第16回「良いか悪いか同じ動作の繰り返し」
中村安夫
石田天海『奇術演技研究メモ』より
「いまから六年前のこと、ロープを切ってつなぐ奇術が得意の某氏は長い一本のロープを持ち出して中ほどから切ってはつなぐ、またロープを二ヵ所切ったと見せてはつなぐこと六、七回を繰り返して、最初持って出た時の半分ほどの長さになったとわかる短いロープを持って引っ込んで行った。」
「奇術が奇術界の人に教えているものに三つの原則がある。
第一に、タネを言わないこと。
第二に、好まれても同じことを二度繰り返して見せないこと。
第三に、結果を言わないこと。
これらのことは、今さら言わずとも奇術を知っている人なら、自発的に守っている当然のことであろう。しかし、初心者だと、自分の知っているものを全部見てもらいたいという奇妙な気持ちも手伝って、奇術の掟にそむき、二回、三回と技の繰り返しをしたり、長時間やりすぎたりして、舞台をだらけさせてしまうことがある。腹八分目という言葉のあるごとく、奇術の技も、「もう一つ見せてもらいたい」と惜しまれて引っ込む潮時が大切である。」
【コメント】
天海師が最初に述べたロープの演技は、「それは東京のあるクラブの発表会のことで、私がアメリカから引き揚げて来た次の年のことであった。」という記載から、昭和34年(1959)のことであったと思われます。
続いて述べている「三つの原則」は、日本では、「サーストンの三原則」として広く知られているものです。私も大学のマジックサークルに入部したときに最初に教えられたのがこの「サーストンの三原則」でした。
(注)ハワード・サーストン(Howard Thurston ,1869-1936)は、20世紀前半に活躍したアメリカを代表するマジシャン
しかし、意外なことに「サーストンの三原則」の出所は長い間、日本奇術界で謎となっていました。その後、多くの奇術研究家が調査を進め、現在では、この謎は解明されたと考えてよさそうです。
松山光伸氏は(株)東京マジックのマジックラビリンスの記事の中で、以下の説が、もっとも信頼度が高いと述べています。
・1922年の“Thurston’s MAGIC BOX OF CANDY” が原典
(石田隆信氏が『ザ・マジック』第46号(2000年12月)に発表)
・日本で最初に翻訳紹介されたのは、TAMC会報(昭和12年12月号)で坂本種芳(天城勝彦)氏による「サーストンの奇術演出の三原則」(1937年)
(2021/6/13)
“第16回「良いか悪いか同じ動作の繰り返し」” に対して1件のコメントがあります。
コメントは受け付けていません。
石田隆信さんからコメントをいただきましたので、紹介させていただきます。