第40回「天海のひっくり返るカード( Topsy Turvy Cards )」

石田隆信

デックの半分をひっくり返し、ボトムの1枚をトップへ置いて、ファンに広げると全てが同じ向きにそろいます。このような現象が、さらにグレードアップした状態で後2回繰り返されます。1949年のルポールの方法が有名になり、その後の数10年は人気のあるマジックとなります。天海も同様な現象ですが、方法が全く異なり、巧妙な発想が加えられています。

天海の方法の大きな特徴が、秘かにひっくり返すための特別な技法を使っていない点です。ルポールの方法では、上半分をパスしながらひっくり返してボトムへ持ってきています。また、第2段では、デック半分のファンのカバーで、残り半分をひっくり返しています。天海はそのような方法を使わずに、この現象を成立させるための変わった発想を使っています。それは天海の有名なデックの半分をひっくり返したように見せる方法ではありません。問題は奇妙な方法のために、間違って解説されているように思ってしまうことです。さらに、その部分の考え方が書かれていないために、細かい点で正確なことが分かりません。この考えが成立するのか、そして、それを3回も使っているので大丈夫かと思ってしまいます。

第3段までの現象を簡単に紹介します。第1段では、裏向きデックの下半分を取ってファンに広げ、表向きにして元の下側へ戻します。表向きのボトムの1枚をトップへ置き、その面を客席に向けてファンに広げると全てが表向きになります。第2段では、裏向きデックのボトムの4分の1を取ってファンに広げ、表向けてそろえてトップの左側へジョグして置きます。さらに、ボトムの4分の1を取ってファンに広げ、表向けてそろえてボトムの右側へジョグして置きます。つまり、中央部分だけが裏向きです。全体をそろえてファンに広げると全てが表向きになります。第3段では、下半分を表向けて上半分の裏向きとフェロウシャフルし、半分からませた状態の裏表を示して、そろえてファンに広げると全てが表向きになります。

この作品を解説していたのは”The Magic of Tenkai”だけで、日本語では解説されていないようです。”Topsy Turvy Cards”のタイトルになっています。ジェラルド・コスキー氏が解説され、二川滋夫氏がイラストを描かれています。なお、この作品が考案された年数が分かりません。コスキー氏が天海氏から教わったのは、1954年から1958年の間のロサンゼルス時代と思いますが、違っているかもしれません。

問題は、この解説の最初の部分で、デックが表向きであることを書いていなかったために、混乱しやすい状態になっていました。トップから2枚目のカードをひっくり返した状態で開始され、ヒンズーシャフルして逆向きカードを中央に持ってきています。右指4本を中央の裏と裏が向き合った2枚の間へ入れ、右親指は表の上へ置いて、表向きにファンに広げると書かれていました。デックが裏向きと思って読み進めると、この部分で最初の混乱が生じます。表向きである記載がなかったことが問題でした。

さらに、この後の天海独自の操作も理解しにくく、混乱させる要因になっています。表向きデックを裏向きにしたように見せる操作です。表向きデックの中央に右指4本を入れて上半分をファンに広げますが、左手の下半分をファンで隠す状態にしています。そして、右手ファンを裏向けて閉じつつ、下半分の後方へ回して右側へジョグしています。この操作時に、左手半分のトップの裏向きを見せている点が問題です。なお、このトップの1枚だけが裏向きです。客にとっては表向きであるべきで、奇妙に感じさせることになります。この記載が正しいのかと疑問を感じる部分です。しかし、この操作が天海の特徴的な重要ポイントであるわけです。

この操作に関しての考え方や注意点の記載がありません。上半分を表向きにファンにしたのは、客にはデック全体をファンにしたと思わせているのかもしれません。表向きファンを裏向けながら閉じて、下半分の後方へ回すと、デック全体を裏向けたように見せたことになりそうです。そして、この後方の半分を右側へジョグします。もう1つの考えとして錯覚があります。下半分を見えない状態にしていたので、表向きファンを裏向けて後方へ回す時に、下半分のトップが裏向きであっても気が付かないのでしょうか。しかし、3回も繰り返している点では、前者の考えの方が正しいのではないかと思います。いずれにしても、秘かにひっくり返す技法を使わないための天海氏の巧妙な方法です。

