第48回「天海のブレンドカード」

石田隆信

4枚の赤カードと4枚の黒カードが分離した状態から、一気に赤黒交互に混ざります。オイル・アンド・ウォーター(水と油)とは逆の現象です。天海の方法が解説されていたのは、1996年発行の「天海IGP.MAGICシリーズ Vol.1」です。この中で3つの方法が解説されているのですが、それぞれのタイトルが違っていました。1作目は「天海のブレンドカード」、2作目は「ブレンドカード2」、3作目は「まざるカード」です。最初の解説だけは指導を受けた年月日の記載があり、1960年9月2日となっていました。この3作の中で、特に天海の独自性を発揮されていたのが3作目と言えそうです。

1作目は赤黒のカードの代わりに4枚のAと4枚のKが使われていました。そして、これはバーノンのオイル・アンド・ウォーターの最後の混ざるクライマックスが元になっているようです。1960年のルイス・ギャンソン著”Dai Vernon’s More Inner Secrets of Card Magic”の中で解説されています。もちろん、各部分で天海の変更が加えられていました。バーノンの方法は、日本では1960年7月発行の「トップマジック13号」に紹介されています。それを元にして9月には改良が加えられた天海の方法が演じられたものと思います。

バーノンの方法では表向きに広げて示す時に、同じ色の上4枚の3枚目と4枚目の間に右小指を深く入れてブレークしています。そして、その部分に下4枚の最初の3枚を入れています。天海の方法では、3枚目と4枚目の間にブレークを作るのは同じですが、その後が違っています。この4枚をそろえ、その上で下側の4枚を左手で広げていました。完全に重ねて広げるのではなく、右手カードの外半分に重なるように広げていました。そして、左手の4枚目のカードをブレークへ入れています。結局は、4枚の上下は入れ替わりますが、配列状態はバーノンの操作と同じ結果になります。さらに、この後で裏向きで4枚ずつに分けますが、一方の4枚を表向けて天海流のエルムズリーカウントを行っています。バーノンはこの作品では使っていません。元になるバーノンの”More Inner”の本には「ツイスティング・エーセス」が解説され、それによりエルムズリーカウントが広く知られるようになります。日本でも1960年5月発行の「トップマジック11号」で紹介されていますので、数ヶ月後にはそのカウントを取り入れられたことになります。

2作目はエルマー・ビドルの「アンチ・オイル・アンド・ウォーター」とほぼ同じです。1958年のイギリスのマジック雑誌”Gen”に解説されています。混ざる現象は彼が最初ではありませんが、その現象を単独で発表したのは彼が最初と思います。ところで、「オイル・アンド・ウォーター」はマルローが1953年に発表して有名になります。そして、1956年にはマルローが改案を発表し、その最後に交互に混ざるクライマックスが加えられていました。問題は余分なカードを2枚も使っていました。それを8枚だけにして、ビドルムーブを使った単独の現象にして、簡単に行えるようにしたのがエルマー・ビドルです。これを天海氏がIGPのメンバーへ、簡単に行える方法として紹介されたのだと思います。

3作目では、混ざる現象が2回繰り返されます。第1段は上記のエルマー・ビドルの方法を行っています。第2段では、この混ざった状態から赤4枚と黒4枚に分ける操作で新たな秘密操作を加えています。まず、第1段により8枚が赤黒交互状態になったことを表向きで示し、偶数枚目にある同じ色のカードをアウトジョグしてファン状にします。8枚目をアウトジョグする時に、7枚目のカードも見えないようにアウトジョグ側へ移しています。結局、7枚目のカードをアウトジョグの3枚目と4枚目の間に重なるようにしているわけです。この後、手前の3枚を引き抜いて、アウトジョグカードの上へ重ねています。全体を裏向けて、トップの4枚を順が変わらないように数えて右手に取り、そろえて表向きでテーブルへ置きます。

この次のハンドリングは天海らしさを感じてしまう部分です。左手に残っている裏向きの4枚を同じ色の4枚として見せる方法で、この時のトップは別色のカードです。左手の4枚を右手に渡して、順が変わらないように逆ファン状に左手へ上から3枚を戻します。右手に残った4枚目のカードで、テーブルのパケットを指さしてその色を言い、左手の3枚を指さしてその色を言います。この時に、左手の3枚を一度そろえて、トップの2枚を重ねて右へプッシュオフしています。右手カードの下へその2枚を左へずらして重ねて取り、手前へ返して2枚の表を示します。裏向きに戻し、下側のカードを左手カードの上へ戻し、トップカードをテーブルへ置きます。次にこの上へ左手のトップカードを置いています。

左手には2枚が残っていますが、トップのカードを左へずらし、2枚を手前に返して表を示します。左にずらしたカードは先ほど見せたカードであるので、左掌のカバーでインデックスが見えないようにしています。2枚を裏向きに戻し、1枚ずつテーブルのカードの上へ重ねます。4枚目は少しインジョグしています。この上へ他方の4枚を裏向けて重ね、8枚を左手へ置きますが、インジョグカードの下へ左小指でブレークします。トップから表向けてテーブルへ少しずつずらして配り続けるのですが、4枚目を配る時にセカンドディールしています。本来のセカンドディールとは違っていますが、表向けて配る場合にはこの方法が楽に行えそうです。この配る操作により、赤黒交互に広げられた状態が示されます。

3作目の方法が、いつの考案であるのか分からなかった点が残念です。混ざる現象の繰り返しは、これまでになかったことだと思います。また、第2段ではビドルムーブもエルムズリーカウントも使わずに、バーノンの方法も使わず、天海の方法を作り上げていました。新しい考えを直ちに取り入れ、改良を加え、天海独自の方法に完成させる天海の素晴らしさを感じました。

(2022年3月29日)

参考文献

1953 Edward Marlo The Cardician Oil And Water
1956 Edward Marlo Ibidem No.8 Oil And Water 混ざる現象も
1958 Elmer Biddle Gen Anti Oil And Water
1960 Dai Vernon More Inner Secrets of Card Magic Oil And Water
1960 マルローとバーノン トップマジック13 油と水
1983 高木重朗編集 カードマジック事典 水と油 まざるカード
1996 フロタ・マサトシ 天海IGP.MAGICシリーズ Vol.1 ブレンドカード3作
2006 石田隆信 フレンチドロップコラム Oil And Waterとマルロー
2015 宮中桂煥 図解カードマジック大事典 水と油 混ざるカード

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