第4回「天海のカード・アディションについて」

石田隆信

最近よく使われているカードのアディションがあります。デックのすぐ上や前で4枚のエースを表向きでファンに広げ、ファンを閉じつつ裏向けてデックの上へ置くと、エースの上に数枚のカードが加わった状態となります。1992年のクリス・ケナーの本に解説されてから特に有名になったようです。”For 4 For Switch” の技法名が付けられています。しかし、それ以前から同様な方法が数名のマジシャンにより違った名前で発表されていました。

ところで、私が奇妙に思ったのが、1951年の柴田直光著「奇術種あかし」の本には既に同様な方法が解説されていたことです。そして、1985年に発行された海外の本により、1936年頃には天海が既に使っていた方法であることも分かりました。

技法名に関してですが、日本ではパケットにカードを秘かに加える操作をシークレット・アディションと呼んでいます。しかし、海外ではAdd-Onと呼ぶのが一般的で、アディションの用語も使われています。シークレット・アディションはBraueの特定の方法の技法名として使われることが多く、BraueアドオンやBraueアディションと呼ぶこともあります。Braueの方法ではカードを加えるだけでなく、スイッチとしても作用しています。今回のタイプのアディションも同様で、海外の技法名にはスイッチの名前が入っている共通性がありました。

クリス・ケナーの”For 4 For Switch”が発表される前では、1982年のジョン・メンドーザが「スローイング・ザ・スイッチ」の技法名の小冊子を発行されています。1978年にはダグ・エドワードが現在の方法のようにファンの外端を正面向きにした「Quadスイッチ」の名前で発表し、1968年にはマルローが、海外では初めて4枚のエースをファンにして行う方法として発表していました。マルローの方法には特別な技法名がなく、ファンは左向き状態となっていました。

しかし、それらよりも前の1951年には、柴田直光著「奇術種あかし」の中で既に使われていたことが驚きです。その本の91ページには、4枚の穴あき小封筒を使った、変わったタイプの「4枚のエース」のマジックが解説されています。その中で使われているアディションで、4枚のエースをファンに広げて行っていました。ファンはマルローの方法と同じで左向きです。この作品自体は、1932年発行のブラックストーン著 “Modern Card Tricks” に解説されていた方法です。その本では特別なアディションは使われず、表向きに広げた4枚のエースの下に3枚を最初から重ねて隠している古典的な方法でした。ところが、「奇術種あかし」では特別なアディションを使う方法に変更されていたのです。

戦後の日本ではクロースアップのカードマジックに関しては、アメリカよりもかなりの遅れをとっていました。それを取り戻すのに最も適したカードマジックや技法を解説した本が登場しました。それが、1951年発行の柴田直光著「奇術種あかし」です。この本のカードマジックに関しては、その多くの部分を1948年発行のJean Hugard and Frederick Braue著”the Royal Road to Card Magic”を元にしています。ところが、このアディションは、その本に解説されていないだけでなく、それ以前の海外の本でも見つけることができませんでした。「奇術種あかし」の場合、柴田氏が考案されたものには必ず著者の考案や著者が発見した方法との記載が入っています。しかし、この「4枚のエース」には全く何も書かれていませんので、このアディションは柴田氏の考案ではないと思いました。

何年もの間その疑問を持ち続けていた状態で、1985年発行の”The Fred Braue Notebook Vol.5”の本に出会いました。そして、そこに書かれていた内容を見て驚かされました。Braueは1963年に死亡していますので、彼のノートの未発表部分を編集して発行されたもののようです。1936年頃にBraueが天海のアディションを見て、 Secret Add (Fred Braue Handling) としてノートされていました。その方法が4枚のカードのファンを使ったアディションで、柴田氏が解説されていた方法とほぼ同じでした。天海であれば、ステージでのカードマニピュレーションの関連性から、4枚のエースをファンに広げるこのアディションを考案されたことも納得できます。天海のアディションが日本に伝えられたのは、1935年や1949年の一時帰国時だと思います。東京アマチュアマジシャンズクラブ(TAMC)でマジックの実演や指導をされていますので、TAMCでは知られていた方法であったのかもしれません。

