“Sphinx Legacy” 編纂記 第32回

加藤英夫

出典:”Sphinx”,1921年3月号 執筆者:Syril Dusenbery

A SIMPLE CARD TRICK

Effect of this simple card trick is as follows: A pack of cards is freely shuffled so that the performer does not know the top or bottom card, or the position of any of the cards for that matter. A number of cards are dealt off the pack while the performer turns his back or goes out of the room and one is selected. The dealt off cards are then put together with the pack and the pack given to the performer. The performer then spreads out the pack face up on the table and while holding the spectator’s hand in his left hand he runs the index finger of his right hand over the surface of the face up cards and the card at which he stops proves to be the selected card. If presented as an example of mind reading, this trick never fails to cause favorable comment.

この現象説明のあとにやり方が解説されていますが、簡単に説明しておきます。

シャフルされたデックを持ち、「私が後ろを向いたらこのようにカードを置いていってください」と言って、カードをディールしていきます。5枚置いたらストップして、「そして好きなところでストップして、ストップしたところのカードをこのように見ておぼえてください」と言って、最後にディールしたカードをのぞき、そのカードをもとに戻し、「そして残りのカードを上に重ねてください」といって、残りのカードをテーブルのカードの上に重ねます。

見たカードはボトムから5枚目にありますから、あなたが後ろ向きになっているときに、相手が説明通りに行えば、見ておぼえたキーカードは選ばれたカードからトップ方向5枚目にあることになります。あとはデックを表向きにリボンスプレッドして、伸ばして人さし指をスプレッドの上で左右に動かして、選ばれたカードの上に下ろして当てます。

このトリックをどこかで読んだことがありませんか。これは、”Scarne on Card Tricks”(1950年)にMax Holdenのトリックとして、’Mind Control’のタイトルで書かれているものとまったく同じです。それよりも以前に、Maxwellによって1934年に書かれた”The Card Tricks That Anyone Can Do”の中でも解説されていますが、Maxwellは考案者を示していません。その本の発行者がHoldenでしたから、Holdenはその解説を読んだに違いありません。“Scarne on Card Tricks”方でどのようにクレジットされていたのか、確認しておきましょう。つぎのように書かれています。

This card trick was much favored by my good friend Max Holden, the Magical Dealer.

Max Holdenが気に入ってやっていたカードトリックであると書かれています。私はこの手法を用いるトリックの解説で、ずっとMax Holdenをクレジットしてきましたが、間違いだとわかりました。”Scarne on Card Tricks”ではそのようなクレジットが多く、同書は考案者のクレジットとしてはまったく信用ならないと言われています。

Dusenberyは、自分が考案したとは記していませんから、彼の作品と断定することはできませんが、少なくとも彼が先に解説したことはカードマジックの歴史に刻まれるべきであると思います。それだけ価値のある巧妙なキーカードプレイスメント手法です。

私はこの原理をクリンプと併用して演ずることがあります。ストップしたところのカードをのぞく真似をして説明するとき、左手前コーナーをつかんでカードを持ち上げるとき、そのコーナーをクリンプするのです。その他は原案と同じにやりますが、カードを当てるとき、裏向きにリボンスプレッドして、スプレッドに手をかざして左右に動かし、クリンプカードから所定枚数目のカードに手を落として、そのカードを抜き出して当てます。

そのアイデアをMagic Cafeに投稿したとき、あるメンバーがつぎのように指摘してくれました。

キーカードからある枚数を数えて選ばれたカードを判定するのに、手をかざして動かしながら数えるというアイデアは、数えるということをカモフラージュするのによい手口ですね。

私自身は、カモフラージュする手段としてそのようにやったわけではありませんが、そのように指摘されると、たしかに魔法をかけるとか、精神集中して何かを探るといった仕草が、秘密の動作をカモフラージュする働きをすることがある、ということを教えられました。

とくに上記のトリックにおいては、手を動かすことがカードを数えることと一体になっています。このように表面的動作と秘密の動作を一致させるという手法は、いままでの理論書の中で明確に定義されたという記憶がありません。ミスディレクションなどと同等に重要な手法であると思います。

よく記憶してはいませんが、もしかすると、そのような手法をミスディレクションのひとつとして取り上げていた著者もいたかもしれません。しかしながら理論というものは、類似していても働き方が異なるものは、明確に分けて考察した方がよいのではないでしょうか。この際、この手法に名前をつけてみましょう。動作をダブらせるということから、Duplication、Overlapping、などが考えられます。

上記に説明されているクリンプカードをキーカードとするやり方を再読して、選ばれたカードの効果的な現し方を思いつきましたので説明いたします。選ばれたカードがクリンプカードから下方向5枚目にある状態からつぎのようにやります。相手が前述のようにやったあと、相手に何回かカットさせてからやってもかまいません。

デックを裏向きにリボンスプレッドするとき、スプレッドしながらクリンプカードの位置を認知します。そのあとはカードの方を見ないで、「カードを見ないで選ばれたカードを当てます』と言って、顔を右にそむけて、左手の人指を伸ばしてスプレッドの上で左右に動かして、クリンプカードがあると思われる位置より少し左で止めます。

そうしたら視線をスプレッドの方に向け、密かにクリンプカードから5枚数え、5枚目のカードを抜き出します。そして選ばれたカードを名乗らせてから、そのカードを表向きにして、選ばれたカードであることを見せます。 

(つづく)