第14回「司会者と舞台裏」

中村安夫

石田天海『奇術演技研究メモ』より

「奇術を成功させるには、出演者をはじめそのほかいろいろの要素が揃っていなければならないが、特に司会者の良し悪しが大きな要素を持っている。」
「奇術における司会者は、舞台と客席をつなぐ責任者である。」
「司会者は、いわば一軍における総司令官のようなものだ。」
「奇術大会の司会者は、やはり奇術のできる人を選ぶのが適当だと思う。思わぬミスや、出演者が急に出られないときなどの穴うめはやはり司会者の腕と頭の働きである。」

「アメリカのユニオン（組合）の実情を知ってもらうために、ここで面白い実話を一つ記しておこう。テレビで放送された「アラカザンの魔法」という番組の中で奇術師の相手にコメディアンが出演していた。この番組で、アメリカのボードビルに出演する奇術団の内にある場面に奇術師の相手になって出るコメディアンがバイオリンをちょっと弾くところがあった。しかし、そのコメディアンは楽士のユニオンカードを持っていなかったが、ほんの一、二秒だけバイオリンを弾くのだからというのでユニオンには知らせずにいたのだ。三日目の夜、これからバイオリンを持って舞台に出ようとするところへ、二名のユニオンメンが楽屋に入って来て「ユニオンカードを見せろ、なければ舞台に出なさい」という。すったもんだの末に劇場のマネージャーが仲に入って、今夜中に入会金を払うということでなんとか収まった。そのころの入会金は、百ドルであった。」

【コメント】

マジックショーにおける「司会者と舞台裏」について書かれた文献は少ないので、とても興味深く読みました。天海師は天洋一座時代に、司会経験があり、アメリカ時代には数多くのマジック大会に出演していますので、その経験談がいろいろ書かれています。
文中に出てくる「アラカザンの魔法(The Magic Land of Allakazam)」という番組は、1960年から1964年にかけてアメリカで放送され大ヒットしました。この番組により、マーク・ウィルソン(1929.4.11～2021.1.19)は全米No.1の知名度を持つマジシャンになりました。
日本でも1962年～1964年4月頃にTBSテレビ系列から放送されました。残念ながら、私が小学生の頃で見た記憶はありませんでしたが、2年前(2019年）にこの番組のオープニングシーンがDC Video社によってYouTubeで公開されていたことを見つけました。以下の貴重な映像は1960年9月20日に収録されたビデオテープをデジタル化したものです。

この映像にクレジットされていた”allakazamarchives.com“を調べると、すごい情報に出会いました。2年前（2019年)に、息子のグレッグ・ウィルソン氏とその仲間により、アラカザンアーカイブプロジェクトが一般公開されていました。The Magic Land of Allakazamのすべてのアナログ映像と関連情報をデジタルアーカイブ化し、閲覧できるようにする計画です。
この映像を視聴するには以下の会員になる必要があります。

■Allaka-Fan Club（アラカファンクラブ）：無料
■Allaka-Magic Club：$4.95/月
■Allaka-V.I.P.Backstage Pass：$14.95/月
■Exclusive Allaka-All-Access Passport：$49.95/月

私は早速、無料会員に登録しましたが、特典として1961年4月29日放送の第31話の映像を1本だけ視聴できました。
なお、現在、第38話までアーカイブされていますが、今年の1月19日にマーク・ウィルソン氏が逝去されたため、現在、次の更新が保留されています。

ところで、私は奇妙なことに気が付きました。「アラカザンの魔法」が放送されたのは1960年（昭和35年）ですが、天海師が34年間のアメリカ生活を終えて、日本に帰国したのは1958年（昭和33年）ですので、天海師はこの番組をアメリカでは見ることができなかったはずです。文中では、アメリカの奇術大会での体験談も書かれていましたので、私はてっきり、アメリカでこの番組を見たときの体験談だと思い込んでいました。

そこで、この疑問を石田隆信氏に投げかけると、「「アラカザンの魔法」の話は面白い実話として紹介されているので、体験談ではなく誰かから聞いた実話のようです」という答えが返ってきました。
たしかに、本文を確認すると、「面白い実話」と書かれていました。
本をお持ちの方は、是非読み直してみてください。このように、この本は意外な発見があり、何度でも楽しめます。

（2021/5/30）

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