第5回「オリジナルとバリエーション」
【スティーブ・ジョブズ iPhone4 発表 サンフランシスコ 2010年6月7日】
中村安夫
石田天海『奇術演技研究メモ』より
「創意工夫とはなにをさすか。それがバリエーションである。」
「従来の奇術のある要素と別の要素とを組み合わせることによって、以前の奇術の面影が消え去り、まったく新しい奇術であるように見せる。これが奇術のバリエーションである。
このバリエーションに成功した奇術を、今日ではその人のオリジナルと称して、新発明のオリジナル同様に尊重する。それは奇術の内容がオリジナルでなくとも、その組み立て方の条件がオリジナルであるがためである。もちろん内容的なオリジナルの発見に努力することは結構なことであるが、その功をあせるのあまり、奇を衒(てら)うような結果を生じないように自戒すべきである。むしろあなたのトランクの底に眠っている、一見無価値に見える奇術道具を取り出して、その形と取り合わせを工夫し、そこからバリエーションの至芸を生み出すことのほうが、いっそう効果があると思われるが、どうであろうか。」
【コメント】
天海師の創意工夫に対する考え方は、私が20代の頃に、加藤英夫氏の「ふしぎなあ~と」で読んだ記憶があります。その本当の意味は長い間、理解できていなかったと思います。ある時に、これは特許の考え方と同じだと気が付きました。私は企業で研究開発の仕事を約40年間行ってきましたが、特許を書くことが重要な仕事でした。若いころは、特許の明細書に「発明の名称」と書かれていることに戸惑いがありました。それは、「発明」というとエジソンの発明のような画期的な技術を連想していたため、自分の技術開発の内容はそれほど画期的なものではないという自覚からくるものでした。しかし、新しい技術開発というのは、従来技術に対して、新しい要素を加えたり、要素の組み合わせ方を変えることにより、問題点を解決し、新たな価値を生み出すことに他ならないことを理解しました。天海師の言われる「組み立て方の条件がオリジナルである」ということと同じだと思えます。
少し、文脈とはずれていますが、今から16年前に書いた文章が私のHPに残っていますので、紹介します。
■コンピュータとの出会い(「スティングのマジック玉手箱」より)
(2014年11月26日)
【追記】2021年4月28日
上記の記事の中で、私は次のように書いています。
コンピュータに出会ってから約25年、コンピュータの劇的な進化とともに、私は人生を歩んできた気がする。21世紀まであと数年、これからどんなコンピュータが出現するだろう。
PalmPC, WalletPC, AutoPCなど、コンピュータはますます小さく、そして賢くなっていくに違いない。人間が発明したこの素晴らしいツールとこれからもずっと付き合っていこうと思っている。(1998.3.22)
あれから23年経ちましたので、私がコンピュータに出会ってから約50年になります。2007年にスティーブ・ジョブズが発表した、iPhone(スマートフォン)は、その後、世界の人たちのライフスタイルを変える画期的な製品でした。私もiPhone4S(2012年)、iPhone8(2018年)、iPad(2021年)を愛用しています。