「奇術師のためのルールQ&A集」第81回

IP-Magic WG

Q:テレビでも有名なプロマジシャンX師のイラストを自分で描き、これを商標登録して商品ロゴとして勝手に使ってもよいのでしょうか?

マジックショップの経営者です。イラストが得意なので、テレビでも有名なプロマジシャンX師のイラストを自分で描きました。X師の風貌をかなりデフォルメして描いたので、3頭身の全身像になっていますが、特徴をよく捉えているので、奇術家であれば誰でもX師の全身像だとわかると思います。

このイラストを商品のロゴとして用いると販売促進効果が抜群だと思いますので、個々の商品のパッケージにこのイラストのシールを貼って販売しようと考えています。私とX師とは面識がないのですが、イラストは私自身が描いたものであり、著作権は私が単独で保有することになると思います。したがって、X師に無断で、このイラストを商品ロゴとして用いても問題ないと思いますが、何か法的問題は生じますか?

また、念の為、このイラストの商品ロゴについて商標登録をしておきたいと思いますが、X師の許可を得ないで商標登録することはできますか?

A:あなたの描いたイラストが、X師と特定できる場合、このイラストの使用はX師の肖像権を侵害する違法行為になる可能性があります。この場合、X師の許可を得なければ、商標登録はできません。

あなたが描いたイラストは、あなた自身の創作物になるため、イラストの著作権はあなたが単独で保有することになります。別言すれば、著作権に関しては、あなたが唯一の権利者であり、X師は著作権者にはなりません。したがって、著作権法上は、あなた自身の意思に従って、このイラストを複製したり、使用したり、販売したりすることは自由です。

しかしながら、イラストが人物を描いたものである場合、著作権の他に肖像権というものを考慮する必要があります。この肖像権というものは法律で規定されている権利ではないのですが、判例上、尊重すべき権利とされています。具体的には、他人の容貌をみだりに撮影する行為は、その他人の肖像権を侵害するものとされます。今回のケースでは、写真ではなくイラストなので、このイラストに描かれている人物がX師にどの程度似ているかが問題になります。

このイラストは、X師の風貌をかなりデフォルメした3頭身の全身像とのことですので、写真のようにX師の風貌をそっくりそのまま写し取ったものではありません。ただ、奇術家であれば誰でもX師の全身像だとわかるようなので、X師の特徴をよく捉えた作品になっており、このイラストを見ればX師と特定できるほど、観念的にX師の風貌に類似しているものかと思われます。そうなると、このイラストにはX師の肖像権が認められます。つまり、このイラストには、あなたが保有する著作権と、X師が保有する肖像権との2通りの権利が関わっていることになります。

前述したとおり、肖像権は法律によって定められた権利ではなく、判例上で認められた権利ですが、保護されるべき人格的利益とされております。したがって、このイラストをX師に無断で利用すると、X師の肖像権を侵害するおそれがあります。特に、今回のケースでは、X師は、テレビでも有名なプロマジシャンであり、そのイラストを商品のロゴとして利用することになるため、X師の「パブリシティ権」にも抵触するおそれがあります。

この「パブリシティ権」は、有名人の肖像の財産的価値に着目した権利であり、人の氏名や肖像が商業的に顧客吸引力を有している場合に、この顧客吸引力を独占的に利用することができる権利とされています。つまり、有名人の場合、その名前や容姿にも財産的価値があり、これを無断で商業的に利用する行為は、いわゆるフリーライド(他人の財産的価値にただ乗りする行為)として許されない行為とされています。

「パブリシティ権」について争われたピンクレディー事件では、次の3つの行為が「パブリシティ権」を侵害する行為とされています。
① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する行為
② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付する行為
③ 肖像等を商品等の広告として使用する行為

上記①は、肖像等をあしらったマグカップ、Tシャツ、絵葉書などの商品を販売するような行為です。今回のケースでは、X師のイラストをあしらった商品を販売するわけではなく、商品ロゴとして利用するわけですから、①には該当しませんが、このイラストが描かれたカップアンドボールなどの商品を販売すると、①に該当することになります。

今回のケースは、上記②および③に該当することになります。あなたが販売する商品に、このイラストを商品ロゴとして用いるわけですから、他社商品との差別化を図る目的でイラストを商品に付することになります。顧客は、このイラストの商品ロゴを見て、「これはX師もお薦めの商品だ!」という印象を抱いて当該商品を購入することになるでしょう。つまり、X師のイラストを、他社商品との差別化に利用していることになり、正に②に該当する行為になります。

また、このイラストは広告としての効果も発揮するため、③に該当する行為にもなります。結局、このイラストをロゴとして用いて商品を販売する行為は、X師の肖像の顧客吸引力を利用して商品販売の促進を図る行為であり、X師の肖像の財産的価値を無断で商業利用するフリーライドに他なりません。よって、そのような行為は、X師の「パブリシティ権」を侵害する違法行為ということになります。したがって、あなたが、このイラストを商品ロゴとして用いるためには、X師から「パブリシティ権」に基づく許可を得る必要があります。

一方、このイラストの著作権はあなたが保有しており、X師は著作権に関しては何の権原も有しておりません。このため、もしX師がこのイラストを気に入って、自分の演技のプログラムやポスターに利用したいと思っても、あなたに無断でこのイラストを使用することはできないわけです。要するに、このイラストを、あなたが商品ロゴとして利用しよう考えた場合は、X師の「パブリシティ権」(肖像権)が邪魔になり、X師がプログラムやポスターに利用しようと考えた場合は、あなたの著作権が邪魔になるわけです。

したがって、現実的には、X師とコンタクトをとって事情を話し、このイラストに関して、相互に自分の権利に基づいて使用権を許諾するような契約を締結するのがよいと思います。つまり、X師はあなたに対して「パブリシティ権」(肖像権)に基づいて商品ロゴの使用許諾を行い、あなたはX師に対して著作権に基づいてイラストの使用許諾を行うようにするのです。一般に、このような相互契約はクロスライセンス契約と呼ばれています。このようなクロスライセンス契約が締結できれば、双方ともにメリットを享受することができます。

次に、このイラストを商品ロゴとして商標登録することについて説明します。結論から述べれば、このイラストが、X師と特定できる場合、X師の許可を得なければ商標登録はできません。これは、商標法上、「他人の肖像は、その他人の承諾を得なければ商標登録を受けることができない」という規定があるからです。問題のイラストは、かなりデフォルメされているため、X師の肖像そのものではありませんが、このイラストを見ればX師と特定できるほど、観念的にX師の風貌に類似しているわけです。

したがって、商標法上も、このイラストの商品ロゴはX師の肖像とみなされ、商標出願を行っても拒絶され、商標登録には至らないでしょう。もっとも、商標出願の審査を担当する審査官が、奇術に全く興味のない人で、X師の存在を全く知らなかった場合は、上記規定に該当するとの認識をもたず、誤って商標登録してしまう可能性もあるでしょう。ただ、その場合でも、異議申し立てや無効審判という手続を行うことにより、一旦は登録になった商標権も取り消されてしまいます。

(回答者:志村浩 2022年7月2日)

  • 注1:このQ&Aの回答は著者の個人的な見解を示すものであり、この回答に従った行為により損害が生じても、賠償の責は一切負いません。
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