「奇術師のためのルールQ&A集」第21回

IP-Magic WG

Q:オリジナルの手品用具を製造販売するマジックショップを経営しています。

これまでは、自分の姓をカタカナ書きした「タカハシ」の4文字を商品に付していましたが、今後は、より洒落たネーミングを商品のブランドとして用い、これを商標登録しておきたいと考えています。今のところ、次の5つの候補を考えていますが、どの候補がよいかアドバイスをいただけますか?

「候補1:不思議マジック」
「候補2:マギー・ゴールド」
「候補3:アラジン」
「候補4:天海奇術」
「候補5:高橋悟太郎」(私の本名)

A:事業者にとって、商品のブランドとなる商標を決めることは非常に重要な仕事です。

商標を決めるにあたっては、まず第一に、需要者に心地よさを感じさせるような独特な響きがあり、しかも覚えやすいネーミングを心掛けることが重要でしょう。商標を使用するには、必ずしも特許庁に登録しておく必要はありませんが、他の業社とのトラブルを避けるためには、商標出願を行い、審査を経て登録商標にしておくのが好ましいでしょう。

出願を行うには、若干の手間と費用がかかりますが、一旦登録された商標は、10年ごとに更新手続を行えば半永久的に有効であり、一生涯、自分だけが安心して使える商標になるわけですから、手間と時間を惜しむ必要はありません。一般に、商標は「Trade Mark」と呼ばれており、肩に「TM」の文字を付して使われることが多いです。登録商標になると「Registered Trade Mark」の略として肩に「®️」を付すことができます。登録されていない商標に、「®️」をつけると虚偽表示になるので注意してください。

特定の商品について商標出願を行うと、特許庁では、主に次の2つの条件が審査されます。第1の条件は「商標としての適格性を備えていること」、第2の条件は「他人による同一又は類似の先出願がないこと」です。登録を受けるためには、この2条件の双方を満たす必要があります。

この2条件は、いずれも出願の対象となる特定の商品との関係で審査されます。ご質問のケースの場合、「手品用具」という商品について出願を行うことになります。「おもちゃ」などについて出願を行うことも可能ですが、ここでは、「手品用具」という商品についての出願に限定して考えることにします。

第1の条件である「商標としての適格性」というのは、一般需要者が「何らかのブランド名」と認識することができる能力、ということです。この「商標としての適格性」が否定される例としては「商品の普通名称、品質、原材料、効能、用途、… 」などが挙げられています。

たとえば「手品用具」という商品について「手品用具」という商標を出願すれば、「商品の普通名称」であるという理由で登録にはなりません。また、「手品用具」という商品について「スチール製」という商標を出願すれば、「商品の原材料」であるという理由で登録にはなりません。これらの商標は、いずれも「何らかのブランド名」とは認識できないからです。

第2の条件である「他人による同一又は類似の先出願がない」というのは、要するに、他人に先を越されていない、ということです。商標は早い者勝ちなので、似たような商品について、似たような商標を他人が先に出願していたら、2番目以降の人の商標出願は拒絶されてしまいます。

ここでは、ご質問にある候補1~5のそれぞれについて、まず、第1の条件を満たしているか否かを検討してみます。

はじめに、「候補1:不思議マジック」についての「商標としての適格性」を考えてみると、「不思議」の部分は「手品用具」という商品についての効能(不思議な現象を起こせる効能)を示しており、「マジック」の部分は「手品用具」という商品についての用途(マジックという用途に用いる)を示している、と解釈される余地があります。もちろん、担当する審査官によって解釈に若干の差があるので、「適格性」を満たしている、と判断される可能性もゼロではありませんが、商標出願の候補としては、かなり問題があると言えます。

次に、「候補2:マギー・ゴールド」ですが、「マギー」の部分は「マジック」のドイツ語訳と思われますので、「手品用具」という商品についての用途(マジックという用途に用いる)を示している、と解釈されるおそれがあります。一方、「ゴールド」の部分は、「品質」を示す語句と判断されるおそれがあります。たとえば「ネスカフェ」という標準品質の商品に対して、「ネスカフェ・ゴールド」を高級品の商品とする運用例があるからです。

もっとも、「マジック」という語句が「奇術」を示す英単語として日本人には周知であるのに対して、「マギー」というドイツ語は日本人にはあまり馴染みがないため、「マギー」の部分が手品用具の「用途」を示すものと判断される可能性はそれほど高くないでしょう。したがって、商標出願の候補としては、「若干の問題がある」という感じでしょうか。

「候補3:アラジン」については、商標としての適格性は問題ないでしょう。「アラジン」と言えば「アラジンと魔法のランプ」のような物語が頭に浮かび、「手品用具」という商品に対して非常に相性がよい言葉です。しかも、「手品用具」という商品の品質、原材料、効能、用途、… などを示す言葉ではありません。したがって、商標としての適格性を十分に備えています。

「候補4:天海奇術」はどうでしょう。まず、「奇術」の部分は、「手品用具」という商品についての用途(奇術という用途に用いる)を示している、と解釈されるでしょう。したがって、「手品用具」という商品について「奇術」という2文字の商標を出願しても、商標としての適格性を否定されてしまいます。しかしながら、「天海奇術」という商標であれば、「天海」の部分について商標としての適格性が認められるため、全体としては、商標としての適格性は問題なし、とされるでしょう。

なお、商標法には、他人の著名な芸名や略称を含む商標は、その他人の承諾がなければ登録を受けられない旨の規定があります。候補4の「天海奇術」の中の「天海」の部分は、石田天海師からとったものと拝察致します。石田天海師は、内外で大活躍し国際的に有名だった大マジシャンでしたから、「石田天海」という名は著名な芸名に該当し、「天海」はその著名な略称にあたる可能性があります。

しかしながら、上記商標法の規定における「他人」とは「現存する者」と解釈されているため、石田天海師が存命中は、「天海奇術」という商標は上記規定により登録を拒絶される可能性がありましたが、石田天海師が亡くなられた現在では、上記規定の適用はないものと思われます。

最後に「候補5:高橋悟太郎」について考えてみます。この候補5は、質問者の姓名をそのまま商標にしたものとのことですね。ご質問によると、これまでは、自分の姓をカタカナ書きした「タカハシ」という商標を用いていたとのことですが、この「タカハシ」というようなありふれた姓は、「商標としての適格性」が否定される例の1つになっています。しかしながら、姓に名を連ねた「高橋悟太郎」という形にすれば、「商標としての適格性」が認められることになっています。「マツモトキヨシ」のような商標も登録されています。

結局、5つの候補のうち、「不思議マジック」、「マギー・ゴールド」についてはやや問題がありそうですが、「アラジン」、「天海奇術」、「高橋悟太郎」については、第1の条件である「商標としての適格性」を満たしている、と判断できます。

一方、第2の条件である「他人による同一又は類似の先出願がない」という点については、出願を行う際に、その時点で最新の情報に基づく調査を行って判断を行う必要があります。他人が同一内容の出願を先に行っていた場合だけでなく、類似した内容の出願を先に行っていた場合も、第2の条件が満たされなくなる点に注意が必要です。

たとえば、上例の「アラジン」の場合、他人が「おもちゃ」という商品(特許庁の運用上「手品用具」に類似する商品とされる)について、「マラジン」という商標出願(先頭の「ア」と「マ」の違いがありますが、全体的に類似しています)を行っていたとすると、類似した他人の出願が先にある、と認定され、第2の条件を満たしていないと判断される可能性があります。

(回答者:志村浩 2021年5月1日)

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