分離現象です。

5枚の黒カードの上へ5枚の赤カードを乗せて、特定の方法で混ぜることを2回繰り返します。この10枚を左から右へ並べ、左端から数え始め、5枚目のカードを取り除きます。さらに、次のカードから5枚目のカードも取り除きます。右端になれば左端に戻って続けます。この操作を繰り返して5枚を取り除くと、それらが同じ色のカードになっています。もちろん、残っている5枚は他方の色です。赤5枚が上の状態で開始された場合は、黒5枚が取り出されます。もう一度、赤と黒が分離した状態から上記の混ぜる操作を行うのですが、今度は3回繰り返します。それだけで赤と黒が分離した状態に戻っています。

混ぜる操作は、2枚ずつとって、次の2枚は元の上へ、その次の2枚は元の下へ重ね、残りのカードも2枚ずつ同様に繰り返します。この原理を、もう少し詳しく調べますと、1から10の順番に並べて、上記の混ぜる操作を3回繰り返すと、元の1から10の順番に戻ることも分かりました。こちらの方が応用しやすい原理で、2枚ではなく1枚ずつで行った場合、4枚や5枚の使用で、3回繰り返すと元の順序に戻ります。8枚や9枚の使用では、4回の繰り返しで元に戻ることも分かりました。それに比べて、5枚目ごとの5枚を取り除くのは特殊な状態ですが、何かの原理が関わっているように思いました。

この数理原理は天海氏による考案というよりも、ハワイ時代に知った原理に手を加えたと考えられます。元になる原理を調べますと、1940年10月発行の”The Jinx”の114号の中で見つけることができました。Jack Vosburghによる”Fifth Column”のタイトルがつけられています。ただし、5枚目ごとに取り除く状態にセットして開始されていました。トップから赤黒赤赤黒黒赤赤黒黒の状態です。こちらの考えが先に考案されていたのが意外でした。赤5枚と黒5枚が別れた状態から、上記の状態へ持ってくるための混ぜる操作を誰が考えたのかが分かりません。天海氏である可能性がありますが、他の人物かもしれません。

5枚目ごとに取り除くためのセットの配列状況を表向きにして見たことにより、特別な混ぜ方が容易に考えついた可能性があります。表向きで2枚ずつ取って、上と下へ交互に重ねることを繰り返せば、赤黒が5枚ずつ上下に別れることに気が付きます。さらに、そろった状態からこの操作を2回繰り返すと、元のセット状態へ戻ることも分かったのではないかと思います。

このような上や下へ重ねる混ぜ方は、実はオーバーハンドシャフルより古くからあるシャフルです。デックを手に持ったままで混ぜようとすると、このようになると考えられます。これはヘイモウシャフル”Haymow Shuffle”と呼ばれています。このフォールスシャフルとなるのがCharlier Shuffleと呼ばれる方法です。現在ではこれらのシャフルは、パケット・マジックの場合によく使用されています。

2012年発行の”Magical Mathematics”では、パケットで1枚ずつこれを行うのをMonge Shuffle(モンジュシャフル)の名前で解説されています。2013年には川辺治之訳による「数学で織りなすカードマジックのからくり」の名前で発行されています。そこには、このシャフルがミルクシャフルやパーフェクトフェロウシャフルやリバースフェロウ、そして、ダウン・アンダーとも全てがつながって関係していることを報告されていました。

このヘイモウシャフル(モンジュシャフル)を2枚ずつで行い、しかも、一列に並べて5枚目ごとに取り除くのは特別な数理原理です。これを応用した作品を本で読んだ記憶がありません。面白い原理ですので、すぐに応用したくなりました。赤5枚と黒5枚の10枚を客にシャフルさせ、演者も少し混ぜた後で1枚を取らせて戻させます。そして、2回の特別な混ぜる操作を繰り返します。その後で、5枚目に不思議なことが起こると告げて、上から順序を変えずに4枚を右手に取って下へ回し、次の5枚目となるカードをテーブルへ置きます。この操作を5回繰り返し、5回目に取り出すカードが客のカードになります。このカードで、それまでに取り出した4枚の山をタッチすると、4枚とも客のカードと同じ色になっています。残っている5枚が他方の色になります。つまり、カード当て現象に変えて、10枚をシャフルさせ、ダブルクライマックスになるようにしました。

1949年(昭和24年)は戦後の混乱期で、まだ、マジックの最新情報が海外から入ってこない時代です。その意味で、天海氏の果たした役割は大きかったと思います。その2年後の1951年には、TAMCの会員でもある柴田直光氏が「奇術種あかし」を発行され、マジック界に大きく貢献されています。この本には天海氏のマジックが解説されているわけではありませんが、海外からの遅れを取り戻そうとされる思いが伝わってくる奇術書です。天海氏のマジックを見られて、その思いが強くなったのではないでしょうか。

(2021年11月23日)

参考文献

1940 Jack Vosburgh The Jinx 114 Fifth Column
1949 石田天海 Card Magic(TAMC会員限定用) 赤黒の札をあつめる
2012 Persi Diaconis & Ron Graham Magical Mathematics
2013 川辺治之訳 数学で織りなすカードマジックのからくり(上記の翻訳本)

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