第20回「失敗を防ぐために」
中村安夫
石田天海『奇術演技研究メモ』より
「毎日毎日、同じ奇術を繰り返しているプロの奇術師でも、ときには失敗をする。まして三、四ヵ月に一回だけ演じるというアマチュアは、思いもよらぬところで、思わぬ失敗をすることがある。
そこで、私の失敗をご参考までに述べてみよう。
まず、多かったのは忘れものである。
マッチ、ハサミ、エンピツ、雑記帳というような、奇術を演じるにはなくては困る雑品である。マッチとか、エンピツ、巻タバコというような品なら舞台からお客に借りてすませることもできるが、ハサミはお客も持っていない。
次には、あらかじめポケットに入れておくべきハンカチをよく忘れることがあった。
特筆すべき忘れものは、客席の人に「一枚お抜き下さい、そのカードは私にカードの表を見せないようにして、あなたのポケットに入れておいてください」と渡したまま次の奇術に移ってしまうというミスである。また、「そのカードの数とスーツをこの白紙に書いておいて下さい。後の証拠のためです」といって渡したサインペンなども、つい受け取ることを忘れてしまう。このような仕事は後見の役目としておいた方が安全だろう。」
【コメント】
天海師は昭和32年(1957年)の帰国以来、アマチュアマジッククラブの発表会を頻繁にご覧になったり、熱心なアマチュアマジシャンに対して惜しみなく自分の奇術の技を伝授されています。
そんな中で、この稿ではアマチュアマジシャンにとって参考になるアドバイスをされています。
(2021/9/19)