第10回「奇術と音楽」

Linking Ring 1953年9月号

中村安夫

石田天海『奇術演技研究メモ』より

「映画に音楽が必要なように、奇術にもまた音楽が必要なことは当然である。
しかし、音楽が鳴ってさえいればよいというのでは意味がない。かえって邪魔になる場合が多い。奇術用音楽には二つの考え方がある。一つは自分の奇術の動きを作ってから、それに合う音楽を組み立てる方法と、また逆に音楽のリズムに合わせて奇術を組み立てる方法とである。できれば前者が望ましい。」

【コメント】

天海師は最初は奇術師ではなく楽士だったことを「奇術五十年」を読んで初めて知りました。10代の頃から、映画館やキネオラマの見世物小屋でドラムやトランペットを演奏していたそうです。その後、天洋一座に加わったときは、司会、音楽、コミック、奇術、後見と幅広い役割を演じました。このような経歴から、天海師は奇術における音楽の重要性をいち早く気が付いたと思われます。実際に、オリエンタル風の曲をたくさん買い取り、自分の奇術に合うようにアレンジし、その曲をつなぐ編曲を専門家に依頼していたと言います。天海師がどんな曲を使って演じていたのかはとても興味がありますが、残念ながら聞く機会を得ていません。情報をお持ちの方は教えていただけると嬉しいです。
奇術と音楽の良い例として、チャニング・ポロックの「ヨーロッバの夜」(1959年)を挙げました。ちなみに天海師は、1951年(当時62歳)にカリフォルニア・サンノゼで開催されたPCAM大会「スタースオブマジック」にチャニング・ポロック(当時25歳)と出演しています。


(2014年12月1日)

(2021年5月7日追記)

私が「ヨーロッパの夜」のポロックの演技を初めて見たのは、1973年頃にTVで放映された映像でした。この演技の記憶はずっと私の脳裏に焼き付いていましたが、YouTubeで何度も再生できるのはとてもありがたいことです。音楽はカルロ・サヴィナ(Carlo Savina)作曲のMister Pollockという曲ですが、今年の2月にリマスターバージョンがリリースされました。

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