“Sphinx Legacy” 編纂記 第3回

加藤英夫

今回は種明かし問題のひとつの例を挙げます。アクトの中に種明かしを含めるというマジシャンについてです。

出典:“Sphinx” 1902年5月 執筆者:Nelson Downs

ネルソン・ダウンズからの手紙

これは、Nelson DownsからWilliam Hilliarに宛てた手紙の中の一文です。

Magic is still having a very good boom both in England and on the Continent, judging from the many conjuring acts engaged at the various halls. Coin and Card Manipulators are in the majority, especially the latter. Its a common thing to see comic singers doing the Back-hand Card Palm. The other day I saw a comedian at one of the small halls made up a La Chirgwin (with black face and white eye), doing the cards for a finish. Very amusing. Francis King, a German King of Coins and Cards, was at the Central Theatre, Dresden, during the month of March, and on the same program were the Manhattan Comedy Four, with Herr Davis (one of the four) doing the Cards Back and Front.

イギリスをはじめヨーロッパ各国ではマジックが盛んで、コインやカードのマニピュレーションアクトが多く、カードではとくに、’バック&フロントパーム’が流行していたようです。マジックが人気なので、あるコメディアンさえカードの扱いを彼のアクトに取り入れていたとも書いています。そしてDownsは、種明かしの弊害をつぎのように報告しています。

Chas. T. Aldrich, the comedian, was on the program at Wintergarten, Berlin, last month. He does a burlesque imitation of Ching Ling Foo, although he does not expose any of Ching’s tricks. He exposes some very clever ideas, mostly his own, and in my opinion weakens his show by so doing, as his productions were exceptionally clever.

種明かしをショーの中に入れることによって、ショーの質を落としていると指摘しているのです。種明かしが良いとか悪いの論議をするだけでなく、種明かしがマジックショーの雰囲気に影響していることを述べているのです。せっかく素晴らしいマジックを見せたあとで、チープなトリックを種明かしして、直前に見せた素晴らしいマジックも、「やっぱりタネがあるんだな」と感じさせるとしたら、確かにショーのクオリティは下がることになるのです。その観点から種明かしの弊害を指摘したDownsは、やはり偉大なるマジシャンであったのです。

このようにアクトの一部で種明かしするというのはまだ序の口で、アクト全体が種明かしというマジシャンも登場します。

出典:”Sphinx” 1902年11月 執筆者:不明

種明かしをアクトとするマジシャン

アメリカマジック界では、種明かし問題がいつの世でも存在していましたが、まさか種明かしの連続でアクトを構成しているマジシャンがいるとは思いませんでした。

Brannan & Martini, the alleged magicians, who make a living by exposing tricks on the public stage, are playing the Orpheum circuit. They were in Kansas City week of Oct. 12 and Omaha week of Oct. 19. They expose during their act the egg and handkerchief trick, rose in button-hole, passe-passe, chair servante, torn umbrella and handkerchief changing globe. In spite of Mr. Martini’s promise not to expose the use of the servante in his act he continues to do so.

いくつものトリックを連続して種明かしして、最後にはサーヴァントまで種明かししてしまうというのです。この記事が掲載されているにもかかわらず、”Billboard”で種明かし問題については厳しかったWilliam Hilliarも、この記事には何もコメントしていません。それには明確な理由があります。この1902年11月号のまえの10月号で、Hilliarが”Sphinx”の編集長を辞任してしまったので、この号には携わっていないのです。この11月号から、編集長はM.Inezが担当することになりました。

Brannan & Martiniはこのあとも、機会あるごとに非難され続けます。それでも彼らは種明かしをやめません。この問題が半年後にはどうなっているでしょうか。

出典:”Sphinx” 1903年5月 執筆者: M. Inez

種明かしマジシャンの近況

種明かしをアクトにしているBrannan & Martiniが、Martini & Maximilianと名前を変えて、Orpheum Theaterに出演するという情報です。名前を変えたということは、それなりの理由があるようです。M. Inezの以下の記事では、SAMが抗議の手紙をOrpheumに送るべきだと言っています。

Martini & Maximilian (formerly known as Brannan & Martini), who make a business of trying to ruin magic by exposing it and are despised heartily by the entire profession, were booked at the Orpheum, New Orleans, May 4-9, and no doubt will play the entire Orpheum circuit, including the cities of San Francisco, Los Angeles, Omaha and Kansas City. The S. A. M. had better send its first letter of protest to the Orpheum management.

種明かしのアクトがマジック界では悪評となっていても、Orpheumのような権威のある劇場が雇うというのですから、ショービジネス界としては問題ではないのかもしれません。そうだとすると抗議の手紙を出すことが、今日なら、威力営業妨害になってしまう可能性があります。

SAMがその後、種明かし問題に厳しいルールを定めていく背景には、このようなことも関係していたようです。

(つづく)