“Sphinx Legacy” 編纂記 第93回

加藤英夫

出典:”Sphinx”, 1933年4月号 執筆者:Harry B. Solomon

Card Trick No. 11,347,892,664

このトリックの現象はつぎの通りです。選ばれたカードをデックに返してもらい、デックをシャフルします。それからデックに魔法をかけてから、トップカードを表向きにして、それが選ばれたカードでしょうと言うと、客は違うと言います。そこでマジシャンはそのカードを裏向きに、デックの前端からさし入れて、半分突き出させた状態にします。突き出ているカードを客につかんでもらい、抜き出して表向きにさせると、そのカードが選ばれたカードに変化しています。やり方は以下の通りです。

選ばれたカードがデックに返されたら、それをパスもしくはあなたの得意な方法でトップにコントロールします。フォールスシャフルのあと、トップの2枚をダブルターオーバーして、それが選ばれたカードかと尋ねます。相手がそれを否定したら、その2枚を1枚のごとく保ち、裏向きにデックの前エンドから中央あたりにさし入れます。「このカードをつかんでください」と言ったとき、密かに2枚のうちの下の1枚を中指の先でデックの中に押し込んでしまいます。そして選ばれたカードを相手につかませます。そしてそれが選ばれたカードに変化したことを見せます。

これを読んで、私が類似のトリックを書いたことがあるのを思い出しました。”Card Magic Library”第1巻に収録した、’ツイストチェンジ’と’ヒット&ダン’です。

‘ツイストチェンジ’は重なった2枚を前端に入れて、下から左人さし指を当てて少しし2枚を浮かせ、左図の矢印のようにダレイツイストで回転させます。左手を返してまだカードが変化していないのを見せてから裏向きに戻し、ここでまたダレイツイストすべく2枚の左上に右手を当てたとき、下のカードをデックの中に押し込みます。そしてダレイツイストをやってから、選ばれたカードに変化したことを見せます。(ダレイツイストとは、左図の状態で、左人さし指の先をアップジョグカードの中央に当てて少し持ち上げていると、突き出た状態で矢印のように回転させられるという技法です。)

‘ヒット&ダン’は2枚をデックの前端に入れ、下の1枚をデックの中に押し込んだあと、上の1枚を右図のようにデック前端ぎりぎりに位置させ、右手で強くヒットします。そのカードが表向きになってテーブルに落ちます。

いずれのトリックも、Harry B. Solomonの上記のトリックと同じ原理を利用していますので、私のトリックを解説するときにわかっていれば、その原理が存在していたことをクレジットするべきでした。

私のトリックでは、どちらもカードを変化させるフラリッシュ的な動作をやるために、カードをデック前端に入れることはそれほど不自然ではありませんが、Harry B. Solomonのトリックでは、客にカードをつかませるためにその状態にすることは、かなり不自然な感じがします。

それを不自然に感じさせないやり方を思いつきました。トップカードを見せて、それをデック中央に入れるからおかしいのです。デックを広げて中央あたりのカードをアップジョグさせて、その状態にすればおかしくありません。トリックとしてはつぎのようにやります。

選ばれたカードの上にブレークを保持した状態まで進めます。選ばれたカードを見つけると言って広げていき、ブレークの下の2枚を1枚のごとくアップジョグさせます。ここで選ばれたカードを尋ね、左手を返してアップジョグカードを見せます。

違うカードなのでそれなりの演技をしたあと、左手を返してデックを裏向きにして、「ここをつかんでください」と言ってアップジョグカードをつかんだとき、下のカードをプッシュインします。そして相手がつかんだら、「ワンースリー」などのかけ声をかけ、デックを手前に引きます。そしてつかんでいるカードを表向きにさせます。

2枚重なったカードを1枚のごとくデック前端から入れて、密かに下の1枚をデックの中に押し込んで、結果的にカードが変化したように見せる技法は、’プッシュインチェンジ’と呼ばれています。”Card Magic Library”第1巻には、そのやり方が詳細に解説されています。

(つづく)