上記の操作の後、裏向きデックから右側へジョグした部分を右手に取り、表向きにひっくり返してファンに広げ、表向きのまま閉じて左手の半分の後方へ戻します。つまり、上半分が裏向きのままで下半分を表向きにしたわけです。この後、ボトムの1枚をトップへ置いて、デックを表向きにファンに広げますが、ここも間違いやすい部分です。特別な持ち方でリバースファンにしているからです。デックの表を客席に向けて立てて、上エンド近くを右手に持ち、左親指でリバースファンにしています。天海氏はステージやパーラーでの演技を想定されて、観客から見やすくされていたのだと思います。クロースアップでデックの表を上向けてファンにする場合は、左手に持ったデックを右手で普通にファンに広げます。いずれにしても、ファンにした時に各カードのインデックスが見える状況にしています。なお、解説の最初の注意書きには、裏には白い縁があるカードを使うように書かれています。表向きのファンに1~2枚の裏向きのカードが混ざっていても暴露しないようにするためです。

第2段では、左手に持った表向きデックの後方半分を左人差し指で押して右側へジョグします。それを右手に取って、ファンに広げた後に閉じて左手半分の上へ乗せます。これにより、表向きデックの中央に1枚の裏向きカードが来ることになります。後は第1段と同様に行ってデックを裏向けます。この後の操作の違いは、デックの4分の1ずつを表向きにして上と下へ分散して置いていることです。第3段を始める時には、表向きデックの上から13枚目ほどに1枚の裏向きカードがある状態です。後方から10枚ほどをトップに持ってくることにより、ひっくり返った1枚が中央になるようにしてから開始しています。天海の特別な操作によりデックを裏向けたようにした後、後方に置いた半分のトップの1枚を上半分の下に加えた状態で2分割します。下半分を表向けてファンに広げ、閉じた後で表向きと裏向きのフェロウシャフルを行っています。

日本では「天海のひっくり返るカード」を数名で話し合って改案し、天海氏の許可を得て1967年の「New Magic Vol.6 No.10」に解説されています。しかし、これは1941年の「ターベルコース第1巻」に解説された「天海のひっくり返るカード」の改案でした。デックの半分をひっくり返したように見せる天海リヴォルブを使った巧妙な方法です。なお、この名称は確定されたわけではなく、天海オプティカルリヴォルブや天海リバースなどの名前でも呼ばれています。この改案作品では、天海リヴォルブを使って下半分を表向きにしたように見せて、天海のカラーチェンジでトップを表向きに変化させた後で表向きにファンに広げています。第2段でも天海リヴォルブを使い、フェロウシャフルで表裏バラバラにしたように思わせて、その後で表向きファンに広げています。

ルポールの方法は、デック全体を裏向きファンに広げて、下半分をそろえて表向け、その上へ上半分は裏向きのままそろえて重ねます。この状態でファンに広げて、中央で表裏が分かれていることを示します。ファンを閉じて、秘かに裏向きカードをひっくり返しながらボトムへパスしますが、3枚の裏向きカードをトップに残した状態にします。この後、巧妙な見せ方で全ての向きがそろったようにしています。第2段では、裏向きデックのボトムに1枚の表向きカードがある状態にして、上半分を右手に取って表向けてファンに広げています。そのカバーで左手の半分をひっくり返し、その上へ右手の表向き半分を重ねています。

この方法は1949年発行の”The Card Magic of Le Paul”の中で”A Reverse Card Routine”として発表されています。この作品が1958年の「奇術研究11号」に「ルポールのひっくり返るカード」として解説され、日本でも有名になります。ルポールの本は1991年に高木重朗訳「ルポールのカードマジック」として発行されています。

結局、ルポールは秘かに半分をひっくり返していますが、天海は半分を堂々とひっくり返し、残り半分もひっくり返っているように見せている巧妙さがあるわけです。この天海の考えを使った作品を日本でも海外でも見たことがありません。この方法が知られていないのだと思います。なお、同じ結末を3回繰り返すことになりますが、2段階で終わってもよいと思います。New Magicの方法やルポールの方法では第2段までです。一般客にはNew Magicの方法のように、天海リヴォルブを使う方が演じやすいと思います。しかし、マニア相手には、知られていない今回の方法にチャレンジしてみるのも面白いと思います。

(2022年1月18日)

参考文献

1941 石田天海 Tarbell Course in Magic Vol.1 Tenkai’s Reverse Cards Mystery
1949 Paul Le Paul The Card Magic of Le Paul A Reverse Card Routine
1958 ルポール 奇術研究11号 ルポールのひっくり返るカード
1967 フロタ・マサトシ New Magic Vol.6 No.10 天海のひっくり返るカードから
1974 Kosky & Furst The Magic of Tenkai Topsy Turvy Cards
1991 ルポール 高木重朗訳 ルポールのカードマジック 逆を向くカードの手順

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