“Sphinx Legacy” 編纂記 第36回

加藤英夫

今回もまた、広告されているトリックについての考察です。

出典:”Sphinx”,1921年8月号 手紙:A.M. Wilson

Mr.Thayer has favored me with the “Eli’s Die Box” that he has been advertising in this issue. It is the invention of Mr. Eli Hackman of Philadelphia. The Box is a round one of beautifully polished mahogany containing three dice, the total sum of two shakes in the box and one throw on the table can be told by the magician without having seen the numbers as the box is held behind his back when a spectator places the dice in the box.

Wilsonが書いた現象説明と、この広告に書かれている現象説明が微妙に異なります。Wilsonはつぎのように説明しています。

3個のダイスを容器に入れて2回シェイクして、それぞれ出た3個の目の数を合計し、さらに3個のダイスをテーブルに転がして、出た3個の目を合計しますが、マジシャンは、容器をシェイクして出た目を見ていないにもかかわらず、合計を当てることができます。

広告における現象説明は以下の通りです。

客が3個のダイスを容器に入れ、上に出ている目の合計を紙に書きます。容器にフタをしてよく振ってからフタを開け、上に出ている3個の目を最初の合計に加算して合計を紙に書きます。またダイスを容器に入れて振ってから、ダイスをテーブルに転がし出します。そして出た3つの目をまえの合計に加算して、答を紙に書きます。

マジシャンは紙に書かれた数をいっさい見ていないにもかかわらず、最終的な合計を当ててしまいます。客が足し算を終わるまえにさえ当てることができます。もしくは遠くに離れた所にいる当てさせることもできます。

この説明で遠くにいる客に当てさせられるというのは、合計を密かに伝えるとしか考えられません。Wilsonの説明でもそうですが、広告の現象説明では、どの時点でマジシャンが後ろ向きになっているか書かれていませんが、ネットでこのトリックを調べると、”magiccollectibles.com”にこのトリックの広告がありました。ダイスを2個使うとなっていますが、現象は同じようです。以下のように書かれています。写真は同サイトからのものです。

The spectator puts two dice in a box and records the total of the dice on the top while the magician is holding the box behind his back. The magician then shakes the box vigorously and opens to reveal the new number to the spectator again behind the magicians back where he cannot see the dice in the box. He then hands the box to the spectator and ask him as a finale to roll the dice onto the table. The spectator adds up the total of all of the dice revealed and the performer who has named the total immediately after the final roll of the dice is found to be correct!

この説明を読むと、少なくとも2回目の目を合計するところまでは、マジシャンは後ろ向きになっていて、容器はマジシャンの手に持たれていることがわかります。ただし、シェイクするのはマジシャンがやっただけでなく、客にやらせることもできると思われます。

テーブルに転がしたダイスの目をマジシャンが見ないとは、どの説明にも書かれていません。それがこのトリックの秘密を解く鍵だと思います。上記の説明では、最後に容器を客に渡して、ダイスをテーブルに転がして出させる、と書かれています。

3個使う場合は、最終的な合計は、’21’に転がして出ている目の数を加算したものになります。すなわち、ダイスはシェイクしても回転するような幅が容器の内側にない、というのが根本的なトリックだと私は推測します。マジシャンがシェイクするとき、強く振る動作の中で、密かに容器をひっくり返してしまうのです。

私は2個でやる方がよいと思います。それなら紙に書く必要がないからです。

広告の書き方として”Sphinx”の広告のように曖昧に書くのがよいでしょうか。それとも”magiccollectibles.com”のように、かなり正確に書く方がよいでしょうか。このトリックの場合は、”遠くにいるアシスタントに当てさせることもできる”と書いたのはよくないと思います。それを書かずとも、十分に面白さは伝わります。アシスタントに秘密のコードで情報を送ることが説明書に書かれているのを読んだ人は、きっとがっかりするでしょう。

その宣伝文句は、その商品を売るだけには効力があるかもしれませんが、長い目で見れば、その会社の広告の信用度に関わってくるのです。

このトリックに関して調べていると、”Magic Cafe”でつぎのようなことを指摘しているのを見つけました。

For those that know the trick, there is a (very) minor disadvantage to the slightly different appearance between the two halves, but only if you are dealing with extremely observant spectators.

要するに、容器をある方を上にして開けたときと、ひっくり返して開けたときで、見かけが違ってしまうということを指摘しているのです。その投稿に対して、他のメンバーがつぎの動画を紹介してくれました。これはその問題を解決しているだけでなく、演じ方が優れています。

容器の上下問題も解決されていると同時に、容器を投げることができるというのが優れています。それによって、密かなターンオーバーに苦労しないですみます。

そして当てるという現象を、予言に置き換えたことはたいへん素晴らしいですね。しかもトリックが見破りにくくなっていると思います。

これぞまさに100年まえから得たマジックの遺産を、今日のマジシャンが発展させた典型的な好例であると思います。私は思わず、画面に向かって拍手を送りました。

(つづく)