このアディションの発展型として有名なのが、ジョン・カーニーによる Versa Switch です。1982年の Genii 誌10月号に発表され、1991年のCarneycopiaにも解説されています。テーブルに広げた4枚のエースを右手で右側からすくい取るのですが、デックを持っている左手を返して4枚の左側に近づけて、数枚のカードをエースパケットの下へ加えることになります。デックとエースパケットを垂直にして、内エンドをテーブルにタップしてそろえ、右手パケットをデックの上へ置いています。これはマルローの方法から影響を受けたと書かれていますが、調査を進めますと、このタイプも日本が最初の可能性が高くなりました。

1974年発行の沢浩氏の「第6回石田天海賞記念誌」には「不法建築」の作品があり、その中の「シークレット・インサート」が同様な方法です。沢氏の方法では、テーブル上に広げた4枚を右手でサポートしつつ、デックを持った左手により、手を返して左側からテーブルの4枚をすくい取っています。この時に数枚がアディションされています。カーニーの方法との見た目の違いは、取り上げたテーブルのパケットを揃えるために、パケットを垂直にして内エンドをテーブルにタップする操作がないことです。

天海賞受賞記念誌は、マジックキャッスルの図書室に寄贈されています。キャッスルへ出入りしているマジシャンは、この本を見る機会があったと思います。日本語の本ですが、この技法は写真で理解できます。また、沢氏は1970年や72年にキャッスルで実演やレクチャーをされていましたので、この技法の影響を受けたマジシャンがいた可能性もあります。ただし、カーニーが影響を受けていたかは分かりません。彼の方法は改良が加えられていますので、Versa Switch もすばらしい方法です。沢浩氏のアディションは、1988年にアメリカでリチャード・カウフマンにより発行された “Sawa’s Library of Magic” の中でも、Bad Construction(不法建築)だけでなく、”The Strolling Cow Aces”、”Face-Up Oil and Water” にも使用されていました。

今回のこれらのアディションの元になると考えられているのがCharles T. Jordanの方法です。1920年の”Ten New Sleight of Hand Card Tricks” の本の “The Amazing Aces” に使用されています。同様なタイプのアディションといってもよいのですが、4枚のエースをファンにしたり、広げてカバーする方法ではありません。右手のパケットはそろえた状態で持っているために、範囲の狭いカバーのみで行うアディションとなります。そのために暴露しやすく、実践で使えるのか疑問に感じてしまう方法です。それでも、現在ではJordanの方法がこのアディションの最初として知られるようになっています。残念なのが、ファンに広げて実践的にした天海のアディションのことが、まだまだ知られていないことです。

(2021年5月4日)

参考文献

1920 Charles T. Jordan Sleight of Hand Ten New Card Tricks
1951 柴田直光 奇術種あかし 4枚のエース 左向けたファン
1968 Edward Marlo Expert Card Conjuring by Alton Sharpe 上記同様ファン
1974 沢浩 第6回石田天海賞記念誌 不法建築 シークレット・インサート
1978 Doug Edwards Card Mania The Quad Switch 正面向きのファン
1982 John Carney Genii Vol.46 No.10 Oct Versa Switch
1982 John Mendoza Throwing the Switch
1984 Edward Marlo The New Tops Vol.24 No.7 July 4方法
1985 Fred Braue The Fred Braue Notebooks Vol.5 1936年 Secret Add
1985 Chris Kenner The Right Stuff by John Mendoza Throwing the Switch
1988 Sawa Sawa’s Library of Magic Sawa’s Handling of the Add On
1991 John Carney Carneycopia by Stephen Minch Versa Switch
1992 Chris Kenner Out of Control For 4 For Switch
2012 石田隆信 第55回フレンチドロップコラム シークレット・アディションの謎